【緋彩の瞳】 短冊に願いを込めて ⑥

緋彩の瞳

その他・小説

短冊に願いを込めて ⑥

「……こんな木あったかな」
「覚えてないよ」
「うーん」
レイが覚えていないのなら、美奈子だって覚えていない。さっきからぐるぐると同じ場所を歩いているような気がする。お腹も空いたし、きっとみちるとはるかは凄く怒っているだろう。
「……あれ?カラスだ」
膝が痛いから歩きにくそうにしていたレイが、大きな木に止まっている2羽のカラスを指差した。
「カラスっておうちないのかな。ずぶ濡れでも平気なのかな」
「うーん。でも、あのカラスたちはうちのお庭に時々遊びに来るカラスだよ」
「え~。そうだっけ?」
「うん」
レイは妖精も見るし、カラスも平気。美奈子は別に嫌がらせされたことはないから、嫌いじゃないけれど、東京の街中のカラスはみんな怖いらしい。
「パパとママが心配してるって」
「は?」
「カラスがそう言ってる」
言ってないじゃん。美奈子は突っ込もうとしたけれど、レイはカラスに向かって、うんうん、って頷いている。会話してるみたいに見えた。
「そっちじゃないんだって。そっちは凄く危ないところだから、それ以上はダメだって。お箸持つ方に曲がって、ずっと歩いてだって」
美奈子が先頭切っていこうとしている道を、レイは違うと言い切った。カラスが道を教えてくれている、って。
「……カラスさん、助けてくれるのかな」
「あのね、右がフォボスで、左がディモスなんだって。名前があるんだって」
「どっちがどっちか、区別つかないよ」
それに、覚えられないし。しかも外国の名前だし。カラスって日本にしかいないんじゃないのかなって、言いたいけれど言えない。レイは嘘を吐かないから、きっとカラスたちはレイと会話しているんだろう。
美奈子だって会話したいのに。
「行こう、美奈」
「うん」
レイの膝小僧から流れていた血はとまったけれど、雨にぬれているから、すぐにかさぶたにはならないし、両足を血が汚している。美奈子はレイの手をぎゅっと握りしめた。カラスが雨の中、バサバサ音を立てて飛ぶ。こっちの方向に進んで行ったら、多分おうちに帰る道に出られる、って言っているのだろう。



雨が道路を叩く音だけしか聞こえない。みちるはじんわりかいた汗をぬぐいながら、小川を下って行こうか悩んでいた。2人は流されたのかもしれない。その可能性が否定できない。
ユリの花がちらほらと綺麗に咲いているのが見える。
もしかしたら、たとえば花に見とれていて、足を滑らせて川に落ちたとか。
ありえなくない。
いや、もう可能性として残っているのはそれくらいしかないのではないか。
「ちょっと、みちる!」
みちるは小川を橋の上から見詰めて、この先に2人がいるのではと思えてならなかった。
レイは泳げない。美奈子はスポーツ万能だけれど、こんな流れの速い川では、子供の力では無力で流されていくだろう。
無意識に橋の上から身体を乗り出していると、せつなが腰を掴んできた。
「何するの!放してよ、せつな」
「ちょっと、飛び込むつもり?」
「あの子たちが流されたかもしれないでしょ?」
「だからって、あなたが流されてどうするのよ」
「大丈夫よ」
「大丈夫じゃないわよ、落ち着きなさい」
引きずり降ろされてしまう。みちるは傘を手放して、しゃがみ込んだ。
「だって…だって……」
「雑木林を探しましょう。ここを探して、それでもいなかったら警察に電話をしましょう」
「あそこは危険だってちゃんと教えているわ。突き進むと崖で、落ちてしまうのよ?」
そうだ、まだ探さなければいけないところがある。もしかしたら、あの雑木林に入り込んで、崖から落ちてしまったのかもしれない。でも、行かないようにと教えたたはずだ。
「これだけ探してもいないのなら、あの雑木林しかないでしょう」
みちるは立ち上がって、傘も持たずに雑木林へと駆け込んだ。
「ちょっと、危ないから!」
みちるの後を追いかけて、また腕を掴まれる。
「放してよ、せつな!」
「はるかを呼んで、3人で入るのよ。迂闊に入って、1人で何かあったらどうするつもり?」
「そんな、レイと美奈子がいるかもしれないのに、そっちの方が心配じゃないの?」
「お願いだから、これ以上迷子を増やさないで頂戴」
引っ張り合いをしていると、バイクの音がこちらに向かってきた。
「おい、みつかったか?」
「まだよ。ちょうどよかったわ。今から雑木林の中を探そうと思うの。あなたも来て」
せつながはるかを呼びとめてる間も、みちるの腕を放してはくれない。
「レイと美奈子はこんな危ないところに行くかな……」
はるかはバイクを止めてヘルメットを外した。汗をぬぐいながら、傘もささずにみちるの腕を掴んでくる。
「ここにいなかったら、崖から落ちているか川に流されてしまっていると思うの」
みちるだって考えたくはないけれど、考えずにはいられない。
「……もしかしたら、レイが花に見とれてしまったのかもな」
はるかが薄暗闇の中に見える白い花を指差した。そこにはレイの好きそうな花が闇に誘うように咲いている。
「かもしれないわね」
「見つけたら、お仕置きだ」
はるかの腕を掴んで、暗闇の雑木林を進む。せつなもその後ろに付いて来ながら、辺りを見渡し、2人の名前を叫んだ。

「レイ!!!美奈子!!!」

それに応えるように、カラスの鳴き声が奥から響いてくる。
どしゃぶりの雨の中、そのカラスの鳴き声は何か希望が持てると思えた。


関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/07/06
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/190-0f99d300
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)