【緋彩の瞳】 Longer than forever

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

Longer than forever

『起きなさいよ』
電話が鳴った。その音で飛び起きたのは確かだけれど、設定した目覚ましより早く起こされるとは何事だって。
だいたい、寝てるという前提のセリフだし。
「ん…、起きたけれど…まだ5時じゃん」
『あんたの場合、こうやって起こしてあげないと、どうせ2度寝するでしょ?親切だって感謝されてもいいけれど』
なんだ、その上から目線。いや、いいけど別に。
「起きました。支度させていただきます」
なんせ、932年ぶりに、日本全国で金環日食が観えるという貴重な瞬間を生きているのだから、どんなことがあっても絶対に観なければならない!

……と言い出したのは、レイちゃんの方。

もちろん、美奈子だってお祭りごとは大好きで、こういう世紀の天体ショーなんていうのはその中でも相当上位なのは確かだ。
でも、まさかレイちゃんがノリノリに楽しみにしているというのが、意外。

朝日はすでに昇り始めていた。
薄暗闇の中、美奈子は少し肌寒さを覚えながら制服に着替えて、そっと家を出る。待ち合わせ場所まではチャリで10分。火川神社で観ようという案もあったけれど、地域の人がこぞって来るかもしれないから、と、別の場所になった。

うわ、もう来ている。

レイちゃんは短い制服のスカート丈を気にすることなく、きれいな足を見せびらかして、美奈子の到着を待っていてくれた。怒っている顔のように見えるけれど、実はあれはあれで楽しみでならない、と言ったところ。
「おはよ」
「おはよう。行くわよ」
「うん」
朝の挨拶にキスくらいしても…なんていう冗談さえ言わせてもらえない。髪をはらって、おぎょぎよく二人乗りの準備をする。車の通っていない道を、レイちゃんを後ろに乗せて勢いよくこぎ始めた。




着いたのは、立ち入り禁止と大きく書かれた場所。
そこは、ひっそりと静かな廃ビルの屋上。

天体ショーが終わったら、学校に急いでいかなければいけない。
それを考えると、どうしても海辺や山奥なんていうロマンチックな場所まではいけなかった。でも、ひと気の少ないところがいい。そんな我儘を叶えるために見つけ出したのが、廃ビルの屋上なわけで。

ロマンチックとは遠いけれど、静かで誰もいないのは確かだ。


「あ、もう始まっている」
レイちゃんは美奈子なんてほとんど無視で、はぁはぁ言いながら駆け上がった階段についてのコメントとか、体感温度だとか、そういうことの会話もせずに鞄から日食グラスを取り出して、早速任務についた。
「まったくさ~」
マイペースと言うか、振り回されているというか。
東の方向にピンと背筋を伸ばして、じっと太陽を見つめる。

太陽と月と地球が並ぶ瞬間。

確かにめったに観られるものではないけれど、美奈子とレイちゃんが前世と今と2度も同じ時代を生きていることの奇跡の方が、ずっと確率的には凄いって思う。
もちろん、そういうことは口には出さない。

「あ、三日月の形になって来たわ」
「ほんとだ。わ~!凄いわね」
肉眼で見るにはまぶしすぎて、真黒な日食グラスから見える太陽の光はまるで月を眺めているよう。

今は太陽に重なる影となっている月。
太陽がリングとなって、それは指輪のように見えるとニュースで何度も言っていた。


「レイちゃん、私ってばお金ないからさ、この太陽のリングをレイちゃんにあげる」
「あんた、そういうセリフを日本中の男が女の人に言うだろうって、思わないわけ?」

美奈子もレイちゃんも日食グラスをぴたりと頬にはりつけるようにして、太陽を見つめたまま。お互いの顔なんて見なかった。
どうせ美奈子がレイちゃんを見つめたところで、レイちゃんがこっちを見ないことなんてわかっているから。


「あはっ……やっぱり?」
「どこぞでは、カップルに向けてこのタイミングで挙式をあげるプランまであるそうよ。ロマンチストというか、商売上手というか」

いいじゃん、ロマンチストで。

「レイちゃんは宝石に興味ない感じだもん。あげられるもの、この太陽のリングだったら嬉しくない?」
「あんたの努力が1mm も入っていないものでしょ。それに、はるかさんあたりが、みちるさんにでもいいそうなことじゃない」

