【緋彩の瞳】 光を浴びて

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

光を浴びて


「欲しいもの、言ってよ」
「何よ、急に」
「だって、明日誕生日でしょ?」
美奈子の真面目な質問に、レイはなんと言えばいいのか思い浮かばなかった。だから、そっぽ向いてしらばっくれてみようと思っても、逃げた瞳の行方を追いかけて、彼女は身体ごと移動してくる。
「ね~。何もいらないの?」
「べ、別にいらないわよ。欲しいものがあれば自分で買うわ」
「そういうのちょっと可愛くないわよ、レイちゃん」
「悪かったわね」
「そーやって開き直るところも可愛くないし」
両頬を抓られて、○書いてちょんちょん、なんてされてしまう。ぴりっとした痛みはあるのに、嫌な気持ちを持つことが出来ない。
「うりゃ~」
ぴーんとひっぱって、ぱしっと指を放されると同時に、とりあえずその悪戯なおデコを指で弾いて仕返しをしてやる。その頭はずいぶんと軽そうに揺らいだ。本当にちゃんと詰っているのだろうかと心配してしまう。
「って~。レイちゃん、素直になればいいのに」
「素直って何よ。別に何もいらないわよ、本当に。第一、美奈はこの前お小遣い全部ゲーセンで使い果たしたって言っていたじゃない」
「お金出して買うものじゃなくても、プレゼントできるものはあるわよ」
去年もおととしも、同じことを彼女から言われた。そしてレイは2度ともはぐらかした。1度目は意味がわからないと嘘を吐き、父親と食事に出かけて彼女を避けて、2度目の誕生日は別に欲しくなかったけれど、余りにしつこく粘るために、クラシックのコンサートに連れて行くようにお願いをした。S席1枚でお小遣い3か月分。行ける訳がないじゃないかと言われたので、レイが全額支払い、一緒に行くことに意味があるからと、立場が逆転したエスコートになった。美奈子は演奏中にぐっすりと睡眠を取っていた。レイは壇上のヴァイオリニストをぼんやりと、ただ見ていただけだった。
「無理に何かしてもらわなくてもいいわよ」
「それじゃぁ、気がすまないわよ」
「美奈の気分の問題?だったら他所でやりなさいよ」
二人はいつまでも平行線で、交わろうとしない。美奈子が差し出した両腕は、清らかで光溢れている。だからレイは恐いのだ。この薄汚れた手を差し出すことが。
「…本当に、どうして何もして欲しいって思わないの?」
「だってわからないんだもの、本当に。誰かに何かしてもらいたいなんて思ったことないわよ。何度も言ったでしょ?」
寂しい人だと思われてもいい。むしろ軽蔑してくれたらいい。そしてこのささくれた心に入らないで欲しい。

欲しくなるから。
その光の全てを自分だけのものにしてしまいたくなるから。

そしてきっと駄目にしてしまう。
その輝きを、この汚れた情で汚してしまうのだから。

「こーんなに好きなのにな、レイちゃんのこと。大好きな人の誕生日なのに、レイちゃんがして欲しいって思うことをやってあげたいって思ってるのにさ」

軽々しく『好き』を歌う。体温が上昇するのに、心はそれを押しとどめるかのようにキツく感情の糸を小指に縛りつけようとする。
彼女の気持ちと結びつかないように。
彼女に全てを悟られないように。
「そう思うなら、お小遣いを貯めておくことね」
「……だから、ものじゃないって言うのに。コンサートだけはもう嫌だからね」
「いまさらチケットなんて取れないわよ」
まぶしい光がこの身を焦がしてしまいそうになる。
自分じゃなくて、もっと素敵な人が似合う愛の色。
彼女の『好き』以上にある、確かなこの苦しみ。痛くて息が詰る。
痛みから逃れる術は2つしかない。

全てを打ち明けて彼女に愛を乞い、一撃を食らうか。

そもそも愛野美奈子なんて存在しないことにするか。

どちらも選ぶことが出来ずに、3度目の誕生日がやってきてしまう。

本当に欲しいものがあるとすれば、彼女の全てだというのに。
「レイちゃんのいけず」
「美奈のほうが性格悪いわよ」
「何よそれ~」
欲しいのは、その光だと言うのに。
「……まぶしいから、近づかないでよ」

息が詰ってしまう。

「それじゃ、レイちゃんさ、チューでもする?」
「ば、ば、馬鹿じゃないの?!」

いつまでもかき乱されていたいと思って。
これ以上この痛みが続くのなら、冗談のフリをして唇を押し当ててしまおうか。
結局いつまでも、このままの状態に甘んじてしまう自分がたまらなく嫌になる。
レイは美奈子の頬を抓って、束縛しようとする両腕から逃げ出した。


関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/06/12
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/162-aa0b78d4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)