【緋彩の瞳】 瞳を閉じたらキスが降る

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

瞳を閉じたらキスが降る

「じゃぁね」
「ばいばーい」
高校生になってから、ここにみんなで集まったのも久しぶりかもしれない。ちょっと前まで受験勉強をするために、歯ブラシまで持参して泊まり込みで追いこんでいた。もちろん、美奈子だけじゃない。仲間みんなの歯ブラシも髪ゴムも、着替えのシャツだって。
「……って、美奈はまだ居残りなの?」
「うん」
「遅いんだから、帰りなさいよ」
「……いいじゃん。今日、泊めてよ」
「なぁに、親とけんかでもしたの?」
「してない」
美奈子はあきれた声のレイちゃんの背中について行く。みんなを見送っても、絶対に今日は帰らないって決めていた。誕生日を一緒に迎えるのだ。
中1のときは、TA女学院の火野レイという名前は知っていたけれど、ちゃんと出会っていなかった。中2の頃は遠くから存在を見つめていた。中3のときは、レイちゃんは誕生日の前の日から修行とか言って、山に籠っていて、2人きりになんてなれなかった。

なんだかんだ、美奈子がしてあげたいと思うお祝いをしてあげられずに、知り合ってから3度目のレイちゃんの誕生日なのだ。
でも、当の本人は全くわかっていない感じ。
予想通りだけど。
「レイちゃん、一緒にお風呂入ろうよ!」
「……いや、いいから。美奈、先に入ったら?」
「いいじゃん~。女の子同士なのに」
腕を絡めると、うつむいて結構強い力で押し返してくる。
なんて言うか、たまらなくかわいい。
レイちゃんはとぼけている。何でもないってフリをして。
「美奈の場合は節操無いでしょ」
「レイちゃんしか見てませんけど?」
「……っ。いいから、早く入れ!もしくは帰れ!」

あーぁ、顔が真っ赤だよ。
たまらなくそういうところは好きなんだけど。

強引にバスタオルを押し付けられて、背中も押されて、結局は別々にお風呂に入らないといけない。美奈子だってそこまで期待していたわけじゃないけれど、急がないと12時になっちゃう。



「……30センチですか」
「何がよ?」
「別に……」

レイちゃんの敷いてくれたお布団。1組だけなんていう期待なんて数ミリしかなかったけれど、2組敷かれた布団の隙間は30センチもある。掌を大きく開いてそれが2つ分。
おかしい。
今は2人っきりで誰も見ていないのだから、おもいきりいちゃいちゃしてもいいはずなのに。ガンガンしてきてくれてもいいのに。

レイちゃんは一度として美奈子に抱きついて来てくれたり、キスをしてくれたり、甘えてきてくれたりしたことはない。
いつも美奈子が抱きついては殴られ、キスをしては頬を叩かれ、甘えてはみぞおちを殴られる。
何もなくレイちゃんが素直に受け入れてくれるなんてことは、10回に1度くらい。

「私、お風呂入ってくるから。美奈、寝たいのなら寝ててもいいわよ。でも、私の布団に入ったら、永遠に目を覚ませないようなことになるから、止めて起きなさいね」
「……ふぁ~ぃ」
お客さん用の布団ではない方に腕を伸ばそうとしたら、ぴしゃりとレイちゃんに先手を打たれた。
基本的に触らせないというスタンスは、付き合って半年経っても変わらない。
「……今夜もキスはなしですか」
5発位殴られて、相当イジケて泣いたりしないと、キスさせてくれないし、エッチなんて夢のまた夢の世界ではないだろうか。
1人で広い2組の布団の上に寝転がる。風呂上がりの温まった身体がひんやりと春の空気にさらされて、ちょっとだけ寒い。

寒くて、寂しい

殴られてもいいや
どうせいつものこと


美奈子はレイちゃんの布団に寝転がった。
綺麗に洗っているシーツからはレイちゃんの匂いはしないけれど、それでもレイちゃんがここに寝ているときに、美奈子の匂いを感じてくれたらいいのに、なんて思いながら。

ごろごろしながらレイちゃんを待っていた。怒られることも見越しながら、それでも誕生日なんだからって言えばきっと、また顔を赤くして、許してくれるだろうなんて期待しながら。
「………あ~ぁ……」
部屋の時計がカチッと鳴って、長針も短針も12を指してしまった。レイちゃんはまだお風呂。
「あ~~……」
一緒に瞬間を過ごして、おめでとうと言うつもりだったのに。
世の中、うまくいかないことばかりだわ。
天井を仰いで大きなため息ひとつ。美奈子は目を閉じてレイちゃんを想う。


早く出てこい!



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Date:2014/04/21
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