【緋彩の瞳】 人魚殺人未遂事件 End

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

人魚殺人未遂事件 End

「子供泣かせるなんてね~。よっぽど変身して子供を助けようかと思っちゃったわ」
レイちゃんの放った殺意を察した美奈子は、慌てて外に出た。そこにはみちるさんと“あの”子供たちがいて、ちょっと離れたところにレイちゃんがいた。弓矢を構えている姿からは言いようもない殺意が見えていて、簡単に割って入ることは許されないと悟った。レイちゃんが子供の持っている鋏を目がけて矢を放つ。
空にはフォボスとディモスがいて、美奈子に近づくなと警告を出していた。
見守っている方がいい、と。
みちるさんがレイちゃんのことを“最愛の幼馴染”と言っているのを聞いて、やっと2人がどういう関係なのかを知った。そして、レイちゃんがみちるさんを守るためなら子供の1人や2人平気で殺せるということも。レイちゃんが正々堂々と“大事な人”と言い放つ関係なんて、ちょっとうらやましい。
「人んちで刃物を振り回すから、お灸をすえてやったのよ。何、あんた見てたの?」
レイちゃんの肩にとまっていたフォボスとディモスは美奈子の姿を確認して、すぐに傍を離れて行った。子供にはまだまだカラスっていうだけで恐怖感は倍増だったみたい。
「子供の泣き声がしたから、出てきただけよ」
「あら、はるかは何をしていたの?役に立たないわね」
みちるさんの携帯電話が鳴ったのは、レイちゃん以外の全員が揃ってすぐだ。ちょっと事務所からの電話だから、なんて言って、みちるさんは部屋を出て行った。はるかさんは疑いもせずに見送って、美奈子も違和感なく見送った。まさか、こんなことになっているなんて思ってもみなかった。
「レイちゃんがみちるさんを電話でおびき寄せたんでしょ?」
「さぁね、何のこと」
「みちるさんも、狙われているのに無防備な格好で出て行っちゃって。これは2人の作戦だったわけ?」
レイちゃんは肩をすくめて、何事もありませんでした、みたいな態度だ。
みちるさんは同じように肩をすくめているけれど、ちょっと違った。
「私のことを本気で殺そうとしていたなんて、想定外だったわよ。むしろ、はるかが出てきてくれなかったのが残念でならないわね」
遅れを取ってしまっていたはるかさんは、気まずいと言わんばかりに、さっきから黙って美奈子の背後に隠れている。
「いや……レイの殺気が凄くて。子供の方を助けようかと悩んだくらいだ」
「情けないんだから」
レイちゃんはあくまでも何事もなかったかのようにしていて、鋏と弓矢を回収すると、さっさと歩いていこうとする。
「ねぇ、あのさー」
「………何?」
「幼馴染って本当なの?」
レイちゃんはムスッとしていた。みちるさんは美奈子やはるかさんが視界にいるのを知っていて、わざと言ったに違いない。あれだけ2人してだんまりを決め込んでいたのに、何か心境の変化があったのかもしれない。戦いのすべてが終わったから、とか。
「余計なことを口走って、馬鹿」
「ねぇねぇ、だからみちるさんの実家のこともよく知ってたんだよね?」
「さぁね」
「まぁ、いいや。みちるさんの無防備は、レイちゃんに対する絶対的な信頼があるからだっていうのはわかったし。レイちゃんの本気も伝わったし」
うらやましいな、って思ったことはレイちゃんには言えない。みちるさんの立場に美奈子が立たされたら、レイちゃんは自分で解決して、って言って何もしてくれないだろう。
意地っ張りなレイちゃんが、大事な人だと声に出せるくらいなのだから。
レイちゃんと一心同体のフォボスにみちるさんを監視させてまで守ろうとしていた。そのことについて何も言わなければ、仲間に協力を頼むこともしない。
そうまでして、子供相手でも容赦しなかった。ある意味レイちゃんらしいんだ。

「レイ」

みちるさんはレイちゃんの背中に声をかけた。
名前を呼んだだけなのに、そこには大切な人を想う感情が確かにある。

「何?」
「ありがとう」
「………別に」
「あの子たちにも、お礼を言っておいて」
みちるさんは空を指した。フォボスとディモスがゆっくりと飛んでいる。
「2人は何もしてないわよ」
みちるさんのことをずっと守らせていたくせに。
「そう?まぁいいわ」
みちるさんとレイちゃんは、あの小学生のことを2人でどれくらい話しあったのだろう。この計画をどれくらい前から考えていたのだろう。レイちゃんのそっけなさは相変わらず。みちるさんもこれ以上何も言うつもりもないみたいだし、はるかさんと顔を見合わせてため息を吐くしかない。



