【緋彩の瞳】 瞳が好きと歌うから ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・単発もの]

瞳が好きと歌うから ①

好きな人がアイドルという職業を学生と兼任している。
だから、レイが会いたいと思っても会えるような都合なんて、彼女は持ち合わせていないし、
レイが1人でゆっくり本を読んでいようとも、お構いなしに呼び出されたり、押し掛けてきたりすることを、拒否する権利も与えてもらっていない。

スケジュールは月頭に必ず見せてもらっている。みっちり書かれたそれらを見て、その隙間とレイの空いている時間が合うかどうかを確認する。
こんな春の過ごしやすい季節でも、柔らかい太陽が照らしていようが、星が空を照らしていようが、彼女はレコーディングスタジオに籠り、写真撮影用のライトに照らされ、カメラの光や黄色い声を浴びてばかりだ。
「……今日は外での仕事かしら」
一々、毎日どこで何をっていうことを細かく記憶しているわけじゃないけれど、東京のどのあたりにいるのか、泊まりでどこかへ行くのか、わかっていることくらいは頭の中に入れるようにしていた。美奈子が突然電話をかけてくるときは、決まって麻布近くにいる時だと言うことが、パターン化してきたし、会える範囲内にいるかどうかを知っておくことで、繋がっていられるような気もした。自己満足なんだろうけれど、神社の手伝いがあったとしても、日が暮れるまでしかないし、会いたいときに会えないことを、自分に納得させる手段になってしまっている。
暑すぎず、寒すぎず、外に出かけるのは絶好の日曜日。昨日の夜遅くに読みたい本も読み終わり、神社の掃除も一通り済んだ。
つまりは、暇を持て余している。こんなさわやかな休みの日ともなれば、どこへ行ってもカップルが腕を組んで歩いているだろう。
別にそう言うことを望んでいるわけでもないし、できないことも承知している。彼女が仕事を続けている以上、あるいは例えやめたとしても、帽子やサングラスをせず堂々と腕を組み、街を出歩くなんて、そんなことをしようと思わないだろう。
時計を見上げ続けたところで、秒針は一定のリズム以上に早くなることはない。ため息を吐いて部屋着を脱いだ。当てもなくウロウロすることは好きでもないし、人が多いところに行こうとも思わない。図書館で本でも借りるしかない。
鞄に携帯電話と財布を入れたところで、ちょうど着信音が響いた。まことからだ。
『レイ、今日は何してるの?』
「……暇してる」
『よかった!じゃぁ、今から出られるよね。今さ、美奈子ちゃんがちょうど外で雑誌の撮影をしているんだって!一緒に行こうよ』
「あぁ……うん、わかった」
レイは乗り気ではないような声をあえて出して、電話を切った。まことは美奈子が同じ仲間であると言うのに、相変わらず愛野美奈子と言うアイドルのファンで、ミーハーな感情を捨て切れずにいる。レイから付き合っていると言うことを直接的に言ってはいないけれど、仲良しだよね、なんて言われているし、美奈子から言っている可能性もある。否定しない態度をしているから、まこともそれ以上の確認をしてこない。亜美ちゃんに至ってもそうだ。
「……こんな天気のいい日曜日なのにね」
誰に向かって呟いたのかわからない。
こんな日に仕事をしている美奈子になのか。
何の予定も入れずに暇を持て余している自分になのか。
アイドルを見に行くまことになのか。

神社を出て坂道を下っている途中に、腕をからませ見つめ合いながら歩く外国人カップルと何度もすれ違った。見つけては目をそらし、見つけては心の中で舌打ちをする。
そんな自分が、今、誰と何をしたいか、だなんてわかっていて、それでもそれを認められない。
自分の中の天の邪鬼と我儘と、やるせなさを抱えながら、決してそれを叶えられないアイドルの姿を見に行く今の状況が、辛いとさえ思った。それでも、一目見ていたい気持ちの方が勝つのが、やっぱりレイが愛野美奈子という1人の人間に恋をしていることに他ならないのだ。


