【緋彩の瞳】 瞳が好きと歌うから END

緋彩の瞳

スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

美奈子×レイ小説[実写・単発もの]

瞳が好きと歌うから END

視界に飛び込んできたのは、キャップを目深にかぶった黒髪。

「…………レイ」

うつむいていたその人が顔をあげて、レイの名前を呼ぶ。

「……………美奈子」

数秒見つめて、その人の名前を呟いた。
確かに見つめ合った後、美奈子は視線を逃がして、レイの後ろに立っていたまことを見上げた。
「まこと、言われたとおり来たわよ」
「うん」
「じゃぁ、レイはもらって帰るから」
「うん、ちょうどレイも帰ろうとしていたところだし、いいタイミングだったよ」
「え?…ちょっと」
まことが美奈子を呼び出したの?振りかえって聞こうと思ったけれど、そのまことから背中を押されて、レイはドアの向こうにいた美奈子に抱きつくように追い出された。
「まことっ」
「はいはい、今はイチャついたらいいじゃん」
不安定になった身体を自然と美奈子に支えられた格好を見たからか、そうさせたのはまことが背中を押したからだと言うのに、お休みと言ってドアを閉められて鍵まで掛けられた。
「ちょっ……」
ドアを叩こうと思ったけれど、どうせ開けてはもらえないだろう。レイは鼻先で閉ざされたドアにため息を吹きかけて美奈子に向きを戻した。
「……レイ、帰るんでしょ?」
「帰るけれど……美奈子はどうするの?」
「送っていくわよ。私はまことに用があってここに来たわけじゃないもの」
あの様子だと、電話相手は美奈子だったのだろう。仕事終わりの美奈子にここに来るように言ったのはどうしてなのだろう。何かまことに余計なことでも言っただろうか。それとも気を使わせたのかもしれない。


美奈子に並んで、春の夜を2人でゆっくりと歩いた。
ゆっくりとゆっくりと、できるだけじらすようにしたかった。
「レイ、もう夜ごはんは食べたの?」
「まことと一緒に食べたわ」
「そっか。そう言えばまことがそんなこと言ってたわね」
「…………どうして来たの?」
仕事帰りらしく大き目のトートバックを肩にかけ、相変わらずキャップを目深に被っている美奈子は、どうしてレイを迎えに来てくれたのだろう。
美奈子は間違いなくレイを迎えに来てくれたのだ。レイがまことのマンションにいて、落ち合って3人で何かをするというのではなく、レイを迎えに。
「まことからメールをもらったのよ」
「なんて?」
「……レイが……寂しそうな顔をしているって。責任取りに来てって」
「……何なのそれ?」
眉をひそめて美奈子の顔を覗きこんだ。こんな暗闇の中でもキャップを目深にかぶっていることに、今更ながら心の中に嫌だという想いが芽生える。視線を合わせにくいって、どうして分からないんだろうか。それよりも、正体がばれることの方が嫌なんだろうか。
「撮影しているときは機嫌が悪そうだったものね。まさか、レイが見に来るなんて思ってもみなかった。……付き合うようになってからは、仕事現場になんて顔出さなかったし」
均等な距離で電信柱に設置されたライトが闇の中の2人を照らす。
時々、傍を通る車が美奈子に影を作った。
「機嫌が悪かったわけじゃないわよ」
機嫌が悪いという言葉には、自分の気持ちは当てはまらないと思った。あえて言うのなら、やっぱり寂しいと言う感情なのだろう。
「……私はレイに見られているのが辛かったわ」
「そう思ったから、途中で抜けたのよ。感謝してよ」
「うん、そうね。レイに作り笑顔を見られるのって苦手みたい」
ちっぽけな虚勢のようなものを張ったつもりでいたのに、美奈子はいつものような意地悪なひと言を返してこなかった。
レイが苦手だと思った、寂しいと思った愛野美奈子の作り笑顔を、美奈子もレイに見せることは好きじゃない。
「知ってるわよ」
最初から素直にそう言えばいいのにって自分に言い聞かせた。
「私、レイには嘘を吐かないもの。仕事は好きだしカメラの前に立つことも嫌いじゃないわ。でも、あれは世間が望むアイドル愛野美奈子というキャラクターだし、レイが好きな私とは違うもの」

