【緋彩の瞳】 レッド ピンヒール

緋彩の瞳

火野レイのお題

レッド ピンヒール

「いいだろ?」
はるかは笑った。なんと言うのだろう、この笑顔。大好きなお菓子を与えられた子供にしては大人びているが、しかし、大人らしい笑顔でもない。心の中の何を満たした笑みなのだろうか。
「気持ち悪いんだけど。だいたい、何でヒールなの?」

梅雨ど真ん中。鬱陶しい季節。あえて言うなら、靴を買いに行くのならこれからのサンダルを選ぶにはストライクな時期だ。どこのお店だって、店頭には最新流行モデルのサンダルを並べているに決まっている。
「だって、別に何でもいいって言っただろ?それに、レイはサンダルいっぱい持ってるじゃないか」
今年はまだサンダルを買ってない。でも、よかったかもしれない。この人の趣味でサンダルを買わせるのも問題ありと伺える。
「で?あまり理由にはなってないと思うけれど」
「似合いそうだったからだよ、そのヒール」
まだ、受け取っただけで履いて見せてもいないのに。
「……真っ赤なピンヒールが似合うねぇ」

たまに外で食事をすると、はるかはこうだ。何かしらプレゼントをくれる。静かなレインツリーの店内は梅雨の湿気を感じさせないほどよい気温と、はるかの独占欲が満ちて零れた笑み。できれば怒ってやりたいけれど、静けさの中で声を荒げるなんて、はしたないことはしない。また、しょぼくれてへたれたはるかを後でなだめてあげなきゃいけないことも、考えただけで湿気の鬱陶しさといい勝負だと目に見えてくる。
「はるか、足のサイズ知ってたの?」
ありがとう。とか、嬉しい。というと、次もまたありそうなのでまだ言わない。
「知ってるさ。君のことなら何でもね」
さらっと答えて見せるけれど、ちゃんと調べたと書いてある。一生懸命演じているけれど、この人は馬鹿正直に顔に出る。
でも、そう言うところが心地いい。レイには持っていないものをこの人は持っているんだと確かめる事ができる。嫉妬心の沸かない、気持ちのいい感情だ。
「どうせ覗いたんでしょ。ローファーとか靴とか」
そんなチャンスなら今まで一杯あったし。
「本当、敵わないな」
「たいしたことじゃないわよ」
「そう?」

白い箱に横たわる赤いピンヒール。こんなヒールに合わせる服なんて持っていない。赤はどちらかと言えば好きな色だけど。自分のもう一つの姿であるときに、同じ色のヒールを履いているから、この手のものは積極的に避けてきた。とりあえず蓋をしてしまうと、今度は不満足気な声が振ってくる。
「何だよ、気にいらなかった?」
「ううん。ただね」
「何?」
「足フェチなんじゃないの。って、心配しただけよ」
赤いヒールを履かせたがるなんてね。
付け加えると、はるかは少し大きく目を開けて、言葉に詰っていた。
何か、もう一言「冗談よ」、って台詞を待っている様子にも見える。
「だから、デニムにでも合わせることにしようかしら。どう思う?」
明らかに表情が不満へと移り変わる。

他人の中に自分という存在が認められないことを恐れて、心を閉ざして生きてきたのに。
はるかの中で自分が存在していることが、面白くて仕方ないなんて。
こうやって、はるかの気持ちを推し測ったり、もてあそんだり。他の誰かにこんなことすると不安になるはずなのに、不思議な魔法にかけられたようにふわふわと気が緩む。
それを許してくれて、認めてくれるはるか。
「いいよ、別に。僕は君の生足は見慣れているし、ミニなんて履いて外を歩かれるのは、むしろ許せないくらいだからね」
「不貞腐れることないじゃない。7月になる前にサンダル買いに行きましょう。あ、でも、私が選ぶから」
「それを履いてデートしてくれたら、考えてもいいよ」
何を言っても敵わないと認めておきながら、駆け引きを挑んでレイを困らせて楽しむから。

「素直じゃないわね」
レイも、はるかも。


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Date:2014/04/20
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