【緋彩の瞳】 ひとりでできるもん

緋彩の瞳

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ひとりでできるもん

「2人とも、いい加減に目を覚ましなさい!レイ、どうしてこっちのベッドにいるの?!」
朝食の用意をするのは、みちると美奈子の曜日別当番制になっている。とはいっても、美奈子は土日を担当していて、学校に行く日は基本的にみちるが朝食を作り、2人のお弁当まで入れてやっている。嫌だとか、面倒くさいとかそういう感情はない。これはみちるがやりたくてやっていることだから。
「…………った~~。もぅ、レイ!重い!」
やかましいほどの目覚まし時計を2つ鳴らしていても、美奈子は起きない。レイは起きない美奈子にひっついたままだ。みちるは次女の頭を叩いた。
「レイ、いつまでも美奈子にひっついていないで。ほら、顔を洗ってらっしゃい」
三女にだってベッドを買い与えている。2人部屋にしているけれど、ちゃんとそれぞれに机とベッドをあてがっていて、高校生の美奈子は幼稚園のレイのお守り兼遊び相手。
「ほら、早く」
「ちーちゃん、お腹空いた~」
美奈子から引っぺがしたら、今度はみちるに両手を広げて抱っこをねだる。レイは甘えん坊だ。「もうすぐできるのよ。顔を洗ってお洋服を着替えない子は、朝食抜き」
ぷっくりした愛らしい頬にキスをひとつ。黒髪に子供用シャンプーの匂い。
「じゃ、美奈ちゃんはないんだ」
「起きるわよ~。レイ、あんたまた私の布団に忍び込んだわね」
「寒いんだもん」
「いい加減、自分のベッドで寝な」
「ベー!」
レイはみちるの腕からするりと抜けて、小さくて赤い舌を出した。廊下を走る足音がバスルームへと吸い込まれていく。みちるは特大のため息を吐いて、二度寝の体勢を取ろうとする美奈子の頭をさっきより強く叩いた。
「美奈子、レイをベッドに入れないようにって言ったでしょ?」
「いつの間にか入ってくるんだもん!寝かせた時はあっちにいたわよ」
「レイはもうすぐ5歳よ?自立心を養うために、1人で何でもさせるっていう約束は?」
「だから~、あっちが勝手に入ってくるんだってば」
「……もうっ」
最近のみちるの悩みの種は、レイの甘えん坊だ。みちるにとっては美奈子もレイも平等に愛しく大切な妹たちだが、やはり一回り以上年下のレイには情けないことに弱いし甘い。両親の愛を一番欲しがる時にいなくなってしまったのだ。だから、甘やかすことはある程度仕方ない、なんて思いながらも、だからこそレイには強くたくましくなって欲しいと願ってやまない。
「おねぇ、そこでぼっとしてていいの?お弁当入れたの?」
「はいはい」
可愛くない次女。制服に着替える亜麻色の髪を引っ張って頬にキスをしたあと、でこピンをお見舞い。
「った~!」
「明日レイがベッドにいたら、毎日お弁当のおかずはしいたけしか入れないわよ」
「どうせおねぇでも、ほいほいベッドに入れるに決まってるわ」
自信がないから美奈子にやらせているというのに。レイには1人部屋はまだ早いし、何より今のマンションは防音室を作っているため、部屋を作ってやるわけにもいかない。ここは心を鬼にして、レイを自立させなければならない。