「調べたんだ。一応さ、人魚ってみちるさんの名前を出しちゃったのがきっかけだし。悪いって思ったし、人魚を探している理由も知りたいし」
レイちゃんはクラウンにまだ来ていなかった。美奈子はみちるさんたち十番高校メンバーたちに、あの子たちがなぜ人魚を探していたのかの調査報告会を一足先に開いていた。
「お母さんがガンなんだって」
「……そりゃ、かわいそうに。でも、人魚ってどうしてだい?」
まこちゃんは腕を組んで天を仰いだ。親を失う悲しみをよく知っているから、みんなも空気は重たい。
「人魚の死肉を食べると、不老不死になるという言い伝えがあるのよ。助からないのなら、死なないようにするっていう考えがあったんじゃないかしら。吸血鬼でもいいって言っていたのも、同じ理由でしょう」
みちるさんは自分が狙われていたくせに、何の恐怖もありませんと言った感じだ。
殺して、肉体を切り刻もうとした子たち相手に、余裕しゃくしゃくだったんだから。
「お母さんのガンはどれくらい進行しているのかしら?どうにもならないの?」
医者を目指しているだけあって、亜美ちゃんはいたって冷静だ。救える命を医療で助けたいというのも、彼女らしくて頼もしい。
「いや、それがね。詳しく調べたらさ、どうも怪しい新興宗教の教祖だか何だかに言われたらしいのよ。医者に診てもらったわけじゃないんだって」
「んじゃ、ガンかどうか医者に診てもらっているってわけじゃないんだ」
まこちゃんが希望があるといった声をあげた。暗い空気も明るくなる。
「ないみたい」
美奈子はテスト勉強もあまりやらないで、このことばかりを調べていた。
赤点が怖くてレイちゃんのパートナーなんてやってられない。
「それ、レイには伝えたのか?」
「うん、昨日伝えた。特になんの反応もなかった」
レイちゃんは美奈子がびっくりするくらいそっけなかった。もう、関係ないって言う感じで。人情あるくせに、やっぱりみちるさんを殺そうとした相手のことなんて、どうでもいいのかな、と思った。
「美奈子ちゃん、今朝の新聞を読んだ?」
「は?」
「今朝の新聞よ。とある宗教団体の教祖の邸宅で火事が起こったっていう記事」
亜美ちゃんはものすごく真剣な目つきで、美奈子をとらえている。勉強会をサボタージュして怒られているような気分になるくらい。
「美奈子が新聞を読むと思うか?」
「はるかも読まないでしょう」
そんな夫婦のセリフはどうでもいい。火事っていったいどういうことだろう。
「亜美ちゃん、それって、その宗教団体のことかな?」
「出火元は不明、放火の疑いが強いとされているけれど、それも不明。ただ、そこに住んでいる人が言うには、火のついた矢がいきなり部屋の中に飛び込んできたっていうの。でも、どこを調べてもそんな穴も残っていないし、痕跡もないらしいわ」
住んでいた人間は全員無事だったらしいが、元々詐欺まがいのことや、高額な数珠の押し売りをしたり、医者の免許もないのに医療行為をしたなんていう噂もあったり、相談が警察に相次いでいて、要注意マークだったらしい。警察は出火原因を調べるついでに、いろんな詐欺の証拠を見つけたらしく、おそらく逮捕されるだろう、という見方があるとか。そのあたり、今の時間帯のワイドショーがこぞって特集を組んでいるはずだって。

