【緋彩の瞳】 一枚の写真 ②

緋彩の瞳

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一枚の写真 ②


「やっほ」
そもそも、学校帰りに喫茶店やらゲームセンターに行くのもどうかと思う。たぶん、禁止されているに違いないが、その辺はレイ以外の生徒もみんな当たり前のように放課後はあちこち遊びまわっているので、密告はされていない。
「ハル、今日お仕事は?」
「あぁ、休みだよ」
クラウンの前で待っていてくれたはるかに軽く手を振り、それでも、ポケットの中の写真を思い出してあたりを見渡す。誰もいない様子。
「何?誰かいるの?」
「いない。ね、美奈たちは?」
「先入ってる。今日は遅かったな。何かあった?」
「別に」
鞄をはるかに渡したレイは、パーラーへと続く階段の手すりを掴んだ。背中を押してくれるようにはるかがそのあとを付いてくる。それは当たり前だけれど、どこかで誰かが見張っているかもしれないと思うと、何ともいえない気分だ。
「美奈、みちるさん」
相変わらず仲むつまじい二人に声を掛ける。ぱっと片手を挙げて反応したのは、昔なじみのみちるの方。美奈子はずっとみちるの腕にくっ付き虫をしている。
「おかえりなさい、レイ」
「ただいま」
みちるの向かいに座り、隣にはるかが腰を下ろす。
「何がいい?いつものでいいか?」
はるかがレイの髪を撫でて、ウエイトレスの代わりを引き受けてくれた。レイは軽く頷いて前にいるみちるを見る。もちろん視界には美奈子も入るのだけれど。
「何?」
「もし、美奈の学校で交際禁止っていう校則があったらどうする?」
「いきなりね」
みちるはレイに何かあったのだろうと察して、腕にまとわり付く美奈子の頭を撫でて、少し離れなさいと優しく諭した。以前ならそれだけで不満そうな顔を見せていた美奈子も、もう付き合いが長くなると、素直にみちるの言うことを聞いてくれる。まぁ、こうなるまでにはいろいろあったけれど。ちなみに、はるかは呼ばれるまで黙ってレイの話を聞くつもりらしい。お互いのことに、あまり首を突っ込まないのがレイとはるかの愛し合い方。
「ちょっとね」
「そういえば、レイの学校はそういうのはダメよね」
「ま、厳しいだけが取り柄の学校だから」
「で?何か言われた?」
アイスティをかき混ぜながら、みちるは“おっしゃい”と目で伝える。レイは3枚の写真をポケットから取り出してテーブルの上に置いた。
「うわ、盗撮じゃないの?」
みちるの横で大人しくしていた美奈子が身を乗り出して写真を1枚手に取る。キスをしているレイとはるか。親友とはいえ、こういうシーンをこうやって見ると恥ずかしい気持ちになるのはなぜだろう。当の本人は気にしていない様子だけれど。相変わらず、レイとはるかは何を考えているのかわからない。ま、もうそれも慣れっこだけど。
「誰かがね、つけていたと思うのよ。それで今日、学院長室に呼び出し」
「どうしてそんなことするのよ」
美奈子はキスシーンの写真をみちるに手渡して、ぶーたれる。自分がされたら嫌なことは人にしてはいけません。という教訓をブツブツ呟きながら。
「いろいろあるのよ、TAにだって。で?レイはどうするの?犯人探しでもするおつもり?」
「別に興味ないからいいわ。それあげる」
こんなもの、欲しくないわね。みちるはそう言って3枚の写真を重ねてレイの手元に返した。レイだって欲しくないのだから、あとは破いて捨てるだけ。レイはびりっと破いて灰皿のうえに載せた。美奈子がもったいないと呟いてもお構いなし。
「お嬢様学校ってやることが陰険ね」
「美奈子、そういうこと言わないの」
“めっ”とお叱りを受けた美奈子はちろっと舌を出して可愛くわびた。別にレイは気にしていないからどうだっていいことだけど。
「でも、レイちゃんTAの有名人じゃない?レイちゃん自身がまったくもってその自覚を持っていないわけだし、それに加えてちょっと変人だからさ。ねたむ人多いと思うわよ」
「変人って何よ」
「そりゃ、あえてコメントはしないけれどね」
運ばれてきたピーチティーにストローを指したレイは、失礼も愛情の美奈子に軽く舌を出してみせる。
「まぁまぁ。とりあえずしばらくは気をつけることね。気になるようなら、私が探偵でも何でも雇って差し上げるわよ」
「何でもって、スナイパーでも送り込むつもり?」
「お望みなら」
それもいいわね。なんていいながら、レイは隣のはるかを見上げた。無表情のはるかは、コーヒーにミルクを注いでゆっくりかき混ぜると、レイの視線に気づかないのか、おいしく味わっているようだった。


