【緋彩の瞳】 人魚殺人未遂事件 ⑤

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

人魚殺人未遂事件 ⑤

「あ、神社」
「坂道登ったら神社があるんだね」
一目散に逃げた後、2人は手を繋いで坂道を登り、大きな赤い鳥居を見つけた。ママのいる場所からは遠く離れてしまった。来た道を戻れば家にはちゃんと帰ることはできるけれど、あの高校生たちがどこにいるかわからないし、人魚があの高校に通っていることはわかったから、明日待ち伏せして、1人になるタイミングを狙えばいい。
背負っているランドセルの中には、学校の家庭科室から盗んできた包丁が入っている。
殺した身体から肉を切るって、どういう風なことなのだろう。
美咲は想像できなかった。焼いているお肉をフォークとナイフで切るのとは、全然違うのだろう。
「ねぇ、お参りする?」
「お金ないよ」
「子供はタダだよ」
千尋は動物園の入場料かなにかと間違えているみたい。神様にお祈りしたって意味がないから、人魚を殺そうとしているのに。
人魚を殺しても、人魚は人間じゃないから大丈夫。だから、警察にだって捕まったりしない。
あの高校生は、絵本で見たことのある人魚と同じだった。
やわらかそうな髪と、綺麗な顔。足はきっと、海の水に濡れたら人魚になるんだろう。
平日の午後、神社は人が全くいなくて静かだ。千尋がその静けさを壊すように鈴を鳴らして、大きな音を立てて手をたたく。
「人魚を捕まえられますように」
美咲は強く願った。何も悪いことではない。本当に足りないのは勇気だけだ。居場所だって案外簡単に見つかったし、そういう意味では運というものはあると思う。
だけど、怖いと言う想いもある。あの人魚と目が合った瞬間、全身が震えたのはなぜなのかはわからない。
「ママの病気が治りますように」
「千尋、それはもう叶わないから、人魚を捕まえないと」
「……そうだった」
神様なんかに縋っても、どうしようもないことだってある。いや、神様なんかいないって、ママが証明している。神様がいたのならば、ママが病気になったりしないのだ。
「うわっ…カラス!」
「しっ!」
決意のお祈りをして振りかえると、足元にカラスがいた。美咲が千尋をかばうようにして、足で蹴るフリをしても、鳴きもせずにじっとこっちを睨んでくる。本当に蹴ると襲ってきそうで、2人は手を繋いで神社から逃げ出した。赤い鳥居をくぐりぬけるときに、凄く綺麗で髪の長い女の人とすれ違った。



「下手くそな尾行だよな」
「小学生が上手に尾行してたら、怖いわよ」
「これを1週間続けていてもみちるを襲ってこないのは、なぜだろうね」
「……はるかがべったり私の傍にいるからでしょう」
朝の登校時間帯、学校付近になるとわずかな殺意を感じる。女の子たちがずっとみちるをつけている。そして放課後になれば、校門の近くで待ち伏せをしている。家まで尾行されないように、まっすぐ帰らないで、喫茶店などで時間を潰している。小学生というだけあって、17時を過ぎるとしぶしぶと姿を消してくれる。だから安心と言えば安心。
たぶん、みちるが1人になるタイミングをずっと狙っているのだろうけれど、事情を知ったはるかがべったりとくっついて離れてくれないから、一向に襲って来てはくれない。
別に襲われたいわけじゃない。ただ、目的をはっきりさせてくれないと、打開策が見つからない。
「みちるを襲ってきたら、守るのが僕の仕事だからね」
「小学生に手を上げられると?あなたが?」
「そりゃぁ、みちるを守るためなら仕方がない」
その割には、はるかから本気をうかがうことはできない。あの尾行の下手な子供たちがどこまで本気かと言えば、はるかが能天気になる気持ちもわかる。みちるも、例えあの子たちがゴルフクラブを振り回して襲ってきたとしても、余裕で勝てる自信がある。

