【緋彩の瞳】 まどろむ午後

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

まどろむ午後

@クラウンパーラー



美奈子は運ばれてきたミックスジュースに手を伸ばそうとした。
「ん……」
が、綺麗なお姉さんが不満そうな声をあげたので、結局伸ばした手を膝に置いた。
(電車じゃあるまいし)
何日か前にも似たようなことがあったような。
美奈子はじっと動かずに、頭の中だけをフル回転させてみた。
(あの後、酷い目に合ったのよね。ま、おかげで……なことにもなっちゃって、結局得したけれど)
思い出しただけで、頬に食らった一撃の痛みと同時に唇の感触も思い出す。が、笑うに笑えなかった。ちょっとの振動でも綺麗なお姉さんは不満らしい。
(それにしても)
美奈子はちょっとだけ髪を摘んでみた。アクアマリンのふわふわっとした髪の感触は、愛しいあの人のサラサラしたエキゾチックストレートロングとはまた違って、これもこれで気持ちいい。
(まつげ長いわね。まったく、なんて美人かしら。お金持っていて、カッコいい恋人もいて、
 ヴァイオリンに絵まで描いちゃうし、おしとやかな性格だし・・・)
と考えて、美奈子は頭に?なマークが浮かんだ。
(まぁ、おしとやかというよりは・・・・謎よね)
二人きりでお話なんてあまりしたことがない。今日は二人とも待ち人はそれぞれもちろん別で、たまたま一緒に待っていただけだ。
(うーん、痺れてきた)
これが前と同じ人ならば、人目も気にしないで抱きしめるなり、膝の上に頭を乗せるなりと体制を変えることはたやすいけれど。
(うーん、困ったなぁ・・・困った・・・)
電車で居眠りするのと同じ体制では、そう簡単に動けないというもの。しかも、大きなアクションを取って起きてくれるのは結構だが、テーブルなりに頭をぶつけられると、この人の片割れ、もとい恋人に後で何を言われるか。
(我慢!我慢よ!)
目の前のミックスジュースは、氷が溶けてなんとも薄味っぽい色をしている。
(もう、飲めないわね。はるかさんに奢ってもらわなきゃ)
なるべくゆっくりと息を吸って、肩が上がらない程度に呼吸を繰り返す。
(わっ!)
完璧な動作のはずなのに、ふわふわ髪の綺麗なお姉さんの身体がゆっくりと倒れこむ。
「・・・・・ふぅー」
慌てて引き寄せた。なんと、起きる気配がない。
(謎ね、本当・・・)
そういえば、この人のことを“いい人だけど、ちょっと何考えているかわからない、はた迷惑な人”と、とんでもない表現をしたのは誰だっただろうか。
「・・・んげっ」
思わず声に出た。そして慌てて口を塞ぐ。自動ドアの向こうから、薔薇でも背負っているのではないかと思う、こっちも負けず劣らずの美人がこちらへ向かってやってきた。
(違うの!これは違うの!誤解よ!)
美奈子は表情でいっぱい訴えてみたが、近付いてきたその人が明らかに氷点下の眼差しを送って、そして“ふんっ”ってな感じを態度で表している。本来なら隣同士で座るはずなのに、その人は美奈子の前に座ると長い脚を組んだ。
「いらっしゃいませ」
「・・・・アイス・ティー」
店員が静かに現れて静かに消える。沈黙が続いた。美奈子は綺麗なお姉さんを押し返すことも出来ずに“抱きしめる”格好のまま固まっている。
「仲いいのね・・・」
運ばれたアイス・ティーにストローを差し込んで一口飲むと、その人は文庫本を鞄から取り出しながら呟いた。
「ふ、不可抗力ってやつ・・・」
声を出すと、ほらまた。綺麗なお姉さんが“うるさくてよ”って言わんばかりに、眉を顰めている。
「起こせばいいじゃない」
本の文字を目が追う。
(・・・・そんなこと言われても)
ちなみに、その人が読んでいる本のタイトルは“100の呪術”。美奈子は生唾を飲み込んだ。
これはもう、明日生きているかさえわからない。眠れる美女を恨んだ。涼しげな顔をして、1つ 1つ呪術を頭に入れているのかと思うと、死を覚悟するしかない。
(あぁ、先立つ不幸をお許しください)
美奈子は短かった人生を振り返ろうと、瞳を閉じた。

