【緋彩の瞳】 愛のなる木 ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

愛のなる木 ①

新種の観葉植物を買った。

それは水も肥料も光もいらないという、サボテンさえ敵わない、忙しい日本人にとってはたいそう便利な観葉植物だった。

手の掛からない植物ならアルテミスさえほったらかしの美奈子でも部屋のアクセントにはなるし、緑があるというだけでなんとなくいい。
知的な感じもする。


まだ、芽が出たばかりのころ、それを美奈子は愛でるように毎日眺めていた。

この観葉植物の栄養素は、「愛情」である。
買った人が誰かを愛する心の成長と共に、成長するのだ。
種を小さな缶に置いたばかりの頃、好きな人がいた。
彼に出会ったばかりの頃、まだそれは恋という分類にわけることも出来なかった。なぜって、彼女はまだ小学校を卒業したばかりの子供だったから。

ラヴレターを書いたら種が膨らんだ。

でも、その種は芽が出なかった。
彼は実在してはいけない妖魔だったから。
膨らんだ種は瞬く間にしぼんでしまった。アルテミスと出会って、戦い続ける日々の中、種は膨らんではしぼみ、そしてまた膨らむということを繰り返してばかりだった。
美奈子はそれを眺めながら、この種はいつか腐ってしまうのではないかと本気で思った。


そんなときに思いもよらず、朝、その植物は芽吹いていた。

「・・・・私、誰か好きな人がいたっけ?」
自覚がない。学校にはいい面の男は確かにいる。でもそれは、愛情だなんてものを傾ける価値のない男ばかりだ。愛の戦士ヴィーナスの名において、そいつらではない。

「ふむ・・・」
今日も正座をしてマジマジと植物を眺めている。観葉植物とは、本来何気なく視界に入って和むものであって、こんなにマジマジと見るものではないのではないかとアルテミスが突っ込みをいれようとも、美奈子は自分がいったい誰に愛情を傾けて、しいて言えば恋をしているのかわからないのだから。まさか、異常でもあったのではないかとこうして監視しているのだ。

「ふむ・・・」
科学の大好きそうな亜美に相談したところでも、どうせこんな非科学的な植物を見た瞬間、解剖してやるといいかねない。まことは同じく、興味があるからと持って行かれるに違いない。うさぎなんて食べかねない。レイは・……無関心に違いない。

「ふむ・・・」
仲間の面々を思い描いていると、なぜだか、観葉植物がちょっとだけまた成長したように思われた。
「あらら」
友情にも反応するらしいのか。これはもしや不良品ではなかろうか。それでも今更変えてもらうと、また一からやり直しだ。膨らんではしぼんでを繰り返したせいで、少し変わってしまったのかもしれない。美奈子はなんだかかわいそうで、それでも可愛くて。こうして愛でてしまうのだ。


「それ、不良品でしょ」
「そうかな?」
「植物にデレデレして、ちょっと変よ」
隣を歩く彼女は背筋をピンと伸ばして、腰近くまで伸びた髪をさらさら靡かせ常に同じテンポで歩いている。
「見に来ない?今ね、可愛い芽が出ているのよ」
「そんなことよりも、アルテミスを可愛がってあげなさいよ」
「その辺のもの拾って生きていける猫と違って、私の愛情がなきゃダメなのよ」
「おめでたい人。わざわざ、そんなつまらないことを自慢するためにここまで来たの?」
ここまでというのはレイの学校のことだ。
レイの通学路を知っている美奈子は必ずレイに落ち合えるように、逆方向でレイの学校に向かって歩いてきた結果、今こうしてレイと一緒にいられるのだ。

「これから見に来てよ。可愛いんだってば」
「暇なのね、美奈って」
「愛情に時間を掛けているのよ」
「その日本語、なんだかおかしいわよ」

それでも彼女は面倒くさそうにしかめっ面を見せたとしても、嫌だとは言わない。それは美奈子にとっては肯定なのだ。腕を引っ張って、本来の通学路である神社へと続く坂の手前で曲がる。
「お茶くらい出しなさいよ」
「うん。ママいるから。レイちゃんが遊びに来てくれると、ママ、張り切って一番高い紅茶を淹れてくれるし、きっとおいしいクッキーも秘密の箱から出てくるわよ」

美奈子の友達の中、唯一本物のお嬢様であるレイは、うさぎの家に行っても、美奈子の家に行ってもかなり丁寧なおもてなしを受けることが出来る。レイ自身はそれを望んでいるわけではないし、気にして欲しいわけでもないけれど。

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Date:2014/06/12
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