【緋彩の瞳】 愛していると一言

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

愛していると一言

このオルゴールを聴けば、大好きな人を忘れる。

手に入れたそれで、プリンセスであるうさぎがエンディミオンのことを忘れてしまえばいいと、心から思った。彼女とエンディミオンがもたらす世界の破滅をそうすることで回避できるに違いないと。

でも。

「マーズ…」

いまだに前世を思い出すどころか、戦うことさえ躊躇っている彼女。
プリンセスを守り、この星を救うという使命を全うしようと思う心に、躊躇いの石を投げかけるその存在は、心の水面にできる何重もの輪をいつまでも消してはくれない。
それどころか、使命に全うすることに疑問を投げかけて、必死に忘れようとしている愛情を蘇らせようとする。

あぁ、かつて恋に落ちて溺れて、自分を見失ったのはプリンセスだけじゃなかった。
いつも挨拶代わりに彼女の唇を塞ぎ、愛しているの代わりに彼女の体を愛で、彼女が喜ぶ顔を見たくて、必死にプリンセスをお守りし、戦って生きてきた。

そう。
本当はプリンセスのためだとか、星を守るだとかそういうものすべては単なるこじ付けで。
ただ、彼女を愛する自分の糧にしか過ぎなかった。すべては愛するマーズのためだった。

それなのに。
前世の続きを生きている美奈子と、現世のために生きているマーズの間には何も生まれてこない。
どれほどにこの体のすべてがマーズを知っていたとしても。
彼女は何も知らず、思い出さず、それなのに「生きろ」という。

このオルゴールの蓋を開けて悲しみのメロディを耳にして、すべてを忘れてしまおうか。
彼女の体温も。彼女の愛しているの囁きも。

「マーズ…」

使命を全うした頃にはもう、この体は滅んでしまうはず。何のためにこの世界を生きているのか、結局本音を誰にも打ち明けないまま。
彼女を欺いたまま。自分を欺いたまま。

「想い出して…もう一度だけ、愛していると一言…」

囁いてほしい。
そして囁いてあげたい。

オルゴールの蓋を開けてしまえば、愛を忘れることができる。そして残された命のすべてをプリンセスのために使い切ることができる。

「…マーズ、マーズ…」

震える指先は失う愛の強さに負けて、そのメロディを紡ぐことを許してはくれない。
いつまでも、たとえ何度生が繰り返されたとしても。
この魂は彼女を忘れることを許してはくれない。




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Date:2014/04/10
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