【緋彩の瞳】 愛を歌えば Wishing you ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

愛を歌えば Wishing you ①

あなたが生まれた日は、
優しい春の風が愛を奏でるようにカーテンをそっと揺らしていました。
あなたの名前を思いついたときのパパの笑顔は、
あなたが授かったことを知ったときと同じように
無邪気で子供のようでした。
あなたを初めて抱いたときの空の色は、
あまりにも美しすぎて私の知る言葉では語れないものでした。

レイ。

あなたが生まれて初めて握った愛しさを、
あなたが初めて呼んだ人の名を、
愛という花の舞うときが、
永遠に続くことを祈り毎日生きていたことを
今も覚えているのでしょうか。

永遠だと疑わなかった夢が
やがて解けてしまう魔法のようなものだったと知ったとき、
この身が涙に溺れてしまいそうになりました。

あなたの生まれた日が年に一度訪れる日。
あなたを授かった喜びを思い出す日。
生まれてきてくれたあなたに感謝をする日。
あなたの名前を呼べば、
あなたが“ママ”と返すことがつたない今、
いつさりげなく呼んでくれるのかしらと、未来を想像しながら。

そしてそのときも、
変わらずにあなたの傍にいられることができたのなら。
諦めという心は持たず、
私はいつまででもあなたを想い生きましょう。

私がいなくなったことに腹を立てて泣いてしまうことがないように。
私の生のすべてをあなたに捧げましょう。

レイ。
あなたがこれを読むときはどんな表情をしているのでしょうか。

あなたが生まれた日が訪れるたびに、どこにいてもどんな姿になろうとも、
傍にいると誓いましょう。

レイ。
生まれてきてくれてありがとう。ママを選んでくれてありがとう。





ずいぶんと古い封筒を見つけてしまった。人の手紙を読むのは犯罪といえば犯罪になる。とはいえ、“いとしいレイへ”なんて書かれた封筒を見つけてしまえば、ジェラシーが封筒の中を読めとわめいてしまうのだ。お手と言われたら右手を出す犬のそれと似たようなもの。

だけど、読むんじゃなかったと後悔した。すぐに思ったけれども、最後まで読まずにはいられなかった。
とても優しくて。
とてもとても優しくて。

「美奈」
お茶を淹れてくるからと言っていたのに、思ったよりも早く部屋に戻ってきてしまった。
「な、なに?」
机の前で、懸命に手紙を読んでいるのを横からとはいえ間違いなく見られた。何にもしていませんという笑顔は、頬を無理に引き上げようとすればするほど、ぴくぴくと震えてしまう。目を合わせたまま、当然レイちゃんは笑わない。
彼女はあまり笑うことはないけれど、無表情が怖いとはあまり思わずにいた。でも、今はそれが怖い。
「…それ、読んだの?」
「あ、あ、あぅ。いや、そのっ」
とりあえず、手紙を封筒に入れてみた。これで何もなかったことにはならないなんて小学生でも理解できるが、おぼれるものは藁であろうと象のしっぽであろうとも握らずにいられますかっていうものだ。
美奈子が取り繕って笑えば笑うほど、その乾いた声が広い畳の部屋の温度を下げている。春だというのに。
「読んだんでしょう?顔に書いてあるわよ」
レイちゃんが早かった理由は、暖かい飲み物じゃなくてジュースを持ってきてくれたからだ。

叩かれるか、罵倒されるか。

アーメン。
美奈子は自分のジェラシーが憎いとはじめて思った。もう少し馬鹿な犬でいたなら長生きできたかもしれないのに。


「それはね、ママがくれたのよ」
レイちゃんは美奈子が手に持っていた封筒を奪い取るようなことはせず、ただ手の平を向けた。
「あ。…ごめん」
「別に怒ってないわよ」
これ以上指紋を残さないようにいまさらながらつまんでレイちゃんの手の平に置いたって、読んだ事実は消えてなくなる
わけじゃない。怒ってないという言葉は、新手の怒っているという表現なのか、それともこのあとに神は微笑んで裁きを与えるのか。大切そうに胸に抱いて、それから机の引き出しのこれまた古い木箱へとしまう。よほど大切なものだったのだろう、美奈子はいきなり天気の話しをしてごまかすことも出来ず、かといってレイちゃんを見つめることも出来ず、部屋の天井を見た。
「何か聞きたいことがあるという顔だけど、別に怒ってないから聞いたら?」
視線をそらしたって、顔には知りたいと堂々と書かれている。
心の中に消しゴムがない正直者は、こういうときには損なのだ。
「レイちゃんさ、その、聞いていいの?」
レイちゃんのママのこと。
出会ったときからずっと何も聞かないでいたこと。あえて聞かないでいたこと。聞くことが怖いこと。
「別に。聞かれたくないと思ってないわ」
テーブルに置かれたジュースのグラスの中の氷が早く飲めと、小さな音を立てて崩れる。その音を合図のようにレイちゃんはテーブルの前に腰を降ろして両手でグラスを取り、ストローを口にくわえた。
煮え切らない態度ね、と言わんばかりに泡がジュースの中で踊っている。とりあえずレイちゃんの向かいに腰をおろして、
泡も立てずにジュースを一口飲みこんだ。
「レイちゃん、誕生日になるとあの手紙を読むの?」
「まぁ、読み返したいって思うのはだいたい誕生日に近づいたときかしら」
「…ふぅん」
「漢字が混じってあるから、ちゃんと読めるようになったのは小学4年生くらいだけど」
「ふぅん」
「あの手紙の存在をパパは知らないのよ。ママが私の幼稚園の鞄に忍ばせていて、私はずっと誰にも見せずに隠し持っていたから。だから、美奈が最初の人ね」
「…ごめん、見ちゃって」
「だから、別に気にしてないわよ」
なるべく神妙な顔にならないように、無表情でいようと思ってみたけれど。やっぱり薔薇のとげが指先を刺した感じに似たも
のが、のどの奥に少しだけ痛みを与えてくることが嫌だった。
「まぁ、多少は聞かれたくないって思っていたこともあったけど。今はそうじゃないし」
だから、もう少し勝手にしゃべっていい?普段から自分のことさえろくにしゃべらないレイちゃんが、さらに珍しく笑顔でそう言う。
「…レイちゃんがいいならね」
その笑顔はとても涼しくて、寂しそうなようであっさりしていた。


関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/06/12
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/165-d2399ea3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)