【緋彩の瞳】 短冊に願いを込めて ③

緋彩の瞳

その他・小説

短冊に願いを込めて ③

動物ビスケットのおやつを食べると、今日はお弁当を食べずに帰る。雨は全くやむ気配がなかった。
「は~い、バスに乗る人!行きますよ!」
せつな先生の声に、レイと美奈子は手をつないで一番前に並んだ。バスに乗り込んで、一番前の席を取るため。
「本当に迎えに来てくれなかったね」
先生の大きな傘に守られて、濡れずにバスに乗り込んだ美奈子は2人掛けの椅子を陣取った。
「嫌だな~。帰ったらもぅ、仲直りしていたらいいのに」
バスが嫌いなレイがぶーぶー文句を言っている。せつな先生は人数を数えると、レイを抱きあげて、膝の上にのせて出発させた。
「先生、はるかとみちるがまた喧嘩しているの」
せつな先生はレイの綺麗な黒髪を指でいじっている。レイはバスに酔いたくないみたいでせつな先生にしがみついてしまった。
「あら、またですか。まぁ、きっとお家に帰ったら仲直りしているわよ」
「うん。みちるはバス停まで迎えに来てくれないんだって。家で待ってるって」
「あら、じゃぁ気をつけて帰るのよ?みちるに2人がちゃんと家についたら先生にメールをするように、言ってくれるかしら?」
「はーい」
幼稚園のバス停と家は歩いて10分。家の前まで送ってくれないのは、バスが通れない細い道が沢山あるから。1台通るとギリギリで、車もそんなにたくさん通っていない道だけど、雨がザーザー降っているから、ちょっとだけ危ない。
「レイ、ついたよ」
バスが止まって、落ち込んだ顔をしたレイと手をつないで降りる。傘をさしてせつな先生に大きく手を振って、さようならをした。
「雨、凄いね」
「うん。美奈、転ばないでね」
「へーい」
傘が重たいくらい空から雨が落ちてくる。トトロの森みたいなところを横目に、大きな家がぽつぽつと並ぶ道を1列になって歩く。
「家に帰ったら仲直りしているといいね」
美奈子は大声で前を歩いているレイに声をかけた。
「うん」
長靴が水を踏みつけるビチャビチャした音。赤い傘は白い線からはみ出すこともなく、ちゃんとみちるに言われたとおり安全な場所だけを進んでいく。
「あ、美奈。見て!お花がきれい」
急にレイが止まったかと思うと、小川を渡る橋の手前で目をキラキラさせてきた。
「お花?」
「うん、ほらあそこ」
家とは反対方向の道のわきに綺麗な花が咲いていた。雨にぬれて寒そうに見えた。
「本当だ、綺麗」
「見に行こう」
「うん」
レイは花が好きで、お庭でみちると一緒になってたくさんの花を育てている。春も夏も秋もいつも色とりどりの花が咲いていて、これからの季節にはトマトとかきゅうりとかなすびも育っていく。美奈子は花の名前とかは覚えられないけれど、食べられるものでも花が咲くことは知っている。
大きな赤い傘を差したレイが道路わきに綺麗に咲いている花を指差して、“ユリの花”と教えてくれた。
「あっちには、朝顔もある」
道の反対側には紫色とピンクの花がたくさん咲いていた。レイと車が来ていないか左右を確認して渡って、綺麗だねって2人して花を褒めた。小さな川の周りにもたくさんの花が咲いている。
「あ、カエルだ~」
ピョンと跳ねたカエルを見つけた美奈子は、同じようにピョンと飛んでみた。傘に当たって跳ねた雫がレイの顔にかかった。
「美奈、はしゃがないの」
自分だって花につられて道草しているくせに。
「あっちも綺麗な花がある」
木がたくさんある薄暗い場所にポツポツと白い花が咲いていた。レイが突き進んでいくのを美奈子も追いかけた。レイはその花がヤマボウシっていうんだと教えてくれたけれど、きっと明日には忘れちゃうと思う。
「………あっ!」
綺麗な花をじっと見つめていたレイが、何かを見つけて声をあげた。
「何?」
「……人かな」
「え~?誰もいないよ?」
「うーん。じゃぁ、妖精なのかな」
レイは時々“妖精さん”を見るっていう。ママもパパもレイのその言葉をちゃんと信じているし、美奈子は見たことがないけれどレイは嘘を吐かないから、きっとレイにしか見えない“妖精さん”がこの世には存在しているんだと思う。
「どんな妖精さんだったの?」
「羽衣みたいな服を着てた……」
「それ、織姫様かな!」
今日、幼稚園で先生に教えてもらった織姫様と彦星様。羽衣っていう服も今日覚えたばかりだ。
「ん~。顔見えなかったよ」
「行ってみようよ」
「え~。でも、これ以上道草したら、ママに怒られるよ?まっすぐ帰るお約束だもん。それに、あそこは暗いから、危ないってママが……」
「ちょっとだけ誰もいないかを確認して、すぐ帰ろう」
薄暗闇の木々の中、美奈子とレイは少しだけ奥に進んでみた。雨が葉っぱに当たって落ちる音と、風が木々を揺らす音があちこちから聞こえてくる。
「いない………あっ!」
「あ!」
真っ白くて丸い光。誰か大人の人を包むその光は、雨の薄暗闇さえないように神々しい。美奈子は一瞬目がくらんで思わず瞳を閉じた。
握りしめているレイの手が、美奈子以上に強く握り返してくる。
「……あれ?」
ほんの数秒の間、光を遮っていたはずなのに、目を開けたらそこには何もなかった。
「美奈、見た?」
「……うん」
「羽衣っていうより…なんか、蝶々みたいな羽をつけていたね」
「うん。お姫様みたいだったね」
顔はよく見えなかった。あまりにも眩しすぎた。その人は立っていたのか浮いていたのか、幽霊だったのか、それとも妖精だったのか。
「……みちるたち、信じてくれるかな」
「ママとパパに道草したこと、言うの?」
「そっか。じゃぁ、2人だけの秘密だね」
「うん」
2人だけの秘密はいっぱいある。いっぱいありすぎて全部覚えていないけれど、こうやって2人だけの秘密をいっぱい抱きしめて、だから2人は仲良しなのだ。
「帰ろう、美奈」
「うん」
レイと2人でくるっと向きを変えて来た道を戻ろうとした。


関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/07/06
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/187-bafb0f81
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)