【緋彩の瞳】 手の甲にルージュ(R18) ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

手の甲にルージュ(R18) ①

いつもの静けさと少し違うのは、美奈が額に「必死」と書いたハチマキを巻いて受験勉強に追われているから、というだけではない。
そんな光景はもう慣れている。だけどここはいつもとは違う場所。レイの部屋でもなければ、まこちゃんちでもない。ここはみちるさんのマンションなのだ。普通なら考えられないこの状況も、高校受験失敗の危険が大いにある仲間のため、というわけで。
「ねぇ、みちるさん。これってどうするんだっけ?」
美奈とみちるさんとの距離は30センチあるかないか。丁寧に方程式にあてはめて説明するみちるさんの言葉を、必死にメモして解こうとしている顔はいつになく真剣。うさぎは亜美ちゃんに縋りついて英語の訳を教えてもらっているし、まこちゃんはレイの横でずっとひたすら歴史の過去問を解いている。
「そうそう、ほら、解けたでしょ?」
「あぁ、そっか。うん、わかってきたかも」
みちるさんは穏やかな声で褒めて、満更でもない美奈は子供のような笑みをする。
美奈、なんで「必死」っていうハチマキなんだろうか。「必勝」とか「合格」とかでもいいのに。そんな事を想いながら、レイは読んでいる小説に目をもう一度落とした。どこを読んでいたのかわからなくなって、文字がいっぱい襲ってくる。なんだかクラクラしてきた。
通い慣れたこのマンションに、普段、絶対にいない人間が4人もいる。何と言うか、異国の地のようだ。まこちゃんの家で勉強会をと思えば、まこちゃんは丸1日かけて掃除するために、レイの部屋で行われることが多かったのだが、今週はどうしてもおじいちゃんが立て続けに来客やら用事でいろんな人が家を訪問に来るとのことで、急きょ場所の変更となった。
レイは別に関係のない受験だけれど、仲間は1人でいたら確実に勉強をしないと思われるメンバーばかり。亜美ちゃんの家は夜勤のあるママがいるから迷惑をかけられないし、うさぎの家は弟がいるし、美奈の部屋は漫画などの誘惑するものがありすぎる。
図書館は声を出せないし、カラオケルームでなんて勉強するはずもない。
そして、白羽の矢が立ったのがよりによってみちるさんのマンションだった。もちろんはるかさんやせつなさんのマンションも候補に挙がったのだけれど、はるかさんはこの人数が座れるようなテーブルを持っていないし、せつなさんは仕事で東京にいないらしい。みちるさんも忙しいとかで断るだろうなと思っていたら、あっさり部屋の提供をしてくれて、かれこれ3日目。レイも一応指導要員として来ているわけだけれど、残念ながら亜美ちゃんのように教える能力はそれほどない。まさか、みちるさんがその役を引き受けてしまうなんて予想外のことだった。
「さ、頑張って、美奈子。これを1人で解けたら、結構点数を稼げるわ」
美奈子の肩を揉んで励まして、にっこり微笑んで。そりゃ美奈も、みちるさんにあんな風に励まされたら「必死」になるしかないだろうけれど。

……
………

なんていうか、レイは全然いなくてもよさそうな気がする。
そう思ってしまうのは、みちるさんの視界にレイが入る隙がないからなのか、レイが単に役立たずのせいなのか。
「あ……ジュースがない」
亜美ちゃんにスペルミスを注意されて泣きべそかいているうさぎが、グラスを取ると呟いた。
「レイ、淹れてあげて」
「あ………はい」
久しぶりに名前を呼ばれたと思えば、うさぎのためのパシリ。
まぁ、このメンバーの中では冷蔵庫を勝手に開けることができるのはレイしかいない。
うさぎのコップとついでに自分のマグカップを持ってキッチンに入ると、思い切りため込んだイライラをはき出した。

何でイライラしているのだろう。

うさぎには冷たいグレープフルーツ・ジュースを注ぎ、自分は温かい紅茶でも飲もうと思ってお湯を沸かす。沸くのを待つ間にうさぎに先にコップを渡して、もう一度キッチンへと戻る。読んでいたのかいないのかよくわからない小説もほったらかして、しばらくリビングから抜け出ようかな、なんて考えてみたり。
「暇つぶしって言ってもね……」
メールと電話以外の機能を使いこなせない携帯電話には、ゲームなんて入っているのかいないのか。入っていても使いこなせないから意味もないし。みちるさんの声は相変わらずよく聞こえてきて、根気強く美奈子に説明を続けている。もともとよくしゃべる方じゃないみちるさんだから、あんな風にいっぱい声を聞くと言うことも珍しいかも、と思う。
大きく伸びをして身体を揺さぶって、アールグレイの葉っぱが踊って香りが漂う空間は、暖房が届かなくて少し寒い。ここに長くいたら、風邪をひいてしまいそうだ。かといって、またあの輪に入っても、1秒が1分くらいに感じてしまうだろう。
特にレイが必要というわけでもなさそうだし、みちるさんの部屋で昼寝でもしちゃおうかしら。と考えても、頑張っている仲間がいる近くでそんな事が出来るわけもない。出せるだけ吐きだした溜め息を身体からはたいて、おずおずとまこちゃんの隣に戻ってくる。はさんでいても意味がないしおりは、とりあえずそのページまで捲ったらしい証拠なんだけれど、そもそもこの小説は推理小説だったか歴史本だったか、つまりタイトルさえわかっていないのだと、今、気が付いた。
結構時間は経っているはずなのに。何していたんだろう、本当。今さらこの本をもう一度最初から読みなおすなんて格好悪すぎる。かといって、別の本を取りに行くのもおかしな話。
必死な顔で参考書を手にしているみんなに悪いかな、と思って、レイは読んでいるフリをしてそのまま時間を潰すことにした。こんなことをして、これでもう3日目。ひょっとしたら、実は毎日同じ本を読んでいるんじゃないかと、ふと気になった。

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Date:2014/06/14
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