【緋彩の瞳】 ツンデレ While you were sleeping ②

緋彩の瞳

火野レイのお題

ツンデレ While you were sleeping ②

『みちる様』
みちるは呼ばれた方へ目を向けた。そこは小さな光だけが存在していて、たぶん今はみちる以外にそれが何なのかわかる人間は周りにいない。
「フォボス。…何かあって?」
ガーディアンの姿になった烏は、みちるの肩の近くに降りてくる。神社に足を踏み入れて、裏の母屋にはまだあと50メートル以上あると言うのに。レイはいないとでも言うのかしら。
『レイ様、今、おやすみ中です』
「そう。まったく、こんな時間に……。起こすなっていうこと?」
別にレイが寝ていて、何の問題?と思ってしまう。まさか、美奈子と“そう言うこと”をしているから?なんて深読みをしてみたけれど、美奈子は今日はるかと遊びに行っていて、あとで神社に一緒に来るはず。だから、それもない。
『……束の間の休息です、みちる様』
「レイからの命令なの?」
『みちる様というより、とりわけ美奈子様が来られると……ちょっと、大変なことになるので』
フォボスは何か、言葉を選んでいる。みちるではなく美奈子が来るのが困るとはどういう意味だろう。
「質問の答えじゃないわ、フォボス。レイからなの?」
『レイ様は、……特に何も』
「じゃぁ、何なの?」
珍しく眉を困ったようにひそめているから、小さなフォボスの額を指先でつついた。なんらみちるの言うことを聞かなければならない立場でもない彼女だけれど、みちるもまた、別にフォボスの言うことを聞く義務はない。
ただ、レイが大事。その想いは同じなのだ。フォボスとディモスはレイだけを愛し、レイのために生きているのだから、必ずレイのためを想っての行動だと言うことだけは確かだ。
『ルナとアルテミスが来ています』
「それが?」
『今、3人でおやすみ中です』
「あらあら、珍しい。うさぎもいないの?」
『はい。それで、レイ様はその…ルナとアルテミスを抱きしめて眠っておられるようなので、美奈子様が来られたら……修羅場です』
「なるほどね」
何となく、想像できた。きっと無防備な顔でレイは猫を抱き締めて寝ているのだろう。それを見た美奈子は嫉妬するに違いない。何より自分のところのアルテミスを抱いて、なんて。アルテミスはボコボコにされるだろうし、レイもきっとそんな美奈子を怒るだろう。みちるとはるかはそれに巻き込まれてなだめるのに苦労しそう。
『一応ディモスには、美奈子様たちの監視をさせておりますが……。もう少しだけ、お時間をいただきたくて』
「そう。レイ、普段は見せないけれど、あれでも一応、結構動物が好きなのよね」
『存じています』
「でも、可愛がっている姿を誰にも見られたくないから、興味のないふりをしているけれど……。今は邪魔が誰もいないから、そういうこともできるって言うわけね」
『はい』
それにしても。
フォボスもちょっとくらい嫉妬してもいいのに。本当に健気というか、立場をわきまえていると言うか、美奈子たちのパートナーがレイに抱きしめられているというのに、それをそっとしてほしいなんて。
「いいわ。美奈子たちはどこかカフェに連れて行って、食べもので釣って足止めするわ」
『お願いいたします』
“お願い”されて、嫌なんて言えるわけがない。悔しいけれど、みちるがレイのことで絶対勝てない唯一の相手なのだから。
「フォボス、覚えておきなさい。これで貸しが1つよ」
『はい、みちる様』
だからって、何か見返りなんて求めたいとは思えないけれど。求めた時点でみちるが負けたような気にもなる。いや、負けるとか勝つとかじゃなくて、敵わない相手なのだけれど。
「まぁ、修羅場になればアルテミスは瀕死、ルナはおとがめなし、美奈子に対してキレたレイが追い出して、しばらく美奈子は泣きじゃくってはるかに慰めてもらって……。私はいつもどおりにレイの愚痴を聞いてあげて……丸く収まるまでは1週間。あなたたちもアルテミスから愚痴を聞かされるでしょうね」
独り言のように呟くと、フォボスが思い切りしかめっ面で見つめてくる。
その顔を見て思わずクスっと笑いが漏れてしまった。
「冗談よ、安心なさい。あなたたちが回避しようとするのは正しい判断だわ。私も今は忙しい時期だから、レイの愚痴相手ばかりしていられないもの」
携帯電話を取り出して、はるかに電話をかける。ちょうど神社に向かって車を走らせているらしい。
『今、レイ様は気持よさそうにおやすみされています』
「そう。感じるの?」
『いえ……張りつめた緊張の糸が途切れて交信できません』
レイと彼女たちは言葉を交わすことなどない。想い合い、愛し合う。
「つまり、それだけ完璧にぐっすりということね」
『みちる様はご存知でしょうが、レイ様はめったに……』
「そうね。……本当、珍しいことね」
レイは自分では全く気が付いていないけれど、常にピンと緊張の糸を張っている。1人でいるときも無意識に。どんな時も無意識に発しているその緊張感があるからこそ、フォボスとディモスもその気の流れを敏感に察知して、想いの先をくみ取り動いている。
レイが安らげるときは、傍に誰か心から信頼できる人間がいるときだけだ。だから1人で、いや、ルナやアルテミスがいる程度でぐっすりというのは、確かに珍しい。ルナとアルテミスがそれほど心地よかったのだろうか。1人で寝るときは眠りの浅いレイが、フォボスとディモスが気を使うくらいにぐっすりだなんて。
「……猫って羨ましいわね。私は16年傍にいても、未だに足蹴にされるのに」
みちるは思わず羨ましいため息を漏らした。あんなレイでも昔から可愛らしい動物に弱いのは十分知っている。でも、ペットを飼わないのは自分より確実に先に死ぬものを傍に置きたくはないから。そう言う意味では、ルナもアルテミスもレイの硝子のハートにはまさにうってつけの相手に違いない。
『みちる様はレイ様に深く愛されています。みちる様の傍ではいつも心地よくおやすみされていますよ』
レイ本人に言われるよりもフォボスが言う方が、なんだかとても説得力がある。
「そうね。レイがあなたたちのことを愛している気持ちと、同じくらいだといいのだけれど」
みちるはその言葉に対しての言葉は待たずに、くるりと向きを変えて小さく手を振った。はるかたちを止めなきゃいけない。


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Date:2014/04/20
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