【緋彩の瞳】 一枚の写真 ①

緋彩の瞳

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一枚の写真 ①


「2年B組、火野さん。至急、学院長室まで来てください」
カトリックであるTA女学院は、容姿端麗、成績優秀、お家柄二重丸と、3拍子揃った日本でも格式高い女子校である。淑女の中の淑女。セレブの中のセレブ。サラブレッドの中でも超サラブレッドの集まり。
そこは、日本中の女の子の憧れでもある。
が、実際にそこに通っている女の子たちがたいそう立派かと言われると、そうでもない。
家柄も容姿も完璧なお嬢様たちが集まれば、微笑みの裏にあるのは嫉妬。憧れの裏にあるのは蹴落とそうとする野心。
その心がなければ、お嬢様とは言わないといっても過言ではない。
TA女学院高等部2年、火野レイ、17歳。
カリスマ的人気の裏には、必ずそのポストを狙う乙女達からの妬みがあるのを、彼女はわかっているのかいないのか。
わが道を行く超絶美少女である。

「何でしょう、シスター」
校内放送で呼び出しにされたからといって、別にレイ自身はたいしたことじゃない。過去に何度か呼び出されたこともある。別に校則違反(やってないわけじゃないけれど)で呼び出されたこともないし。選挙が始まると、よくその娘達は呼び出されて身辺のことなど気を付けるようにお話があるから、院長室そのものは、お仕置き部屋というわけじゃないし。レイは廊下を歩いて部屋に行く途中黄色い歓声を浴びて来たので、面倒くさそうな顔を見せて院長室に入った。放課後に入って間もない時間だというのに、遊びに行く時間が減らされるのは多大な迷惑。
「あぁ、来たわね。お座りなさい」
学校の有名人を呼び出すのは、いくら学院長といえども緊張の糸を張ってしまう。何しろ、火野レイである。淑女でありながら、けっこうよろしくない噂をいつも背負っている、ある意味スキャンダル女王なのだから。
それに。
「手短にお願いします」
相手が誰であろうと、上品に、けれど決して怯まないからちょっぴり怖い。
「わかりました、では手短に」
コホンと咳払いをした学院長は、手に持っていた何枚かの写真をテーブルの上に置いた。
「ん?なんでしょうか?」
「説明していただきましょうか」
そこに写っているのは、自分であることに間違いない。だからレイは素直に答えた。
「誰が盗撮したか分かりませんが、これは先週の日曜日ですね」
「そうですか」
「えぇ」
以上です、と言わんばかりにレイは口を閉じる。
「…それで?」
「それで?えっと、他に何か?」
左の眉を上げた学院長の表情にレイは顔を少し傾けた。
「不純であれ、純粋であれ、異性交遊は校則で禁止されているのはご存知ですね」
「はい、知っています。“婚約者が決まっている以外”は、ですわね」
社長令嬢などが多く通うTAでは、高校卒業とともに結婚という形が少ないわけじゃない。だから、すでに許婚やら婚約者がいる人もいるから、全ての交際を禁止しているわけじゃない。
「あなたの、“これ”は婚約者か何かですか?」
これと指差された、亜麻色の髪を持つその人の顔。レイはまじまじ見て鼻で笑う。
「まさか。こっちからお断りです」
だから、そういう口調で学院長とお話してはいけない。鼻で笑い、脚を組むレイの姿を見て、学院長は汗を掻きつつもペースを崩したりしないのだ。
「そう。では婚約者でもない人と交際なさっていると。つまりは不純異性交遊をなさっているわけですね、火野さん」
純粋かと尋ねられたら、胸を張って堂々とYESと言えない自分が情けなくもあるけれど、残念ながら不純異性交遊の、不純も異性も交遊も、まったく当てはまっていない。またもレイは鼻で笑いそうになったが、肯定と囚われるのも迷惑なので脚をそろえて背筋を伸ばしだ。
「いいえ。この人は女性ですわ、学院長。ほら、良くご覧ください。胸が目立たないようにしていますが、彼女はれっきとした女性です。名前もひらがなで“はるか”っていう、可愛らしいお名前なんですよ」
「え?女性?」
レイは写真の中で抱き合っているはるかの胸元を指差して説明した。“嘘っ”と小さく驚いてマジマジと写真を除きこむ学院長の顔は、ありえないものを見るような驚きで、ちょっとだけ見ていて楽しいかもしれない。
「はい。彼女は女性です。この学校では親友と外で抱き合ったりすることは校則違反でしょうか?何か問題でも?それとも同性愛が云々と、無理にでも私を問題児扱いになさるとでも?まさか学院長ともなるおかたが、根拠もなしにそんなことをおっしゃるはずはありませんわよね?」
これだから火野レイを相手にしたくないんだと、学院長は言いたくても言えない表情をして見せた。
「そうですね。どこの誰がこのような写真を撮って、私の元へ送ったのかはわかりませんから、私は確認のためにあなたをお呼びしたまでですが」
「でしたら、まずはその盗撮した人間を捕まえて、厳重注意をすることをお勧めいたしますわ。人のプライベートまで追い掛け回すのはいかがなものでしょうか?まして、学院長がそのことを呼び出して苦言するなど」
ちなみに、3枚ある写真の3枚目はばっちりキスシーン。
「そうですか。女性とは失礼いたしました。しかし、いくら同性であっても、このような行動は控えなさい。誤解を招くし、高校生がするようなことではありません」
余計なお世話ではあるけれど、反論するのも面倒くさい。
「気をつけます」
「よろしい。いくら女性相手とはいえ、抱擁など誤解を招く行動は慎むように」
「はい」
レイは3枚の写真を無断で奪い取った。返せと言えない学院長は黙ったままレイを見送るしかないようだ。
「学院長、今どき交際を禁止だなんて古臭いですわよ」
扉を開けて出て行く直前に振り返ったレイは、ちくっと攻撃してさっと閉めた。

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Date:2013/11/08
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