運ばれたアイス・ティーを飲みつつ、前に座る彼女が次々とページをめくっていく。
こんなに1秒が長いと感じるなんて。

カタン。

沈黙に耐えかねていると、何かが足元で音を鳴らした。
「ん・・いたぁ・・・」
腕の中にすっぽり納まっていた綺麗なお姉さんが小さく呻く。
「あら、ごめんなさい。痺れたから脚を伸ばそうとしたら、当たっちゃったわ」
(うわ、呪いじゃなくて実力行使に出たのね。わざとやったのかしら?)
目の前に座っているその人は、しれっと言っている。
「ん・・・・」
美奈子にもたれかかっていた綺麗なお姉さんは、王子様のキスでお目覚めというわけにいかなかったことに、不機嫌な様子で目を擦りながら身体を起こした。
「レイ・・・蹴りを入れたわね」
「何のことかしら?」
「気持ちよく眠っていたのに。アザになったらどうするの?」
「大丈夫よ、靴を脱いでからやったから」
(ずいぶんとまぁ、計画的に。狙っていたんだ、レイちゃん・・・)
美奈子はみちるを支えて痺れた肩を揉みながら、味の薄くなったミックスジュースを飲み干した。
(それにしても)
文庫本から目を上げることなく、みちると言い争うレイもレイだと美奈子は思う。
「私はあなたが気持ちよく眠っているときに、起こすようなことはしないわ。たとえはるかにもたれていても」
(そりゃ、みちるさんは寝ているレイちゃんを玩具にするから、起こすつもりはないでしょうね)
美奈子はちょっとそんなことを考えてみた。
「どうだか。みちるさん、電車じゃあるまいし人にもたれかかって眠るのはどうかしら?迷惑でしょう?」
「レイに迷惑をかけた覚えはないわ」
「みっともなく口を開けて眠る前に起こしてあげたから、感謝してよ」
「失礼ね。ただ単に嫉妬しただけじゃない。美奈子ったら、抱き寄せてくれるんだもの。気持ちよかったわぁ。専属の抱き枕として傍に置きたいくらい」
「・・・・・・」
文庫本の文字を追っている瞳が、じろっとみちるを捉える。美奈子は何も入っていないグラスを両手で持って、ひたすら空気を飲み込んでいた。
「美奈」
「な、なんでしょうか?!」
冷たい声で名前を呼ばれて、思わず立ち上がって気をつけの姿勢をとる。
「行くわよ」
「は、はひっ!」
鞄に文庫本をしまったレイは、両足を揃えて立ち上がる。美奈子は伝票を持って後を追いかけた。
「美奈、それはテーブルに置いたままでいいのよ」
「なんで?」
美奈子の手から伝票を抜き取ったレイは、みちるの顔の前に出した。
「今回も引き分けね」
「あら、私の勝ちじゃないの?」
「そうそう簡単に、勝たせるわけがないじゃない」
見えない火花がバチバチっと音を立てる。
「まぁいいわ。レイの嫉妬した表情も見られたことだし」
レイのアイス・ティーの伝票も取り上げたみちるは、勝ち誇ったように微笑んだ。
「引き分けよ!」
「はいはい。もう、ムキになっちゃって可愛いんだから」
レイの頬を指でつんつんつついて微笑むみちる。
(もしやみちるさん、わざとだったの?)
美奈子は聞くに聞けず、二人の争いをおろおろと見守っていた。

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Date:2014/06/12
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