「…………まさか」
うさぎが呟いた。

「そんな、まさか」
亜美ちゃんは否定の意味だと思う。

「いや、レイちゃんならやりそう」
まこちゃん、それはどういう意味。

「火をつけるって、犯罪でしょ?」
確認するように、美奈子は呟いた。

「証拠がなければいいんじゃない?」
何をさらっと、みちるさん。

「いやいや、でもさ」
はるかさんは、冗談であって欲しいというような、情けない声だった。

「というより、美奈子ちゃん。レイちゃんに話したのは昨日なのでしょ?火事があったのは一昨日の夜のことよ」
「……まさか、レイちゃん、すでに色々と知ってたのかな?」
亜美ちゃんは情報を知らないレイちゃんが火を放つ理由がない、と言いたいようだったけれど、果たして美奈子が調べるよりもずっと早く、レイちゃんは調査を完了させていた可能性はないのだろうか。
「みちる、レイから何か聞いてる?」
「いいえ。第一、あの時、私は事前打ち合わせなんて何もされずに、携帯電話で呼び出されたのよ。電話以外、何も持たずに境内のど真ん中に立っていなさいって。あの子たちの事情だって、今初めて聞いたわ」
みちるさんの言っていることは嘘じゃないだろう。その割には驚いた様子も見せないから、レイちゃんの好き勝手し放題にはすっかり慣れているんだと思う。
「みちるさんはレイちゃんだと思う?」
「レイでしょ」
みちるさんは間髪いれずに言い切った。
「これでもう、私は人魚なんて言われることも、後をつけられることも、鋏で襲われることもないし、あの子たちのお母様も不幸にならずに済むわね」
レイちゃんが1人であの子たちが何者なのか、何をしようとしているのか、背景に何があるのか、全部調べていたなんて。
「……何よレイちゃん、私が一生懸命調べたっていうのに、全部知ってたんなら言ってくれたらいいじゃん」
美奈子の呟きにみんなが憐れみのまなざしが返ってくる。自動扉が開く音とともに、噂の人物がやって来た。
「レイちゃん」
美奈子は席を詰めようとしたけれど、隣に座らずにみちるさんの横に腰を落とした。そりゃ、そっちのスペースも空いてるわよ?でも何よそれって思う。
隠していた理由は聞いていないけれど、幼馴染だと言うことがばれた瞬間から、もうレイちゃんはどうでもいいって言った感じ。
「宇奈月ちゃん、レイにアールグレイをお願い」
いやいや、レイちゃんのメニューを勝手に決めていいのかな、みちるさん。
ほら、眉をあげて無言でみちるさんを見てますよ。あれ、でも文句は言わないんだ。
「レイ、今朝の新聞を読んだ?」
「あぁ、人工授精でホワイトタイガーの赤ちゃんが生まれたらしいわね」
何のニュースよ、それ。
美奈子は心の中で突っ込んだ。きっとみんなも心の中で突っ込んだに違いない。でも、割って入れなかった。
「名前を全国から募集するみたいね。レイっていいと思わない?」
いやいや、ボケをボケで返すってさ。
「オスでしょう?」
「いいじゃない」
「お好きに」
「やめておくわ。放火するような悪い子になっちゃうのも嫌だから」
「”原因不明“でしょ」
あーぁ、レイちゃん。やっぱりレイちゃんが火を付けたんだ。
みんなの揃ったため息が、レイちゃんの前髪を揺らしたように見えた。
「優しすぎるから……心配なのよ」
みちるさんはそう言って、ボケ同士の短い漫才をぶった切った。
「ふん」
レイちゃんは、みちるさんという幼馴染を狙った子供を怖がらせたばかりでなく、その悩める子どもたちを人知れずに救ってあげたのだ。鋏で殺そうとした本気は、警察に突き出しても構わないくらいだった。だけどそれを許し、そう言う行動をさせた奴らを火あぶりにするなんて。
美奈子は警視庁の若木さんに電話をしようと思っていたけれど、レイちゃんの行動力には恐れ入ったものだ。

そう。レイちゃんは優しい。それがときどき美奈子を不安にさせる。

みちるさんとレイちゃんが2人の関係を周りに打ち明けなかったのは、その優しすぎる性格故なのかもしれない。
たとえば、周りに気を使わせたくないとか。プリンセスと両天秤に掛けてしまうとか。
美奈子と天秤に掛けたら、どっちが傾くのだろうか。そういうことを美奈子が思うだろうと思って言えなかったのかな、と思う。と言うことは、みちるさんに傾く可能性は高いんじゃないかな。
「なぁ、レイ。みちるって小さい頃どんな子供だった?」
「………は、る、か」
渦潮の音が聞こえた気がする。
怖い。
炎よりも荒れた海が怖い時もある。でも、知りたいとも思う。同じように、レイちゃんの小さかった時のこと。
「いや、だってさ。知りたいじゃん」
「はるかさんの千年の恋も冷めるようなことを、私は言えない」
「レイ、自分のことを棚に上げた発言はおやめなさい」
「さぁ、どうかしら?」
いいな、レイちゃん。
凄く楽しそう。今までみちるさんとの関係をずっと黙っていたことは、それなりにストレスだったに違いない。レイちゃんが大切なもの全て、美奈子だって大切だから。
それにしても、そっちがオープンになったのなら、美奈子との関係だって大声で言ってくれてもいいのに。どうせ、みんな知っているんだから。

そんな日は、きっとまだまだ先なんだろうけれど。





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Date:2014/04/05
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