【緋彩の瞳】 淡い色の恋をした ①

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

淡い色の恋をした ①


私が好きな人は、残酷なまでに慈愛に満ちている

その強さがあまりにも美しく
優しすぎて

私はこの愛を自ら殺めた


こんなに悲しいことはない
こんなに悲しいことはない
こんなに悲しいことはない







「やっほ、緋彩ちゃん。ちょっとよくなった?」
相変わらず色白で細いその子は、美奈子の友達。
彼女は高校になって最初にできた友達だった。うさぎたちと同じ学校にはなったけれど、純粋なクラスメイトとしてのお友達。隣の席に座るその子は、いつでもいなくなりそうな雰囲気を持っていて、案の定、入学式から3日後にはしばらく姿を消した。
「美奈子ちゃん、こんにちは。うん、ちょっと調子は良くなったの」
緋彩ちゃんは実は18歳で、度重なる入退院を繰り返して、3度目の1年生を迎えている。
「これから夏っていうのに、大丈夫?」
「あんまり休むと、今度こそ退学になってしまうし」
学年に1人はいそうな、典型的な虚弱体質タイプ。五体満足な健康体の美奈子は微笑みかけるくらいしか能がない。
「そっか。あぁ、ねぇ。今日の放課後、レイちゃんに会うんだ。もし体調が良かったら一緒にこない?」
「え?本当?ありがとう、嬉しいわ」
小学生のような笑顔ときらりとした瞳。
麻布十番界隈で火野レイの名前を知らない人間はいない。レイちゃんはものすごく好かれるか、そのカリスマ性に嫉妬されるかのどちらかだけど、緋彩ちゃんは筋金が5本くらいはいっているほどの、レイちゃんファンだった。
「いや、そんな大したことじゃないんだけど。とにかく、放課後まで元気でいてよね」
「うん!」
まるで、レイちゃんが彼女を生かしているみたいに。だから、美奈子が緋彩ちゃんに出来ることはレイちゃんに会わせてあげるくらい。
レイちゃんがそれをどう思っているかは、本当のところ聞けないでいる。





「レイちゃん、こんちー」
のんきな声と軽快な靴音。みちるが広げていた雑誌を一緒に覗き込んでいたレイは、声の方向へと顔をあげた。さらりと髪が邪魔をするから、片手で押えて美奈を見上げる。
「美奈」
「やっほ。あ、みちるさんも」
「ごきげんよう、美奈子」
美奈の陰に隠れている人がいる。その気配に視線を移すと、それを待っていたように美奈子が一歩右にずれた。
「緋彩ちゃんだよ」
「こんにちは、緋彩ちゃん」
美奈のクラスメイトの子。あんまり身体が丈夫ではないという子。
「えっと、あの、こんにちはレイさん」
美奈が言うにはファンということらしい。あんまり身体が丈夫ではないし、何もしてあげられないから、せめて本人が楽しいとか嬉しいと思うことをしてあげたいと相談を受けた。レイは会って話しをするくらいならば構わない、と返事をしたのだ。幼馴染のみちるは止めた方がいいと忠告をしてくれた。みちるが反対している理由もよくよく分かったうえで、レイは美奈のお願いを聞いた。今までの経験上、みちるの忠告は聞いておいた方がいいことはわかっている。
「さてと、どいて」
横並びに座って雑誌を見ていたみちるは、美奈に腕を引っ張られて追い出され、代わりに緋彩ちゃんがレイの隣に座らされる。レイは苦笑しながらその一連の作業を文句言わずに眺めているだけだった。
「何か飲む?」
「あ…えと……み、ミルクティー」
レイがなるべく優しく問いかけると、赤くした顔で慌てながらメニューも見ないで応える。
「宇奈月ちゃん!マンゴーパフェとホットミルクティー2つ!」
美奈は向かいに座りなおしたみちるの隣に座って、元気良く手を挙げた。みちるはレイの足を軽く蹴って、“いいの?”と顔も見ずに心の中で聞いてきた。レイはそれに応えるように蹴り返した。

仕方がないでしょう?


緋彩ちゃんは少しシャイでおとなしい子で、会いたいという割には積極的に話しかけてくれるタイプではなかった。それを美奈がうまく会話を繋ぐように、いつものような会話に、ところどころ緋彩ちゃんの意見を聞いたり、同意を求めたりして繋げている。普段はレイも人の話しを聞く方ではあるが、緋彩ちゃんがいる限り話しのラリーに参加しなければならなかった。
「レイちゃんの夏休みのご予定は?」
溶け始めているアイスを掬いながら、美奈はこの前うさぎたちと話していたことをまた聞いてきた。
「さぁ?涼しいところでも行こうかしら?東京は暑いから」
その時は、みちると帯広にある別荘で1週間のんびりすると答えた。実際に計画していることだった。だけど、今日はそれを言わない。
「緋彩ちゃんは?」
レイではなく、美奈が質問する。別にそれくらいの気を回すくらいはできるけれど、一生懸命に会話を弾ませている美奈のテンポが速くて。
「うーん。体調が良ければお祭りにでも行ってみたいかな。あんまりそう言うところに行ったことがなくて」
「んじゃ、行こうよ!麻布十番のお祭りは楽しいよ。ね?レイちゃん」
行く約束というより、決定事項らしい。別に行かないとは言わないけれど。毎年、仲間と連れ立って露天をまわって遊んでいる、そこに参加をさせるということでいいのかしら。
「えぇ。……いいわよ」
「緋彩ちゃん、風邪とか引いちゃダメだよ?夏祭りに照準を合わせて規則正しく生活してね。せっかくレイちゃんとお祭りに行くんだから」
まさか2人で行かせるつもりなのかしら。
聞こうと思ったけれど、美奈に言われるがままに行動していますって彼女に伝わるような気がして、口に出せなかった。
ただ、緊張が伝わってくる緋彩ちゃんに微笑みかけてあげるだけ。
別にどうしたいとか、どうなりたいとか、そう言うことはない。

色白で、見るからに身体が弱そうで。
そう遠くはない未来で彼女は命を落とす。
死を司る神が彼女の肩に手をかけていることは、初対面の時から気が付いていた。
若くして死ぬのだから、せめて彼女を悲しませたくないと、この戯れに付き合っているのかどうか、正直レイ自身にもわからない。

だけど
美奈を傷つけたくないから。
美奈に責められたくないから。

彼女が死んだときに、どうして優しくしてあげなかったの?と言われたら、レイはきっと耐えきれないだろう。背伸びをしていい人のフリをして、それが美奈を好きな自分ができることだと思った。
だから、みちるが快く思っていないことも理解できる。
その優しさがかえって自分の首を絞めるのよ、と。
だけどこれは、優しさではなく“弱さ”だと思う。
逃げられない。嫌いになることも、諦めることもできないくせに、ただ好きだから。

「レイさん、本当にいいの?」
「えぇ、構わないわ」
「お祭りなんて、好きな人と行くものでしょう?」
「そうかしら?毎年みんなで行っていたから、考えたこともなかったわ。嫌でなければ、一緒に行きましょう」
「わぁ、嬉しい!」
美奈がアイドルを追いかけているときに見せる、興奮に似た色で見つめてくる。
はるかさんみたいに、歯の浮くようなキザなセリフの一つでも、あるいは無意味に頭をなでるとか、したほうがいいのかと思いながらも、それは流石に小さな子供相手くらいじゃないと出来ない気がした。


関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/07/10
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/192-9fc384f9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)