【緋彩の瞳】 七夕

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

七夕

「確認するけれど、その笹…どこから取ってきたの?」
「もちろん学校の裏山。大丈夫!成長過程の竹の子を盗んできたわけじゃないわよ」
細くて長い笹を手にして現れた美奈子に、哀れ笹の不運をレイは嘆いた。
「それって、立派な犯罪じゃないの?」
「まさかぁ!笹は七夕のためにあるようなものじゃない」
罪の意識などさっぱりない美奈子は肩に担いでいた笹を下ろすと、疲れた腕をぐるんと大きく回してみせる。
「さてと、願い事書かなきゃね」
「用意周到ね。それくらい、何事にもキビキビ行動してくれないかしら?」
縁側から出てきたレイは、すでに折り紙で作られた飾りを鞄から次々と出していく彼女の小さなマジックショーを見ながら呟いた。もちろん褒めているわけじゃない。
「今、何か言わなかった?」
「別に」
「ほら、短冊短冊!5色って、5つの短冊に願いを書くってことでしょう?」
「あら、美奈子はそんなにたくさんのお願い事があって?」
名前を呼ばれたら誰もが一度は頬を赤くする声を持つと言われているみちるが、レイの部屋から出てきた。
想定外だ。
「み、みちるさん!どうしてここにいるんですか?!」
「私がレイと会うことが、そんなに不思議?」
“失礼よ”といわんばかりの表情のみちるは、レイの髪の毛を手にとってそっと撫でる。
「せっかく今日、晴れたから。私たちのマンションでは、笹を飾ってって言うわけにはいかないでしょう?レイと電話でそのことをお話していたら、神社で笹を飾ろうっていうことになったのよ」
「聞いていません!」
「だから、今説明しているわ」
微笑むみちるに、この人は絶対レイを狙っているのではないかと、美奈子は思う。
「はるかさんは?」
「笹を買いに行くって言っていたけれど。美奈が持ってきちゃったなら、2つになるわね」
「買いに行くって、今の時代は売っているの?変な世の中ね」
毎年、盗んでいたということのほうがよっぽど問題があるだろうと突っ込もうとしたけれど、レイは飲み込んだ。
「あれ?!」
裏手からエンジン音がしてはるかが戻ってきた。肩に担いでいる笹。まるで、さっきの美奈子のようだ。
「美奈子、もしかして持って来ちゃったのか?」
「はい。だって、はるかさんたちがいるなんて聞いてません!」
「あーぁ。だったら、あんなに勇気のいることをやらずに済んだのに」
美奈子の持ってきた笹と、どことなく近いものを感じ取ったレイはみちるを見つめた。
「…この時期になると、十番高校の裏の竹やぶにたくさん足跡が付くみたいなのよ。はるか、ご存知?」
アルトの美しい声は、時々その笑顔とは裏腹に恐怖を感じ取るときがある。最もはるかの場合はそう言うことの方が多いのだけれど。
「さ、さぁ」
「きっとパンダがいるんですよ、みちるさん」
レイはもう、それ以上の追求をするのもバカバカしく思った。気を取り直して笹を柱に括りつける。
「美奈子、なんで美奈子がいるんだよ」
「そりゃ、こっちのセリフですよ」
「僕はみちるがやりたいって言うから付き合っているだけだ」
「私だって、レイちゃんのために変身してまで取りに行ったんですよ」
不器用な美奈子が作った、飾りとも紙くずとも言いにくいものをとりあえず飾る。
「さてと。お願い事書かなきゃ」
「美奈子、5つも書く気なのか?!欲張りだな」
「ちょっと、さっきから喧嘩売ってやしません?」
「してないさ」
言い争いながら、ああでもないこうでもないと、はるかと美奈子は願い事をいくつも並べている。
「類は友を呼ぶってやつなのかしら?」
「レイ、はるかと美奈子が似ているとでも?」
「似ていないとでも言うおつもりですか?」
「…はるかのバカ」
みちるは短冊になにやら書き込み始めた。レイは隣でいまだ考え中だ。
「早くしなさい」
「思いつかないんです」
「あら、どうして?欲のない子ね」
「ありませんよ、別に」
5つの短冊を書き終わったはるかと美奈子が、今度は笹につける場所の取り合いを始めた。
「ないの?」
「だって、改めて言われると、困りません?」
テーブルに肘を突いて掌に顎を乗せたレイは、小さく溜息を吐く。
「欲しいものは、欲しいって言わなきゃダメよ」
ふわりとレイの背中に暖かい温もりが舞い降りた。みちるはそっとレイを後ろから抱きしめて、お気に入りの髪に唇を寄せる。
「みちるさん、いつも私の髪で遊びますね」
「あら、レイと遊んでいるのよ」
「…みちるさんの天然ボケが治りますようにっていうのは?」
「却下」
「…はるかさんのパンダ癖が治りますように」
「却下に決まっているじゃない。パンダ癖ってね、別に食べるために取ってきたわけじゃないでしょう?」
「…神社の経営が…」
「レイ、年相応のことを書きなさいな」
撫でるようにみちるの指がレイの髪をつまみ、スーッと梳いてゆく。絵を描いたり、ヴァイオリンを奏でたりするその指をレイは好きだと思う。
「レイは昔から欲のない子だったものね」
「前世のことですか?」
「そうよ。だから、ヴィーナスが苦労していたのよ。今日だって、レイのためにパンダになってくれたのではなくて?」
騒がしくする美奈子の姿をチラッと見ると、心臓のある場所がトクンとおかしな音を立てる。
「願い事、しなきゃいけないことなんてない。それじゃ、ダメですか?」
「ダメじゃないけれど…」
腰を落としてレイの頬に自分の頬をくっ付けたみちるは、フタがあいてないペンを握るレイの右手を両手で包んだ。
「今よりも、もっともっと幸せになりたいって願って生きているほうが楽しいって思わないかしら?」
「満たされて、それで終わっちゃダメと?」
「ダメよ。それは美奈子のためにもよくないと思うわ」
チュッ。頬にキスを送ったみちるは、束縛を解いて立ち上がった。
「考えてみて。私はこれを付けてくるから」
「…わかりました」
3枚の短冊を手にしたみちるは、縁側から美奈子たちの元へと向かった。その後姿を見て、レイはどうしてみちるが七夕のことで電話をしてきたのかわかった気がした。みちるやはるかが自分達のやりたいことのために、そんなことをするだろうか。
「ありがと」
ペンの蓋を開けたレイは、サラサラと書き始めた。