あぁ、言ってそう。
超言ってそう。

「……それにしても、本当に綺麗な輪っかができるのね。凄い」
ということで、この話題はなかったことにする。
「雲がなくてよかったわ」
「レイちゃんの日ごろの行いがよかったんじゃない?」
「褒めても、何も出ないわよ」
「ふーんだ。いいもん」

本当のところ、美奈子はただ、言ってみただけなのだ。
そういうくさいセリフを言えば、レイちゃんがどんな返しをするかくらいわかっている。

わかっている。

そのことが、美奈子の幸せなのだから。
だから、美奈子のためにこの瞬間はある。

わずか2分くらいの綺麗な輪っかは、やがて逆さまの三日月を描いてゆっくりと弧を描くようにリングから外れていった。

「そろそろ、学校に行かないと遅刻するかもね」
やっとレイちゃんが日食グラスを外して美奈子の方を向いてくれる。
「うん、そうね」
レイちゃんは日食グラスを大事そうに鞄にしまった。次はもう、まともに見られるのは、確か北海道辺りで20年くらい先だとかっていう話なのに。
「記念に取っておくの?」
「いえ、まだ使うもの」
「へー」
「6月に、金星が太陽の前を通過するのよ」
「へ?」
「あんた、自分の星でしょう?6時間くらいかけてホクロみたいな小さい金星が太陽の前を通過するのが観られるんですって」

なんて物知りな……

「自分の星なんていわれてもねぇ」
「ま、私も昨日のニュースで知ったんだけれどね」
うわ、それでも上から目線なんだ。さすが火野レイ様。
「じゃ、また見に来る?」
「まさか。6時間もあるんだから、わざわざ必要ないわよ」
「ふーん。そっか」

せっかく、金星なのにな。
でも、美奈子は真面目に見ない気がする。

レイちゃん式天体ショーも終わって、あとは学校に向けてチャリを走らせなきゃ。
「あ、ねぇ、待ってよ」
さっさと降りようとするレイちゃんの腕を掴んで、振り向こうとする身体をぐっと抱き寄せた。
「なっ…何よ?」
「誰も見ていないから、キスくらいさせて?」
愛している人にキスをするのに、返事なんて待つ理由はなくて。
「ちょっ……」
奪った唇は冷たかったけれど、拒絶の温度なんてなかった。
レイちゃんとのキスに、一度だって拒絶の温度を感じたことなんてない。
言葉では、嫌だとかやめてとかいつも言っている。でも、本気で拒否されたこともない。
照れ隠しに、つい出てしまうセリフなんだと思う。

「太陽のリングは安っぽいし、いっぱいの人がもらっているし、やっぱりレイちゃんには似合わないね」
レイちゃんはうっすらを瞼を開けて、じっと美奈子を見つめてくる。
その丸い黒い瞳に美奈子だけを映して。
「でも一緒に見られたから。私はレイちゃんからたくさん幸せもらってるもんね」
ちゅ。とひんやりした頬にひとつ。
「……調子いいんだから」
「うん。レイちゃんのこと、好きだもん。こういうときに私を誘うレイちゃんのことが好き」
指の間を泳ぐ漆黒の髪。さらりと絡めて引っ張るようにレイちゃんを抱き寄せる。
「美奈……」
「こんな素晴らしい日だもの、レイちゃんのこと抱き締めるくらい、いいじゃない」
「“くらい”って……キスしたでしょ」
「嫌?」


“別に”

レイちゃんは天邪鬼だから。

「別に」

ほら、心の中で呟いたセリフの通りにしゃべってくれる。
「じゃぁ、あともう一回だけキスさせて?」

美奈子が唇を寄せるより早く、レイちゃんが美奈子の唇を……心をわしづかみしてきた。

「さ、学校に行くわよ」

レイちゃんからキスをしてくるなんて、金環日食よりも珍しいこと。

「ねぇ、今のもう一回!」
「調子に乗るんじゃない!一回だけって言ったでしょ?」
「えっと、あ、でもほら、させて?ってお願いしたんだもん。じゃぁ、させてよ」
「嫌よ」



“ふん”


レイちゃんは、さっさと階段を下りていく。
真っ赤な顔をして。
きっとひんやりしていた頬は今なら熱いんだろうな。


今のレイちゃんの心の中に、金環日食の感動はどれくらい残っているのかな。
なんだか、美奈子の存在の方が勝っている気がする。

うん、絶対そうに違いない。


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Date:2014/06/12
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