【緋彩の瞳】 遅くなって、ごめん

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

遅くなって、ごめん

「レイ!」
足が速いんだから。坂道を馴れたようにさっさと登っていく背中を追いかけて名前を叫んでも、聞こえていないのか、無視をしているのか振りかえってくれる気配もない。
「レイってば」
ようやく追いついたのは、火川神社の鳥居をくぐりぬけたところ。
肩に手を置いて力を込めると、わかっていたのか驚きもせずに振りかえる。
緑黒のまっすぐな髪。さらりと鳴って肩を撫でる。

その様は美しい。


「何よ?」
「さっきから、ずっと呼び止めていたじゃない」
「私は用がないから止まらなかっただけ」
「ちょっと、話しがあるのよ」
「私にはない」
「私にはあるの」
芝居臭い特大のため息。
迷惑です、というふてくされた顔。
可愛いくせに台無しだわ。
「……美奈子、今日は何もすることないわけ?」
「私だって学校通って、何もない放課後だってたまにはあるもの」
本当に“たまに”なんだけど。だから今日は、GPSでレイを追いかけて、驚かせようと思っていた。クラウンにいるとわかってから、学校帰りにダッシュしたのだ。まことたちがいてもおかしくはないのに、想像では2人でイチャイチャするはずだった。

想像って残酷。

現実のレイがイチャイチャさせてくれるだなんて、そんなことが容易にできるはずもないのだから。
「暇なら家に帰って勉強でもしたら?」
「暇じゃないわよ。レイに話があるって言ってるでしょ?」
“こっちにはない”と言わんばかりの目で睨まれても、同じように睨み返す。

「…」
「……」
「………はいはい、まったく」
境内を通り抜けて、平屋の立ち入り禁止と書かれてある建物へと入っていく、レイの背中を追いかけた。
ここに住んでいることは知っているし、境内をウロウロしたことはあるけれど、家に入れてもらうのは今日が初めて。
馬鹿みたいに心臓が踊っている。
美奈子は小声で“お邪魔します”と声を出して玄関に上がり、ローファーを脱いで丁寧に揃えて端に寄せた。
「何か飲む?」
「えっと…うん。何でもいい」
「私の部屋、廊下を進んだ奥の右側だから。入って待ってて。飲み物淹れてくる」
「あ…はい」
レイは何か重要な話しがあると思っていたりするのかもしれない。すたすたとキッチンがあると思われる方向に進む背中を見送って、美奈子は言われたとおりの廊下を歩き、右側の襖をあけた。
「……広い」
部屋が2つ繋がっている。1つ目の部屋には特に何も置かれておらず、奥の部屋に勉強机や本棚。箪笥がある。テレビやコンポなどの電子機械もなければ、もちろんパソコンもない。
「機械音痴はこうやって作られるわけ、か」
美奈子はレイの部屋を観察しながら、何となく勉強机の前に座った。写真立てが並んでいて、幼い頃のレイと両親がこちらを見てぎこちなく微笑んでいる。なんか、レイらしい。
そして、うさぎ、亜美、まことと一緒に写っている写真。
美奈子はいない。
「………なんだかな」
一緒に写真なんて撮ったことないから、自分が映っていないのは当たり前だけど、改めて5人で写真を撮ろうなんて提案することもできない。
「……別に、5人じゃなくてもいいし」
むしろ2人だけでいい。
心の中で思っていたら、本人飲み物を持って現れた。
「何?」
「あ……小さい頃のレイも可愛かったんだと思って」
レイは何も言わず、相変わらずの怪訝な顔をして美奈子を睨んできた。
グラスに淹れられたお茶をつんけんしながら差し出され、黙って受け取る。
「で?何よ、話しって」
「急かさないでよ。っていうか、そのすぐにでも帰れっていう態度はどうなのよ」
腕を組んで立ちっぱなし。そんなに美奈子と一緒にいるのが嫌なのかと言いたくなる。片方の頬を膨らませていた、その空気を観念したように吐き出して、やっと目の前に座ってくれる。
「美奈子、先に謝りなさいよね」
「何のこと?」
「いい加減にして欲しいんだけど、キスしてくるってどういうつもりなのよ」
「だって、反応が面白いんだもの」
言ってから、心の中で“しまった!”と思っても、見る見るうちに怒り顔になるレイを不覚にも、やっぱりこう言う反応を見たいと言う気持ちも確かにあるんだな、と我ながら納得してしまうところもあって。
「遊びですることじゃないわ」
意外にもロマンチスト。
あ、違う。
意外でも何でもない。レイはこういう性格なんだった。

“硬い”って言うやつ。

「じゃぁ、レイは本気ならいいっていうわけ?」
「はぁ?本気って何よ?」
「だから、私がレイのことが好きでキスをするのなら、遊びじゃなくて“好き”なんだから、OKっていうことでしょ?」
「言っている意味がわからないわ」
レイは美奈子と違って、わざととぼけたりするような器用さはない。
だから、本当にわかっていないんだと思う。
「つまりはね」
美奈子は冷たいお茶でのどを潤して、マイクの前に立っているときのように、小さく咳払いをして発声の準備をした。
その改まった態度に、レイが怪訝な顔をしているのも見逃していない。
「愛野美奈子は、火野レイが好きだと言うことよ」
「………今度は、何を企んでいるの?」

コイツ、人を好きになったことないんじゃないの。

美奈子は今まで散々レイで遊んだことを棚に上げて、まったくもって状況をわかっていないその眉間のシワを睨みつけた。
「レイはキスってどういう人とするものだと思うわけ?」
「え?……そ、それは、付き合っている人じゃないの?」
「好きな人としたいとか、そういうのはないの?」
「別に好きな人なんていないわよ。恋愛なんて、時間の無駄」
思いっきりバッサリ切った。清々しいくらい。きっと、うさぎも地場衛のことを相談しては、バッサバッサと切られていたんだろうな。なんて思うと、我がプリンセスがかわいそうになってきた。かつて、反対していたのは美奈子の方なんだけど。
「私は好きな人がいるのよ。好きな人とキスしたいって思うの」
「あぁ、そう。お好きにどうぞ」
「じゃぁ、遠慮なくいただくわ」
どうやらレイはまだ、美奈子が言いたいことをわかっていないようなので、心の中で頂きますと手を合わせ、馬鹿にした顔をしているその艶めく唇を奪った。


「っ……!!」





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Date:2014/05/08
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