「ごめん、待った?」
「ううん。さっきね、テスト撮りが終わったらしいよ」
東京タワーのすぐ近くで待ち合わせをして、まことは公園の奥を指差した。若い女の子や男の子たちが群れをなしている。撮影とは知っていたが、場所の連絡はもらっていなかった。こんなに近かったのなら、もしかしたら夜にでも連絡が入って会えたかもしれない。
まさか、レイの方から会いに行くなんてことは想像もしていないと思う。
「凄い人ね」
黄色いざわめきの中に同じ学校の人間を数人見つけた。レイは別にアイドルを見に来たわけじゃないけれど、そんなことはあっちから言わせれば同じ境遇とみなされても文句は言えない。
「スタッフの人が規制線引いて、あんまり前には行けないみたいだよ。でも、まぁ、最前列に突き進んでみようか」
それは多分、レイに気を使っているのが半分で、まこと自身の希望も半分なのだろう。
「そこまでして、美奈子を見たいわけ?」
「だってここまで来たんだよ?最近はみんなで遊んでないしさ~。仲間なんだからいいじゃん」
ニコニコしながらも、最後尾のはずなのに、まことはガンガン前へと進み始めた。
「ちょっと……」
ただでさえ大きいんだから、という言葉を飲み込みながらも、レイはその背中を追いかける。ロケバスの中で次の撮影の間の休憩に入っているみたいで、ファンたちの群れも少し散らばっていたせいか、思った以上にたやすく最前列に到着してしまった。
「よし、撮影が始まったらよく見えるはずだよ」
「これって何の撮影なの?」
「え?美奈子ちゃんから何も聞いてない?」
「何にも。あんまりあの人がどんなことをしているのかは知らないのよ。第一うちにテレビないし、雑誌も自分では買わないから」
美奈子が押し付けてくる雑誌なんかは一応見るし、曲は嫌でもあちこちから流れていて、耳に入ってくる。
世の中の愛野美奈子ファンが必要最低限持っている知識を、レイはそれほど持っていないと言うのは自覚しているけれど、彼女がいつどんなCDを発売したとか、どんな雑誌の表紙を飾ったなんて言うことを知ったところで、正直どうでもいいことなのだ。
「レイってアイドルに興味ないもんな」
「そういうこと」
「美奈子ちゃん、それについて怒ったりしないわけ?」
「どうかしらね。でも、あっちも別に私のことをそんなに深く知らないでしょうし」
レイが美奈子の仕事内容を把握していないのと、美奈子がレイの神社の手伝いでどんなことをしているかを知らないのは、同じようなものじゃないかと思っている。国民的アイドルなんて、してくれってお願いしたわけじゃないし。当然、彼女がそうだから好きなのではない。
「ふーん。2人とも大人だねぇ」
「まことと同じ年齢よ」
「はは。レイがミーハーだったら、美奈子ちゃんはレイに惚れなかったんだろうな」
「……美奈子はまことにどんな話しをしているわけ?」
「いーや何も。でもさ、目は口ほどに物を言うっていうじゃん?美奈子ちゃんはみんなといる時もレイしか見てないし、レイだって同じ目の色をしてるよ」

ちょっと違う。

思ったけれどレイは言葉を発さずにうなずくだけだった。美奈子はうさぎがいるときはうさぎのことをいつも気にしている。うさぎが衛さんとのことを幸せそうに話すたびに、それを嬉しそうに聞いている。この世界を守るために命があると言いきっていた過去を、前世からの愛を守り抜いたことを、とても満足そうに見つめている。だから、レイしか見ていないなんてうぬぼれた感情を持ったことはないし、かといってうさぎに嫉妬しているわけでもない。愛野美奈子というアイドルも、セーラーヴィーナスという戦士も、レイはどちらでもない、あるいはそのどちらも背負っているという彼女の意志を尊敬しているし好きなのだと思う。

本当のところ、これを好きだと言い切れるものがあるのかもわからないけれど。

「最近、みんなで集まったりしていないわね」
「そんな暇があるなら、美奈子ちゃんはレイと会いたいんじゃない?」
「2週間くらい、顔は見てないわよ」
「そうなんだ。じゃぁ、今日は久しぶりに会えるんじゃないの?」
「そうなるわね」
「寂しい?」
言われて、その感情が身体に存在しているということを知らされた。
「どうして?」
だけど、素直に認めることができない。
「いいや、別に。大人だね、2人とも」
「だから、まことと同じ歳よ」




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Date:2014/05/30
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