【緋彩の瞳】 短冊に願いを込めて END

緋彩の瞳

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短冊に願いを込めて END

「あ、今パパの声がした!」
レイは美奈の後を歩きながら、かすかに聞こえたパパの声がどのあたりからだったかを確かめるように耳をすませた。
「うん、聞こえた気がする」
「こっちで正解なんだね」
姿が見えないけれど、フォボスとディモスが鳴いている。こっちでいい、って言ってる。
「パパ~~~~~!!!!!!」
「はるか~~~~~~~~!!!!」
「ママ~~~~~~~!!!」
「はるか~~~~!!!」
「美奈、ママは呼ばなくてもいいの?」
「だって、みちるはきっと凄く怒るよ?」
「パパが見つけてくれたとしても、絶対怒られるよ」
美奈はママが恋しくないのだろうか。怒られる方が怖いのだろうか。
こんなところで迷子でいるより、ママの方が怖いって思うのだろうか。
でも、レイも怒られることは好きじゃないし、できればそれからは逃げ出したい。
だけど、やっぱりママに抱きつきたい。
レイはきつく握りしめた美奈の手を放さないように、ぬかるんだ泥でこれ以上転ばないように、慎重に慎重に、それでもママを呼びながら歩いた。膝も痛いし、額もヒリヒリ痛いけれど、ママが優しく手当てしてくれるだろうから。
暗闇が少し薄らいだように思えた。高い木々に囲まれていたけれど、いつしか見たことのある花が足元にある。
「あ、この花見たよ!」
美奈が嬉しそうに叫ぶ。
「うん!」
来た道に戻って来たのかもしれない。
空を見上げると、さっきまで何も見えなかったけれど、雨の落ちる雲が見えた。


「レイ~~!!!美奈子~~!!!」
パパとママの声がする。ぬかるみに足を取られながら、レイと美奈子はその声のもとに走った。
「パパ~!!!ママ~~~!!!」
「はるか~!みちる~~!」



雑木林を進むと、足元に幾つもの花が咲いていた。ぬかるみが、レインブーツの踵の自由を奪う。
「レイ~!美奈子~!」
はるかが声をあげた。みちるも声をあげた。
「パパ~~~!!!ママ~~~!!!」
「はるか~!みちる~~!!」
2人の声がかえってくる。
「聞こえたよな?」
「えぇ」
みちるは握りしめていたはるかの腕を放して、急ぎ足で声のする方へと進んだ。
「よかった。2人ともこんなところで道草していたのね」
せつなのほっとするため息。
「2人とも、どこにいるの!!」
手で作ったメガホンで、みちるの声が雨を縫うようにして広がっていく。
「ここ~~~!」
美奈子の声だ。子供と同じ背丈の草の中から、レイと美奈子がずぶ濡れた姿で飛び出してきた。
「いた!」
「パパ~!ママ!」
「レイ!美奈子!」
駆け出したみちるの両腕に、2人が飛び込んでくる。
「レイ…美奈子……無事でよかったわ」
「ママ~~~ママ~~」
「あのね、レイがね、こけて怪我したの」
「本当?」
みちるは2人を抱きあげて、片方の美奈子をはるかに渡した。濡れネズミは迷子だったくせに泣きもせずに、はるかに抱きしめられて喜んでいる。
「レイ、おでこから血が出てるわ。大変、早く消毒しましょう」
「ママ~~」
「よしよし。かわいそうに……怖かったのね」
レイは泥だらけだ。それでもみちるは食べてしまうのではないかと言うくらい、抱きしめて頬にキスをしている。
「はるか、美奈子もレイも泣かなかたよ。偉い?」
「迷子になったくせに、偉いもないだろ?」
「ぶ~~…」
「ごめんなさい、だろう?」
美奈子はふてくされて唇をとがらせている。不服申し立てだろうが、却下だ。
「まずは、一緒に探してくれたせつな先生にごめんなさいだ」
「ごめんなさい、せつな先生」
「はいはい。まったく、人騒がせな一家だわ。2人とも、もう二度としちゃダメよ」
ずぶ濡れになりながら、美奈子をバイクにまたがらせて、押しながら帰った。膝もすりむいているレイは、みちるが歩かせようとしても腕から降りようとせず、縋りついて離れないので、家まで抱っこされたままだった。

