【緋彩の瞳】 TA女学院の女王 嫉妬に溶けたチョコレート END

緋彩の瞳

火野レイのお題

TA女学院の女王 嫉妬に溶けたチョコレート END

「はい、これ」
学校帰りにみちるに呼び出されていたレイが、約束よりも5分早く到着した。みちるは、さらにそれより5分早く待ち合わせ場所に来ていた。パーラーには、恋をする女の子たちが一大イベントの結果発表をあちらこちらで行っている。桃色は甘い味だわ、と心の中で呟いた。みちるはコーヒーにも紅茶にも砂糖は入れない主義だ。
「やめてよ、もうこれ以上いらないわよ」
目の前に現れたレイの両腕には、ピンクの大きい紙袋がいくつもぶら下がっている。
長椅子に腰をおろしたくても両腕のもので埋まるほどだ。相変わらずファンクラブの活動は続いているらしい。
「私からじゃないわよ。頼まれたのよ」
「はるかさんに?丁寧に断ってよ」
「はるかが女の子にチョコをあげるタイプだと思う?もらうほうでしょ」
少なくとも、みちるとはるかではない。中身が潰れない程度に紙袋をぎゅっと押しやって、とりあえず差し出された小さな箱を受け取ってもらえた。
「誰?」
「ママから。会いに来てくれないって、ずいぶんと不貞腐れていたわよ」
「それでみちるに?」
「そう。お使いよ」
中身はレイの好きなお手製チョコチップクッキーだと伝えると、喫茶店であるにも関わらず、包み紙を開け始めてしまう。夢中と言う言葉が当てはまる。
「宇奈月ちゃん、レイにダージリンをお願い」
水を持ってきた宇奈月は、大量のチョコに身をまとわれた後輩の姿を笑いながら眺めて、さっと厨房の方へ消えていった。
「懐かしい。相変わらず、不揃いよね」
意図してやっているのか、それともがんばってもこうなのか、型をはめないでひとつひとつ歪な円のつくるそれは、厚みもそれぞれわずかに違っている。
「ママがクッキーなんて。もう何年も作ってくれた記憶がないのに、久しぶりに作ったら私じゃなくてレイなのよ?どういうことかしらね」
喫茶店で包みを広げているだけでもよくないのに、構わずにレイはひとつを口の中に入れた。ビターなチョコチップとココアを入れた甘い生地の絶妙のバランス。
「うん、いける。私これだけあればいいわ」
「あら、じゃぁこの桃色ちゃんたちはどうするの?」
「みちるにあげる」
「……いらないわ」
ダージリンを運んできてくれた宇奈月は、マナー違反を見てみぬフリをしてウインクひとつ落として行った。ご好意なのか、それともレイが恐いからなのかはわからない。
「深美ママ、元気?」
「会ってあげたら?今は仕事がひと段落して、のんびり好きな絵を描いて暇を埋めているらしいから」
ティポットから注がれるダージリンの香り。温められたミルクを多めに入れるのは昔から。
「じゃぁ、今日行くわ。連れてって」
「連れて?タクシーで行きなさいよ」
「はるかさんと予定でもあるの?」
一応、バレンタインなのだ。予定とかじゃなくて、普通に一緒にいようと思っているだけだが、それを言ったところで納得して貰えるとも思わない。
「あなたこそ、美奈子をほったらかしてうちに来るの?」
「深美ママに会う方が大事じゃない。美奈は放っておいてもいいのよ」
「あら、ママの方?」
みちるは無意識のうちに少しだけ嫉妬交じりの声を出していた。
それを計算して言っているに違いない、レイのしてやったりの顔は本当に幼く見える。
「あたりまえじゃない。さ、連れてって」
そして、体が反応する自分にやれやれとため息をついた。
レイがオーダーしたダージリンの伝票と自分の分を手に取る。
味わうことなく飲み干されたダージリンの香りが、時をせかすようにレイの体に溶けた。
「ホワイトデーは、何かお返ししてくれなきゃだめよ」
「みちるが私に?」
「もぅ、どうしてそうなるのよ……」
とか言いながら、ホワイトデーになったらまた、同じようなことが繰り返されるのであろうと簡単に想像がついた。それほど嫌じゃない自分に一番呆れてしまう。
「まぁ、いいじゃない」
諦めのつぶやきまでとられたみちるは、差し出された手を握ってただ微笑み返すしかできずに。
きっとこんな風に自分の母親も尻にしかれていたんだろうなと、大量のチョコレートの袋の山を見つめながら思わずにはいられなかった。





関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/04/20
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/137-663a3568
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)