【緋彩の瞳】 正しい御礼の仕方 

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

正しい御礼の仕方 

「抱っこがいい?おんぶがいい?」
美奈がそう言った。私は大丈夫だと言って立ち上がって見せた。左足に力が入らない。
「ほら。無理してる」
「だから、大丈夫なんだってば」
「誰も見てないから」
「そういう問題じゃないわよ。大丈夫よ」
美奈の目が、だったら歩いてみろと言いたげにしている。
もちろん、歩いて見せるつもり。
「すっごく冷や汗かいて、そこまでしておんぶされるのが嫌なわけ?」
「当たり前でしょ!」

ふんっ。

でも、熱を持っている足首は凄く腫れ上がっている。神社の階段、右足ジャンプでがんばらなきゃいけないかもしれない。
「ったく。このへそ曲がり」
美奈は持っていた鞄を私に向かって差し出した。反射神経でそれを受け取ってしまう。
「何?」
「持ってよ」
「なんで?」
「決まってるじゃない。ほら」
金色の髪を肩の前に持ってきた美奈は、私の前に中腰で立っていた。これが意味するものは、だいたい1つだと思う。
「何、その格好」
「ここまでして、何言ってるのよ」
「いらないって言ったじゃない」
「いいから、さっさとしてよ!私だって、見たいテレビが待っているんだから」

カチン。

「何その言い方?!テレビ見たかったら、さっさと帰ればいいじゃない!」
「うるさいわね。素直にありがとうって言って、どかっと乗ってこいってーのよ!じゃなきゃ、抱っこするわよ?!!」
本気でやりかねない。
この人は。
中腰の美奈の肩につかまった。
「ねぇ」
「何?」
「パンツ見えちゃう・・・」
痛む足を美奈の腕の輪に入れようとして、気がついた。この制服は丸見えだ。
「大丈夫よ。ちゃんと押さえてあげるわよ」
強引にお尻の下に腕を回されて、いとも簡単に美奈は立ち上がった。
「きゃっ」
「軽いわね」
恥ずかしい。日が落ちた後だから人通りが少ないけれど。
「ねぇ・・・」
「何?」
「神社の階段、どうするの?」
「上がるしかないでしょ?ちょっと、ちゃんとつかまっててよ。鞄落とさないでよ」
美奈の首に腕を回すのが恥ずかしい。でも、落ちてしまいそうなので、空いている手を回した。
シャンプー、いい香り。綺麗な髪でつるつるしている。でも、恥ずかしいから俯いてきつく目を閉じた。
「レイちゃん、力入れないでよ!歩きにくいじゃない」
「下着見えそうなんだもの」
「見えないわよ」
「っていうか、美奈・・・その、掌でお尻支えるのはやめてよ」
さっきから、どうもお尻の辺りが気持ち悪い。布越しだけれど掌の感触がある気がする。
「やーね、サービスしてよね」
「何のサービスなのよ?!」
「パンツ守ってあげているんだから、文句を言わないの。これやめると見えちゃうわよ、パンツ!」
いくら人がいないとはいえ、大声でパンツなんて言わないでほしい。でも仕方ないから、力を抜いた。
「そうそう、言うこと聞きなさい」
神社の階段に差し上る。申し訳ない気がしてならない。
「美奈、下ろして」
「何のためにおんぶしていると思っているのよ」
「でも・・・」
「レイちゃんは、上った後に、ありがとうって言って、チュってすればいいのよ」
時々ずれ落ちそうになる身体を、たちどまって、よいしょっと持ち上げる。それを何度も繰り返して、だんだん息が切れてきた。

「美奈、もうそこまでしてもらわなくても大丈夫・・・」
なんだか優しくされるのは慣れない。早く下ろしてもらいたい。
「後10段とちょっとだから」
歩いていないときは、痛くない足。支えられているときは、肝心なところはダメージがない。だけど、地上に降りたら痛くて仕方がない。
(なんだかなぁ・・・)
ぜーぜーいいながら上りきった美奈は、降りようと足を伸ばしたのに、また、ずれた体を持ち上げた。
「美奈、もういいわよ。疲れたでしょ?」
「部屋まで送る」
「だから、もういいってば」
「何のためにおんぶしているのよ。意味ないじゃない!」
「階段上ってくれただけでいいわよ!」
どうしてこんなことで言い合いにならなきゃいけないんだろう。素直にお礼を言えば済むことなのに。自分は相当天邪鬼かもしれない。
「うるさい。黙ってて!!」
思い切り怒鳴られた。仕方なく口を閉じる。触れた美奈の背中。汗を掻いた体は火照っている。額から落ちる汗。器用に足で引き戸を開ける。ようやく、玄関で下ろしてもらえた。
「もっと早く下ろしてくれても良かったのに」
「うるさいわね」
息を切らしながら、美奈は腫れた足のほうの靴を勝手に脱がした。
「救急箱はどこにあるの?」
「私の部屋の、机の引き出し」
「よし。行くわよ」
「美奈っ!」
腕を引っ張られて、また、美奈の背中に助けてもらう。もう、ここまで来たら後5メートルはどうってことないのだろうか?
「よいしょ」
ベッドに下ろされて、私は少し嫌になってきた。嫌味がない優しい気持ちは、私を時々イライラさせる。
「なんでここまでするのよ?」
引き出しから救急箱を取り出して、中に入っている湿布と包帯を取り出した美奈は、足首の形に合わせて切れ目を入れて、わりと真面目な目で、丁寧に処置している。
「仕方ないでしょ」
それはこっちのセリフだ。仕方なくおんぶさせられたんだから。
「私だって、誰にでもするわけじゃないわよ」
「あら、美奈は博愛主義者じゃなかったの?」
「まさか」
あまった包帯を鋏で切って、全て終わった。
「博愛主義じゃないわよ。惚れた人間にしか優しくしないもの」
お礼を言おうと息を吸った私は、しばらく驚きでその息を吐くことを忘れていた。
「・・・・か、勝手に美奈がおんぶしたんだからね。お礼なんていわないわよ」
「要らないわよ」
絶対に言わない。お礼なんて。絶対に言わないんだから。


人の許可なく勝手に告白しないでよ。



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Date:2014/06/12
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