【緋彩の瞳】 In the dark

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

In the dark



誕生日に何をして欲しい?


みちるさんから聞かれても、ただ、一緒にいてくれたらそれでいいとしか思いつかなかった。

「傍にいて」
「当たり前よ。そうじゃなくて、どこかに行きたいとか、欲しいものとかは?」



誰もいないところに連れて行って
誰も足を踏み入れたことのないところ
この世にはみちるさんだけしかいないと思わせてくれるところ


「困らせてくれるんだから、本当……」
ため息と一緒に小さく揺れた柔らかい髪
「楽しみにしておくから」
「……眠れない日が続きそうだわ」
みちるさんはどんな場所へ連れて行ってくれるのだろう

空高い場所なのか
深い深い海の底なのか
森の奥深くなのか

それともこの世の果てなのか



「……想像とは違っていて?」
「海だろうな、っていうことは何となく想像していたけれど」
誕生日当日の夜。
昼過ぎに車で迎えに来てくれたみちるさんに連れてこられた場所は、山奥にある海王家の所有するコテージだった。誰もいないプライベートビーチに連れて行ってくれるのかしら、という想像とは違う方向へ突き進む車は、舗装している道路を抜けた後砂利道を進んで行く。
「電気と水道はちゃんと繋がっているし、ガスも使えるわ」
「……なんでも持っているのね、みちるさん」
東京を出て3時間、辺りは夕暮れに差し掛かっている。今日使うことを想定していたのか、部屋の掃除は行きわたり、必要なものも食料も全て揃っている。
「家にある防音室で練習し続けるとね、たまに息苦しくなるの。ここは静かだし、周りに家も街灯もないし、世界から遮断されたところみたいだから、何も考えずに練習ができるのよ」
「そっか。なるほどね」
手料理を御馳走してくれるというので、レイは手伝わずにじっとみちるさんが対面キッチンで楽しそうに料理を作る顔を眺めていた。テレビはなくて、音楽をかけるプレイヤーもない。そして、時計がどこにも見当たらなかった。静けさの中でみちるさんの包丁の音や、水道の音、わずかな冷蔵庫の音、風が草木を撫でる音。そう言うのがとても繊細に耳に聞こえてくる。

「おめでとう、レイ」
「ありがとう、みちるさん」
シャンパングラスを鳴らす音が高く響いた。
「静かな場所ね」
「気に入っていただけたかしら?」
「うん。静かで何もなくて、気持ちいい」
窓の外は深い森の奥で、人工的な明かりが入ってくる心配もなかった。静けさに酔いながらゆっくりとみちるさんの手料理を味わう。
「ずっとここにいたら、みちるさんだけの世界になる?」
「さぁ。レイはあの子たちと切り離された世界に長くいられないでしょ?」

あの子たちと言われて、うさぎの顔がぱっと思い浮かんだ。
過去も未来もこの命すべてを捧げると、純潔を誓ったのはあの子にだけ。

「……でも、みちるさんだけの世界なら……それでもいいわ」
目が泳いでいることを自覚しながらも、今2人きりでいる空間を愛しいと思うことも本当。
この世にみちるさんだけしかいない。
そんな空間をひと時でもいられたらと願わずにはいられない。
「そう?いいわ。レイの誕生日を過ごすのは私1人だけだもの」

艶めいた春の新色の口紅
柔らかい波をまとう髪
優しい声
愛おしい温度


「みちるさんだけのものよ」



ヒノキで作られたお風呂に一緒に入ると、手を繋いで寝室へと向かった。
「みちるさん、電気は?」
「この部屋にはないのよ」
「え?まったく見えないわ」
扉を開けると一面が暗闇で、わずかな光すらない。
廊下から差し込む明かりだけがみちるさんの存在を示してくれている。
「いいのよ、それで」
言って、みちるさんは唯一の廊下の明かりをすべて落としてしまった。



暗闇が身体を包んだ



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Date:2014/04/17
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