「先、シャワー浴びるわね」
「あぁ。服、出しておくから」
「ありがと」
1時間ほどみちるたちとおしゃべりをしたあと、マンションに戻ったレイは、靴下を脱ぎながら廊下を歩き、そのままバスルームへと入って行った。はるかはクローゼットからレイの私服やら下着を取り出して、かごに入れておく。レイと暮らすようになってから、なんだかんだと便利になった。テレビもパソコンも揃い、温かい香りがする。冷蔵庫の中身も増えた。レイの嗜好に合わせたものを食べ、レイの望むような温度を保った部屋にした。イオンドライヤーも買ったし、必要なものは全てそろえた。満足は心を豊かにして、愛を紡ぐ勇気をくれる。
けれど、その愛し合い方で満足しているのはお互いだけで。それは間違えていないけれど、でも、形にすることが難しいことは出会った時からわかっていた。それはお互いに触れないで逃げてきた問題なのか、問題にさえならなかったのか、それはよくわからない。
「ハル、どうかした?」
しばらくソファーでぼんやりしていると、いつの間にかバスルームから出てきたレイが顔を覗きこんできた。
「いや、なんでもない。夕食作るから待ってろ」
「ハルも先にシャワー浴びたら?その間、私がやっておくから」
大き目のシャツを着たレイは、キッチンに入って冷蔵庫の中を物色し始めている。
「あぁ、じゃぁ頼んだ」
普段、はるかのほうが料理を作ることが多いけれど、決してレイがしたくないというわけじゃない。はるかはレイに夕食の準備を任せ、バスルームへ入った。

鼻歌交じりに野菜を切るレイの様子を伺いながら、洗いたての髪を少し乱暴にタオルで乾かす。
「レイ、あとはやるから。座ってろ」
「でも、切ったらもうあとは載せるだけだから。お皿用意して」
言うより先に包丁はもう使うことがなくなったらしい。はるかは少し大きめのお皿を二枚並べた。
「そういえば、昨日冷やし中華するって言ってたんだよな」
「えぇ」
細かく切ったきゅうりにタマゴに生ハムに。
「日本酒でもあったらいいんだけどな」
はるかはお皿に盛り付けているレイの隣で、冷蔵庫をあさり始めた。
「何でもいいわよ」
「あったあった」
小さなガラス壜の冷酒を取り出したはるかは、テーブルに並べられたお皿の横に一口サイズのグラスを出して注いだ。
「いただきます」
レイは自分が作ったものを、おいしそうに食べ始める。はるかはその様子を見ながら、ゆっくりと食べはじめた。タマゴに砂糖が入っている。甘い。
「…ハル」
「ん?」
「何かいいたそう」
麺をツルツル食べながら、正面を向くレイの視線を受けて、はるかは目をレイと合わせた。
「タマゴが甘い」
「…そういうことじゃないんだけど」
お互いに、胸の中が透き通って見えるときと、曇っていて見えないときがある。たぶんレイははるかの心が見えなくて。でもはるかは自分ではレイの心が見えていると信じていて。
「何にもないよ。テレビでもつける?」
「うるさいから、や」
「そうか」
行儀悪く、イスの上で胡坐をかくはるかを、レイは別に注意をすることもなく、マイペースに食べている。
「ご馳走様。せつなさんのところに遊びに行ってくる」
「せつな?」
レイは、いつも暇なときは部屋で本を読んでいるか寝ているか、あるいは誰かの家にふらっと出かけるかだから、別に珍しくもない。心許しているせつなの家に勝手に行くことはこれまで数えられないほどあった。
「なんで?」
「なんでって、暇だから」
「僕は?」
「ハル?一緒に行く?」
いつもは、レイがどんな行動を取ろうとも好きなようにさせているけれど、今日は気に食わない。
「一緒に行くって。僕がいるんだから暇にはならないだろう」
「ハル?でもいつも、私はせつなさんのところに行ってるわよ?ハル、止めたことないじゃない」
それも確かにそうだけれど。でも、なんとなく行かせたくないとはるかは思った。
「何だよ、避けてるのか?」
「誰を?何のために?」
わけがわからないと相手にしようとしないレイに、はるかはお酒をぐいっと飲み干して軽く睨む。
「…いいよ、行って来いよ。迎えになんて行かないからな。酒も飲んでいるし」
「歩いて3分の隣のマンションに車で来るの?」
レイはいつもと変わらない調子で、行ってきますと手ぶらで出て行った。

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Date:2013/11/08
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