「お~い、みちるちゃん」

今日は仲間全員、火川神社で中間テストのための勉強会と言う名の集いがある。みちるたちは頭の悪い子たちにコンコンと数学を教えなければならない。御褒美を与えなければ何もしようとしないうさぎたちのために、はるかとみちるは夕食の食材を買い込んで、長い坂を登ろうとしていた。
「あら、おじいちゃん」
「なんじゃ、うちに来るのか?」
レイのおじいちゃんと同じスーパーから出てきたところで、ばったりと出くわした。また、お煎餅ばかり買い込んでいて、見つかったらレイに怒られるのに。
「みんなでテスト勉強をするの」
「そうかそうか。あぁ、そういえばこの前、深美からイタリアのお土産だと、ようわからん乾燥したキノコをもらったわ。レイに聞いても調理方法なんて知らんと困っておった。深美は相変わらず土産物のセンスがないのぉ」
レイがポルチーニ茸を持って家に遊びに来て、何か作ってと言ってきたのは、2週間ほど前のことだ。もらったものだと言っていたけれど、ママからなんていうのは聞いていない。
「ママが神社に直接持ってきたの?」
「あぁ。たまに顔を覗かせてくれるけれどな。レイにちゃんとご飯を食べさせているか、なんて聞いてきおって」
レイの許可がないと勝手に入れないのはみちるだけとは、どういうことだろう。
「ふーん、そうなの」
はるかは何か聞きたそうな顔をしながらも、知らないフリというか、黙って話を聞きながら色々と想像をしているようだ。何も聞いてこないから、何も言わない。
レイとどういう関係?っていうのは、昔1度だけ聞かれた。
色々な事情があって、今は言えない。相手のこともあるから。
その言葉の意味を、ずっとはるかなりに考えていてくれていると思う。大きな戦いも終わり、平和な世界を生きてゆく上で、もう誰が一番だとか、誰を守らなければとか、そういう使命から解放されたのだから、話すタイミングではないのか、と思うこともある。
「おじいちゃん、荷物持ってあげようか?」
はるかはみちるに学生鞄を預け、おじいちゃんのビニール袋を受け取り3人で坂を歩いた。慣れ親しんだ坂道。背後の子供たちは、下手くそな忍者みたいについて来ている。
「………まぁ、いいわよね」
みちるなりに人魚にまつわる伝説を調べたけれど、とりあえず死んだ人を蘇らせることはできないようだから、あの子たちがみちるに何を望んでいるのか、どうしたいのか、全く分からない。不老不死にしたい人がいるとしても、なぜそうしたいのかもわからない。
何かあっても、レイが助けてくれるだろうし。
隣にいるのに、みちるには頼もしいパートナーが全くあてになりそうにないということはわかっていた。1週間、ずっとフォボスがみちるを見守っていることも、まったく気が付いていないようじゃ、役に立ちそうにない。





おじいちゃんと、いつも一緒にいる女の人と境内の裏にある家の方へ向かっていく。
ここに住んでいるのかもしれない。一度も住んでいる場所を確認できなかったから、やっと今日、知ることができた。でも、今日も人魚は1人になってくれなかった。
「ダメだね」
「うん」
千尋が残念がるから、美咲は悔しそうにうつむいた。急がないといけないのに。
「もう帰る?」
「うん。………あれ?」
人魚が携帯電話で誰かと話をしながら、1人で玄関から出てきた。
広い境内の、何にもさえぎるもののない場所で立ち尽くして、携帯電話での会話に夢中になっている。
「お姉ちゃん、あの人1人だよ」
「わかってる」
やっと訪れたチャンスだ。相手は携帯電話しか持っていない。
「千尋が代わりにやってあげようか?千尋も鋏持ってるよ」
千尋が持っているのは普通の鋏だ。怪我をさせられても、きっと殺せはしないだろう。
「そんなことさせられないよ。千尋は後ろからついて来て」
「うん…。わかった」
家の中にある人を殺せそうなものを探していて、裁縫箱の中から見つけた布切鋏。大きくて鋭くて、心臓を突き刺せばきっとあっという間に死んでしまうだろう。血もたくさん出てくるに違いない。
両手で握り締めた鋭利な鋏。勢いをつけて走って体当たりしたら、ぐさっと突き刺さる。
そして、死んだら鋏で人魚の肉をもぎ取るのだ。
無防備な背後を狙って、美咲は鋏を握りしめて走り出した。
神様が祀られているとされている場所で、人魚を殺すのだ。



ママを助けるのだ。




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Date:2014/03/28
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