【緋彩の瞳】 小指の約束 ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

小指の約束 ①

――――「約束よ」

冷たい小指に私の小指が絡まる。

「…えぇ、約束するわ」

そのとき、嘘を吐いた。




太陽に暗黒の影が広がり始めたその日から、二人はそれぞれの寝室で寝るようになった。
地球国が仕向けたと思われる無数の妖魔たちとの戦いで、マーズは疲労が溜まり、いつも以上に他人に冷たい。その原因を作ったと思われる、プリンセスの地球国の王子との密会を黙認していたヴィーナスは、この混乱がひと段落したらその四守護神のリーダーを下ろされる予定だった。
二人はかれこれまともに会話をしていない。また、出来る状況でもなかった。

「…ふぅ」
「大丈夫?」
太陽に現れた黒点が昼夜問わず妖魔を生み出し、月の王国へと攻撃を仕掛けてくる。地球国の女王ベリルが仕向けていると判明したものの、こちらから抗議をしたくても出来ない。協定を破り無断で地球に降り立ったのは、月のプリンセスの方なのだ。そのためにヴィーナスは地球と同盟国である数多くの太陽系に混乱を招いた謝罪に駆けずり回り、また援助を求めていた。しかし、地球国の異常な強さに銀河の危機を感じる星たちは、いくら銀河の頂点に立つ月の王国の要請とあっても、動いてくれそうにない。
「ダメ。当たれるところは全部要請したけれど。もう少し様子を見させてっていうの。ウラヌスたちは管轄外だから、手を出したくても出せないっていうし」
「出したら、いっそう地球国が反発しそうだものね」
目の下を薄黒くしたヴィーナスは溜息を吐き出して腰を下ろした。隣で休まずにキーボードを操作しているマーキュリーは画面から視線を少しはずし、うなだれる彼女を見つめる。
ひどくやつれた姿。リーダーらしくもない。自信に満ち溢れていることだけが取り柄って言う人なのに。
「プリンセスが地球に降り立ったことだけが、今のこの状況を招いたとは思わないわ。とても計画的で、きわめて残虐なやり方だもの。まだこの王国にそれほど傷がついていないから、聖戦士たちも渋っているのでしょうけれど。これから先に王国に大きなダメージが与えられたら、きっと協力してくれるはずよ」
「…地球国も、だからねちっこいのかしら」
「さぁ。でも、地球国にこれほどの力があったなんて知らなかったわ。影で何か大きな力が動いていることは間違いないわ」
暖かいローズティを注いだマーキュリーは、飲む?とヴィーナスに差し出した。
「ありがと」
受け取ったマグカップがやけに重たく感じる。それだけ疲れているのだろう。
「私は、ヴィーナスの行動に問題があったと思っていないから。恋をするプリンセスを応援したいあなたの気持ちもわかるし、プリンセスは許されないと言うことも承知していたんだもの」
覚悟の上での恋だったのでしょう?そんなマーキュリーらしくもない言葉に苦笑いをしてみせる。例えばこれが自分だったら、ヴィーナスもプリンセスと同じ行動を取っていただろう。だから、実らせることが出来ない恋を応援したかった。
自分と重ねてしまった愚かなリーダーだ。確かに失格だと思う。
「…でも、マーキュリーなら行かせなかったでしょ?」
「そうね。プリンセスをお守りするという立場なら、足をもぎ取ってでも行かせないわね」
「……」
恋をするプリンセスの眼差しに、誰が抗うことが出来るだろう。
人を好きになって、会いたくて会いたくて。
そして、その人が自分を好きでいてくれているのなら、どんな罪を犯しても添い遂げたいと思うものだ。
そう、たとえ何かを犠牲にしたとしても。
「でも、恋をしているプリンセスはとても綺麗だったわ。だから、あなただけを責めたりしないわよ。それにマーズも、この戦いはプリンセスとエンディミオンとの恋は関係ないって確信しているみたい」

マーズ。

攻撃を受けているのは月の王国。ほとんど彼女がすべて処理をしているはずだ。自分はプリンセスだけではなく、彼女までも傷つけている。

「マーズ、大丈夫そう?」
「会わないの?」
ローズティを飲み干しても、マグカップはまだ重たく感じた。テーブルにおいても右手は重たかった。いや、体全体が罪の意識で重たい。
「…会えないじゃない」
「会ってあげたら?さっき医務室で怪我の処置を終えて、自室で寝ているわ」
「怪我?」
重たかった体はイスから大きく飛び跳ねる。
「えぇ」
「…そう」
会いたい。
会って、でも謝るなんてしてもどうにかなるものでもないけれど。
「何を悩むことがあるの?プリンセスのことを応援していたあなたは、何もしないまま?」
キーボードがカチカチと鳴る。
彼女の情報処理能力は宇宙一。
ついでに、ヴィーナスの痛いところをずばっと突く技も持ち合わせていた。
「手厳しいわね」
「そう?マーズ、かなり無茶をして戦っているわよ」
「…そう」
「あなたの行動が間違いではなかったことを証明しようとしているんじゃない?」
「そんなお人よしじゃないわよ、マーズは」
本当は違う。
マーズのことだ、何も言わずに戦い続けているの決まっている。
「そうかしら?あなたが一番知っているでしょう?」
優しい口調。けれど、何かを責める口調。
こういうときのマーキュリーは、何もかもを知っているというわけだ。
「…お邪魔したわね。そろそろ戻るわ」
「いってらっしゃい」
「……」
敵わない。この人をリーダーにしてもらいたいと、ヴィーナスは思った。

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Date:2014/06/12
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