【緋彩の瞳】 小指の約束 ②

緋彩の瞳

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美奈子×レイ小説

小指の約束 ②

「マーズ、入るわよ」
1週間ほど訪ねていない部屋は、相変わらず何もない。殺風景だけどヴィーナスにとっては落ち着く場所。
「マーズ」
天蓋つきのベッドの中央の陰。そっとレースの中に入ると血の気のない彼女が死んだように眠っていた。
シルクのシーツから出ている両腕には包帯が巻かれている。軍神とも呼ばれ、外部内部太陽系でも1位2位を争うほどの戦闘能力を誇るマーズに傷を負わせる妖魔。
危機はもう、王国の中へと入り込もうとしている。
「…ごめん」
何を詫びたいのだろう自分は。怪我をさせる原因を作ってしまったこと。それとも傍にいてあげられなかったこと。
久しぶりに触れた頬はひんやりしていた。ヴィーナスを魅了させて止まない唇は、少し切れて血がにじんでいる。そっと指先でその血に触れると、眠り姫の睫毛がかすかに動いた。
「マーズ?」
「ん…ヴィ…」
唇が言葉を紡ごうとすると、切れた場所から乾いていない血が流れる。殴られたのだろうか。おそらく口の中は鉄の味だろう。
「シー」
ヴィーナスはそっとその唇から流れる血を舐め取り、そして唇を塞いだ。
この前の口付けはとても甘かったのに。
今はとてつもなく、罪の味がした。
このままずっとこうしているには耐えられない痛みが胸を押しつぶす。
「マーズ、大丈夫?」
鼻の先と鼻の先が触れる距離で、ヴィーナスは吐息をマーズの頬に吹きかけた。何かを言いたそうな瞳は、唇を動かすと言う行為を諦めたのだろう。

ぺちっ。

何かがヴィーナスの左頬に当たった。弱弱しいマーズの包帯だらけの腕だ。
「…ごめんって、言ったことを怒ってるの?」
瞳はいつもと変わらず厳しくて、それでいてヴィーナスの心の裏の裏まで読んでいる。
「だって、この戦いが終わったらマーズがリーダーになるわけでしょ?今のうちに謝っておこうって思って」

ぺちっ。

触れるだけのかすかな平手。いつものマーズなら今頃鼻血出してノックダウンに違いない。
「わかってるわよ。ちゃんと地球国に勝つわよ。そんでもって今まで通りの生活に戻れるように努力するわよ。私がプリンセスを甘やかせたからこうなったんだもの。あとは何とかするわ。私がクイーンに許可をもらって、銀水晶の剣を持って直接ベリルに会ってくるから」

わざとらしい台詞。明らかに嘘だった。
本当は、もう何もかもが無意味な気はする。
マーズをこんな風にしたのは、おそらく地球国の力じゃない。もっと、この銀河を揺るがす大きな影が潜んでいるに違いない。

だけど、そんなこと口には出せない。
もしかしたらもう、何もかもが手遅れかも、だなんて。

「…馬鹿よ、あなた」
彼女が呟いた。

だからヴィーナスはまた唇を塞いだ。
「うん、わかってる」
「もう、止められないわ」
「…うん、わかってる。でも、私のせいだもの」
怪我をしている彼女の体の上に覆いかぶさる。
こんなに細かっただろうか。
シーツの上から抱きしめた。
今ここで妖魔が王国を襲ってきたら、二人はこのまま動かずに死を選ぶだろう。
それくらい、愛しい。
「ヴィナ、違うわ。星の終焉は…生まれたときから決まってるもの」
「…うん、でもね。あなたに怪我をさせたりしたのは私のせい。最後の最後に、傍にいてあげられないのも私のせい」
「…それは、確かにあなたのせい」
ヴィーナスは少しだけ笑った。マーズも声は出さずに瞳だけで笑ってくれる。“馬鹿ね”と。
「まぁ、何とか私はリーダーの位置のまま死ねそうね」
縁起でもない。また頬を叩かれるかと思ったけれど、振ってきたのはそっと添えられた手だった。
「…マーズ」
やっぱり。
否定しないマーズの瞳。嘘で誤魔化すっていうことが出来ないマーズの瞳。
「…あと1時間くらい休んだら、あなたのことだからすぐに快復するでしょ?しばらく二人で寝ていないし。残りの時間はあなたと過ごそうかしら?」
怒っているだろうから顔を合わせたくない。最初はそう思っていた。自分が引き起こした戦い。マーズはカンカンに違いないと。
けれど、本当は薄々と気がついていた。この戦いは外交問題の決裂なんかじゃない。もっと、大きな悪の組織が銀河を支配するために地球国を駒にしているだけなのだと。
どれほどまでに強い光を放つ銀水晶でも、この闇を止める術はないと。
「ヴィナ。絶望は愚か者の結論、でしょ」
「…マーズ。でも、マーズだって見えてるんでしょう?」
頬を撫でてくれるマーズの手が、軽くパチンと音を出す。3回叩かれた。
「見えていても戦うわ。明日も明後日も、この王国を襲うすべての妖魔を倒す。それが私の使命だから。諦める人間は嫌いよ」
愛するもののために。
愛すべき王国のために。
「…そうね。じゃぁ、私もそうする。最後まで戦うわ。戦って、平和を取り戻して、あなたとずっと生きていく。今度は嘘じゃないんだから」
「約束よ」
美しかった。力ない腕で抱きしめてくれた。ヴィーナスも優しく抱きしめ返した。
「えぇ、約束するわ」

あなたの瞳に映し出された嘘は、優しかったのかしら。
でも、あなたの瞳も嘘を吐いたから。

だってマーズ、あなたも本当は私と一緒にいたいって思っているでしょう?
そう、瞳が伝えているんだから。

「約束よ」
マーズは念を押した。その瞳は寂しそうで、だけどすべてを受け止める覚悟をした瞳だった。
「…えぇ、約束するわ」
だからヴィーナスは誓いの口付けをして、ゆっくりとベッドを降りた。
冷たい小指を自らの小指で掬い取り、愛撫するように絡める。
「戦って、勝って、私はずっとあなたと生き続ける」

愛し続ける
永遠に

そんなことは
所詮
夢に描くものだとどこかで、誰かがどこかで思っていてもいい

ただ、口にせずにはいられなかった


あと、何度この瞳は彼女を映し出すことができるだろう
あと、何度この体は彼女の体温を感じることができるだろう



この嘘は許される罪だろうか
誰に許しを乞えばいいのだろうか。


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Date:2014/06/12
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