はるかがせつなを幼稚園まで送り届けている間に、雨に濡れて泥にまみれたレイと美奈子と一緒に、みちるはお風呂に入ることにした。
「傷、痛い?」
「うん…大丈夫」
両膝と額の泥を丁寧に洗い流し、美奈子とレイの髪と身体を丁寧に洗う。
丸くて広いバスタブに腰を下ろすと、2人が膝の上に乗ってくる。後で思いきり怒るつもりでいるけれど、今はまだ無事だったという安心感が強くて、甘えてくる2人が愛しくてたまらない。
「2人とも、どうしてあんなところに行ったの?」
「花が綺麗だったから」
レイはすぐに答えた。本当にレイはそれだけの理由であんな雑木林の奥へと進んだのだろうか。
「美奈子はどうしてレイを止めないの」
「だって……秘密だもん」
「秘密なの?」
「うん。レイと秘密って約束したもん」
何か隠そうとしているのは、見ていてよくわかる。シーなんて2人で言いあって。きっと何か面白いものを見つけたのだろう。
「あ……」
お風呂から見える庭の木に、カラスが止まっている。時々庭に来るカラス。最初は気味が悪いと思っていたけれど、特に何をするでもなく、鳴きもせずにそこにいる。
いたずらとか、餌を求めて庭を荒らすとか、そう言う都会のカラスがやるようなことはしない。
2人がまだよちよち歩きをする前くらいから、あのカラスたちは来ている。2人を見に来ているのではないか、と思うことがある。とりわけレイを。
「あ~。何とかと、何とかっていうカラス」
「フォボスとディモス」
「どっちがどっちか、わかんないでしょ?」
「あっちがフォボス、そっちがディモス」
みちるの視線を追いかけて、レイと美奈子がカラスを見つけた。
「2人とも、カラスに名前を付けたの?」
「レイが、カラスからそう呼んでって言われたって」
「レイが?レイはカラスをお話しできるの?」
レイは困った顔を見せながら、小さく頷いた。
「レイにしか聞こえないんだよ。美奈子は全然聞こえないもん」
「きっとカラスたちはレイのことが好きなのね」
額の傷にキスをして、レイのすべすべした頬を撫でた。
「ママは信じてくれるの?」
「当たり前じゃない。あのカラスたちはずっと2人を守ってくれているのよ」
「帰り道を教えてくれたの」
「そう。感謝しないとね」
レイは赤ちゃんのころから、不思議な力を持っている。本人の自覚もないし、それがいいことなのか悪いことなのか、みちるもはるかも最初のころは悩んでいた。
だけど、その力も含めてレイが愛しい。そして、それを信じている美奈子も。
「七夕のね、お願い事にね、せつな先生に彼氏ができますようにって書こうとしたら、頭叩かれたんだよ」
「それは美奈子が悪いわね。美奈子はせっかく年に一度の七夕なのに、せつなの心配をするの?」
「美奈の短冊に“けんこう”って書かれちゃったんだよ」
せつならしい。せつなには2人が悪いことをしたら遠慮なくお尻でも頭でも叩いてくれていいって伝えている。まぁ、美奈子の頭を叩いたのは教育的指導と言うよりは、個人的な恨みかもしれない。
「だから、美奈子は怪我をせずに済んだのね」
「ぶ~~…」
美奈子はふてくされてそっぽ向いた。


「ただいま~!お腹空いたぞ!いい加減、お昼御飯食べよう!」
はるかが戻って来た。みちるは2人を抱きあげてバスタブから出て、待っていたはるかにレイを渡し、美奈子の亜麻色の髪を丁寧にタオルで拭いてあげた。


お腹一杯お蕎麦と天ぷらを食べた後、
レイと美奈子は物凄く怒られたのだった。


「みちるとはるかに怒られませんようにって、書いておけばよかった」
「でも、雨の日のバスはしばらく乗らなくて済んだね」
「レイはそれが嬉しいの?」
「うん」

レイと美奈子は1週間、おやつ抜きの刑に服している。






レイにパパとママと呼ばせ隊!
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Date:2014/07/06
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