レイの好きな美奈子は
レイが毎日想う愛野美奈子は
どうあって欲しいと願っているのかレイもわからない。

だけど美奈子が好きと言う気持ちが存在している心は、優しくて軽やかだと思う。
そして寂しくて苦しくて、息がしづらいこともある。

「美奈子」
「…あっ」
その目深にかぶったキャップを奪った。レイと同じシャンプーの香りがした。
「暗いんだし、わかんないわよ」
「……そんなに私の顔を見ていたいわけ?」
「うぬぼれすぎ」
キャップを返しても、美奈子はもう被らなかった。
見上げる東京の空は、星が降るほどの美しさではないけれど、それでも白い月の光が2人の行く道を照らしている。
「もう、日曜日が終わっちゃうわね」
「レイは休みだったんでしょ?私は明日も学校が終わったら仕事だし、週末も仕事だわ」
次の土日は、CD発売記念のイベントがあるらしい。外で歌ってファンとの交流もあるんだとか。

雨になればいいのに

言えないことを思ってしまう自分の我儘が、幼稚だと言うことはわかっている。
うっかり、変なことを言わないようにと唇を閉じて、じっと空を見上げた。

かすかに手の甲に、冷たい美奈子の指先が触れる。
その指に、好きだと思える美奈子の手に、触れたいと願った。
レイの指の隙間を埋める好きと言う情が絡んだ。

離れないように

屋敷が並ぶ坂を登りながら、繋いだ美奈子の腕に抱きつくように歩く。美奈子は小さくクスクスと笑っていたけれど、からかわれてもいい覚悟の上でそうしているから、別にもういい。
「こうやって手を繋いでデートしたことないわよね」
「……外でデートなんて、私はした記憶がないわよ」
「悪いって思ってるわよ。CDのイベントが終わって、もう少ししたら仕事も落ち着くから」
「そうなる頃には、梅雨じゃない」
「じゃぁ、ひとつの傘に入って歩けばいいでしょ?」
「……帽子とサングラスして傘をさすわけ?」
陽が照りもしないのに、そんな恰好でいたらさぞかし目立つだろう。想像しながら、だったら家でのんびりしたほうがいいかも、なんて思わずにいられない。
「じゃぁ、レイの家でずーっと抱き合っててもいいわよ?」

愛の礫がレイの心臓を目がけて飛んできた。
驚いて、血が噴き出して、死んでしまうかと思った。

「………別に、したければすれば」
「その言葉、絶対取り消しさせないから」
美奈子と絡めた指。
美奈子が力を込めるように握るから、熱くなった頬を肩に押し当てて歩く。


神社の鳥居をくぐる前に美奈子の足が止まった。
「タクシー呼んで帰るわ」
「そう。送ってくれてありがと」
神社まで呼びつけたタクシーは5分で着いてしまう。レイは絡めた指を自分から離すことができなくて、その繋がった指をそのままに鳥居に背を預けた。
「レイって2人きりにならないと、素直になってくれない」
「………別に」
「まぁ、いいけどさ。そう言うところも好きだし」
大きなトートバッグを肩から落とした美奈子がそっと抱きしめてくれた。
「今日撮影した雑誌、出来上がったら渡すから。一応見てね」
「一応、見るわ」
「うん、そうして」
決してきつくない束縛は、すぐに解かれてしまう。両肩に置かれた掌から伝わるのは、さっきまでレイが放したくなかった愛の温度。
「寂しい想いをさせたお詫び」
大きな瞳で見つめられる。
欲しいと願う気持ちを声に出さなくても、美奈子はレイにキスをくれた。
瞳を閉じて、ひんやりとした唇を感じながら、寂しかったという感情が身体からはらりと零れ落ちて行くのが手に取るようにわかる。


「………レイ、好きよ」


遠かったエンジン音が、こっちに向かって近づいてくる。



「……美奈子」



私も、あなたが好き



唇から零れ落ちようとするコトノ葉は、クラクションの音に吸い取られていった。

「レイからの告白は、今度会う時の楽しみに取っておく」
タクシーのライトを背に受けて、美奈子は撮影の時の作り笑顔なんて比べ物にならないくらいの笑顔をレイだけに向けてくれた。レイも少しだけ笑い返した。
「言っておくけれど、そう簡単に言うつもりなんてないわよ」
「何それ。レイはもう十分に言ってるようなもんじゃない」


目は口ほどに物を言う

まことが言っていた言葉が浮かんだ。

「お休み」
「うん、お休み、レイ。明日また、夜に電話するから」
「わかった。待ってる」

待ってばかりの恋だと、わかっていても好きだと言う想いは減らない。


好きな人はアイドルという職業と学生を兼任している。
国民的アイドル愛野美奈子を好きな人は、日本中に何万人といるけれど、
愛野美奈子が好きなのは、毎晩電話をくれるのは、レイだけだから。




実写もいいよね!↓
関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/06/03
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/152-56abb640
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。