【緋彩の瞳】 同じ夢を

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

同じ夢を

愛しい人よ



「美奈、キスしていい?」

何か、嫌なことがあったらしい
レイちゃんから誘うなんて普段はあり得ない
あり得ないことが起こるときに交わすキスは

苦くって
全然
気持ちよくない

美奈子の了解なんて必要とせずに押しあてた唇

春の空気が乾かしているのは
唇と
2人の間に流れる空気

秘密主義者なのは昔から
弱さを見せないのも昔から
いつも思う
弱さを隠したいのなら、隠しとおせばいい
隠しきれないのなら、すべてさらけ出せばいい
大声で泣きたいことがあるのなら、涙を雹のようにぶつければいい


「……何かあった?」
「別に」
「夜中に呼び出しておいて、コート脱いで一息入れさせてくれる前にキスするなんて、エッチのお誘いと言うわけ?」
「したいなら……別にいいけれど」
消極的なのか積極的なのかわからないけれど、でも、レイちゃんが美奈子を必要としているのは間違いなくて。普段、ちょっと胸を触っただけでも過剰に怒るくせに、美奈子のはだけたコートの中に忍び込んでくる冷えた腕が、温もりを求め今にも死にそうだと言わんばかりに縋りついてくる。
「……レイちゃんが、抱いてほしいって口にしたら抱くけれど」
外を走ってきた美奈子より、ずっと冷えた身体。虚ろな瞳が何かに怯えている。

「……………い…て」

それはあまりにも弱弱しく、絞り出した叫びの様だった。
「気絶させるまで抱くからね。誘ったのはレイちゃんなんだから」


ベッドに押し倒した美奈子は、自分の着ているものを脱ぎ捨てて乾いたレイの唇を吸い上げた。
性急なそれに、レイちゃんはついてこようとはしない。
されるがまま、力なく両腕は美奈子を抱いてくれることもない。シャツのボタンを弾けるように外して、乳房を乱暴に揉みしだいても、虚ろな瞳は天井を一点見つめたままだ。
スカートの中に差し込んだ右手。開かせた細い両足の間で、美奈子はやるせなくなってきた。
レイちゃんの身体に自分を重ねて身体を預ける。両腕はそれでも、美奈子を抱きしめ返さない。
「……レイちゃん」
「ん?」
「何が辛いの?」
「私、何か辛いなんて言った?」
「……身体が言ってる。耐えられないものがあるからって、エッチして自分をごまかすなんてさ、私の都合を無視しすぎだよ」
漆黒の髪に埋めた顔。2人の少しだけ乱れた呼吸の音だけがやたら耳に入ってくる。



「…………夢を見たの……」



美奈子の耳元で呟かれたそれは、新しい戦いへの預言だった。重たい鈍器で殴られたような感覚が襲ったが、それでもゆるりと身体を起こした。投げ出された両腕を取り、自分の腰を抱かせて、交わらない視線を遮るように唇を押しあてる。
「大丈夫、レイちゃん。私がいる限り負けたりしないから」
「……いつになれば夢は終わるというの?」
勝つとか負けるとか、レイちゃんが言いたいことがそんな単純なことじゃないくらいは分かっている。繊細な感情と感覚を与えられたレイちゃんは、誰よりも先にすべてを知り、誰よりも傷つき、誰よりも戦うことに怯えている。プリンセスよりも平凡でありふれた平和を強く望み、そしてそれが叶わないことを独り先に知る。
「夢は醒めるものだから」
「……そうだと……いいけれど」
また独りで眠れぬ夜を過ごすのだろう。
戦いに突入したら、レイちゃんは身体を休める暇もなく、悪夢に痛めつけられてしまう。
「そうだよ」

同じ夢を見させて
愛しい人よ


そんなきれいごとを言っても、そんな言葉を言われることなんてレイちゃんが嫌いなことだって知っている。できもしないことを口にしたりしない。


腹が立った


身体をどれほどに愛でても、レイちゃんの痛みを取り除けることなんてできやしない。
どれほど溶け合いたいと想っても、同じ夢を見させてはくれない。


「激しく抱いたら、レイちゃんは少しでも気が楽になる?」
「……なるかもしれないわね」

抗えない明日という未来に
少しでも希望が持てたらいいのに

「レイちゃんは何も考えなくていい。何も恐れなくてもいい。戦いの指揮権はすべて私にあるのだから、レイちゃんは私についてくればいいじゃない」
自信満々に言いきれることではなかったけれど、今の美奈子が言えることはそんなつまらないことでしかない。
「……美奈って馬鹿ね」
レイちゃんは冷たい手で美奈子の腰をそっとなぞり、美奈子がした愛撫とは違う手つきで乳房を包んだ。レイちゃんが時々見せてくれる愛は、どこまでも穏やかで優しい。
「ば、ば、馬鹿って何よ…」
「さぁ、ね」
わかってる。
レイちゃんが何を言いたいか、何を想っているか。
だから今は、ただ抱き締めるのが美奈子の愛。
はっきり口にしないのがレイちゃんの愛。
「レイちゃん、手が冷たい」
美奈子の乳房に置かれた両手が滑らかに頬へと滑りあがり、唇を求めるように視線が絡む。
「あたためて、美奈」
絡み合う身体から伝わる熱が
愛を伝える指先が
見えない闇へ引きずり込まれる愛しい人の苦しみを
せめて少しでも和らげる力になればいい


同じ夢を見させて
愛しい人 お願いよ

その一言が言えなくて



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Date:2014/06/12
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