「ふーん、レイちゃんと毎日一緒に寝てるんだ」
「親がいない分それくらいはって思うんだけどね。冬はちっこいの抱いてると温かいし、別に夜泣きするとかでもないし」
放課後、クラスメイトのまこちゃんと一緒に、レイを幼稚舎に迎えに行くと、その足でおねぇに頼まれていた買い物へとスーパーに向かった。“必ず買ってくるもの”と赤字で書かれているところに、「しいたけ×2」と書かれてある。買わない場合はどういうお仕置きが待っているんだろうか。
「レイちゃん、こんなに可愛いんだから、一緒に寝るくらいはいいんじゃないの?」
「甘えん坊を少しでも治したいのよ、おねぇは。親がいないから甘やかして、って周りの人間に言われたくないんじゃない?外に出ると人見知りで、自分から何もしないし。親心みたいなもんでしょ」
美奈子の手をしっかり握りしめて、レイはスキップする勢いだ。お菓子を買ってもらえるって思っているに違いない。
「いいよな~。お姉ちゃんは美人でヴァイオリニスト、妹も将来絶対美人になるだろうし」
「何よ、まこちゃん。私は美人じゃないとでもいうわけ?」
「いやいや!そうじゃなくて。1人暮らしの私にはないものだって言うことだよ」
同じように親がいなくても、まこちゃんには妹もお姉ちゃんもいない。朝起こしてくれる人も、お弁当を入れてくれる人も。
「もらってくれる?」
「いいの?」
繋いだレイの手を差し出してみると、キラキラした瞳で両手を差し出された。
「レイ、まこちゃんの妹になる?!」
「うん。美奈ちゃんみたいに料理まずくないもん!」
美奈子の手を振りほどいて、まこちゃんに抱っこをねだる我が妹。鼻の下のばしているまこちゃんに、買い物の間は押し付けてしまおう。

「美奈ちゃん、あれ!あれ欲しい!」
デレデレと鼻の下を伸ばしているまこちゃんにお菓子を買ってもらい、上機嫌のレイ。お菓子を自分のお小遣いから買わずに済んだ美奈子も上機嫌だ。
レイがまこちゃんに繋がれた手を放して、何やら声をあげた。
「あぁ、レイ。あれは売り物じゃないわよ。福引で当てないともらえないのよ」
レイが指を指したのは、福引の一等賞に飾られてある大きな人形だ。
レイと同じ大きさくらいのセーラーV。
「ふくびき?」
「うん。ガラガラをまわして、金色の玉が出たら持って帰れるのよ」
「美奈ちゃん、やってよ」
クジ運の悪さは自慢じゃないが、何度も何度も回して、ポケットティッシュを1カ月分くらい当てたことがある。美奈子は無理!と声をあげた。
「そう言えば、さっきのスーパーで引換券をもらったから、1回はチャンスあるんじゃないか?」
「じゃぁ、まこちゃん引き当てる自信ある?ダメだった場合責任とってくれる?」
すでにお菓子を買わされているまこちゃんは、ちょっと嫌かなと言って笑っていた。
「レイ、あんた回しなさい。自己責任よ」
「じこせきにんって何?」
「つまり、当てられなかったらレイが悪い」
「……美奈ちゃん、大人のくせに」
「私は人形なんて欲しくないんだから。2等のレトルトカレー1カ月分の方が良いに決まってるでしょ」
「ちーちゃんがそういうのは、食べちゃだめって言ってる」
だから、別にどっちがいいかって言う問題なわけで。3等のトイレットペーパー3カ月分よりずっといいじゃん。美奈子はレイに引換券を渡し、回して来いと命令した。
「うちの妹さー、こういうので当てちゃうんだよねー」
「当てちゃったらさ、お姉さん怒らない?」
「あーー。どうなんだろうねぇ。レイが当てたっていうのなら、怒らないんじゃない?」
人見知りのレイはうつむきながら腕を伸ばして、引換券をおばちゃんに渡したけれど、回すには背が足りない。
「美奈ちゃん!」
「はいはい」
ここで、前にいるおばちゃんに助けてって言えばいいのに。美奈子はよっこらしょって妹を抱きあげた。
「……あんた、本気で当てるつもりなんだね」
レイは何やら真剣に手を合わせてお祈りしている。カトリック系の幼稚舎に通わせているはずなのに、その姿は神様にお願いなんていう可愛げのあるものじゃなかった。




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Date:2014/04/12
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