「レイ」
「何でしょう?」
「2つ書いたことは偉いわ。でもね、こっちの1枚。これは何かしら?」
「お願い事です」
“みちるさんの過剰なスキンシップが、改善されますように”
「これじゃぁ、変な誤解を招くじゃない」
「そうですか?困るんですよね、いきなり抱きつかれるのも」
「私は誰にでも抱きつくわけじゃないわ」
「私にだけですか?」
「えぇ」
言い切ったみちるに、聞き耳を立てていた美奈子がはるかの腕を取る。
「はるかさん、みちるさんはレイちゃんだけに過剰なスキンシップを取るそうですけれど?ちゃんと、首にロープつけて管理しておいてくださいよ!」
「あのなぁ。みちるのレイ限定抱きつき魔は、今に始まったことじゃない」
それは、マーズがまだシルバー・ミレニアムに召喚される前。ネプチューンは小さいころからマーズを可愛がっていたから。そのことをレイは覚えていない。
「何それ?!ちょっと、レイちゃん!どっちが大事なのよ!」
腕の引っ張りあいが始まろうとしている。
風が笹の葉を揺らして、願いを天まで運んでくれる。

今宵、月の船に乗り
 あなたに会いに行こう
  千億の孤独を胸に抱いて
   星屑たちの戯れに囁く音を聞いて
    千億の夜明けを胸に抱いて
     あなたに会いに行こう

「私の大切な人に、この想いが優しく伝わりますように」

年に一度のランデヴー。甘い甘い吐息が頬を掠めて、柔らかい唇に触れて。そんなことを期待していた美奈子の願いは、盗んできた笹ではかなえてくれそうもない・・・かも?

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Date:2014/06/12
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