【緋彩の瞳】 淡い色の恋をした ②

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

淡い色の恋をした ②

faint love

美奈子がレイと緋彩を並ばせて歩くから、みちるは仕方なく美奈子と歩いた。2人の背中を眺めても、残念に思えるほどレイから拒絶のオーラが出ているのがよく見える。
「美奈子、あなた“偽善”っていう言葉ご存じ?」
「何よ」
「そのままの意味。あなたがやっていることは、“偽善”なのよ。それに、どちらの心も傷つけるわ」
「どうして?少なくとも緋彩ちゃんは喜んでるわ」
「レイは?」
美奈子は“面倒臭い”と顔に出して、みちるを嫌そうな顔で見上げてくる。即答しないだけで、それが答えだということくらいはわかった。多少は悪いと思っているのなら、まだ救いようがある。
「……レイちゃんがオッケーって言ったんだもん。嫌ならそう言えばいいことでしょう?別に彼女になってあげてと頼んだわけじゃないし。放課後一緒にお茶するくらい、付き合ってあげるのが友達だと思う」
友達の定義っていったい何、と疑問に思う。
その子のために一生懸命になることは、確かにいいことだろう。身体が弱いという緋彩を励ましてあげるくらいなら、それでもいい。美奈子以外の人間に同じようなことをお願いされていたら、たぶん、みちるもこんな風に思わなかっただろう。
必要以上に交友関係を広めたがらないレイが、戯れごとに付き合わされているのを見て不快だと思うのはみちるのエゴなのだろうか。
レイがそれを良しとしているのなら、口を挟まずに静観するべきなのだろうか。
「まぁ、今は好きにさせておくわ。あの子が選んだやり方だから」
「文句があるなら本人に言えば?」
「言ったわよ」
「なら……」
美奈子がさらに文句をぶつけて来る前に、みちるはわざと違う道へと一歩足を向けた。家に帰るにはまだまっすぐの方が早いけれど、これ以上レイと緋彩の背中を追いかけるのが嫌になってきた。
「レイ。私、今日はこっちから帰るから。夜に電話するわ」
呼ばれたレイはまだ作ったままの笑顔を持って振り返って、眉をハの字にさせながらも小さく頷いている。
「バイバイ、みちる」
「じゃぁね」
作った笑顔の奥に困った顔を隠して。みちるには隠せていないけれど。軽く手を振って背を向けた。レイが追いかけてくるのなら待つけれど、そう言う様子はなかった。


緋彩ちゃんの家まで送り届けてくれたレイちゃんと、暗くなった帰り道トボトボと2人で歩いた。
「悪いわね、遅くまで付き合ってもらって」
「別に」
「……乗り気じゃないなら、やめようか?」
「今さら、別にいいわよ。あの子が喜んでいる顔、美奈は見たいのでしょう?」
「まぁ、それはそうだけど」
学校もよく休むし、体育の時間はいつもじっと小影にいるし、5月の遠足も来なかった。きっと、秋の運動会も、修学旅行も、そういうのは参加できないだろう。
いつもじっと、寂しそう。クラスメイトが緋彩ちゃんに冷たいわけじゃないが、熱い友情を持てるほど、彼女との時間を多く過ごしていないのも事実。ましてや年上なのだ。
扱いに困っているクラスメイトを責めるよりも、緋彩ちゃんが楽しいと思ってもらえる空間を作ってしまう方が確かだと思えた。
レイちゃんが、消極的な感情で緋彩ちゃんと一緒にいてくれていることはわかる。
人助けが嫌いではないはずだけど、誰にでも優しい人ではない。
1対1を出来るだけ避けるというルールさえ守れば、レイちゃんはちゃんと会話をしてくれている。緋彩ちゃんにそのルールを伝えてはいないけれど、もし緋彩ちゃんが2人きりでどこかへ行きたいと言ったら、それは無理なお願いなのだろうか。
「あのさ、レイちゃんさ、好きな人いるの?」
もし、レイちゃんが誰かを好きであるのなら、迷惑に違いない。
なんとなく聞いてみると、足を止めてレイちゃんは驚いた顔でこっちをじっと見つめてきていた。
「なんで、……そう言うことを聞くわけ?」
「いや、ほら。だったら、こんなことをするのも悪いじゃない?」
どうしてだか、怒っている。
聞いてはいけないことだったのかもしれない。
長い付き合いなのに、レイちゃんが男を好きだなんて思わないけれど。
「別に、いないわ」
「え?あ、そう」
断言するようにきっぱりと言い放って、なにごともなく髪をなびかせて歩き始めた。
もしかして、いるのかもしれない。
流石に美奈子でも、そのあたりの感情の流れは読めるのだから。
どうしようかな。
やめた方がいいのかな。
でも、緋彩ちゃんは女の子のお友達だから。
くっつけるわけじゃないから大丈夫な気がする。
さすがにそんな事になったら、レイちゃんも嫌だというだろうし。
「……美奈」
「ん?」
「……いえ。緋彩ちゃんとのお祭り、本当に行くの?」
「あぁ。嫌ならレイちゃんに用事が入ったって言うわ」
「別にかまわないわ。あんたも来るんでしょ?」
「うん、そのつもり」
「そう」
何か言いたそうで、たぶん言いたかったことは飲み込んだのだろう。
決して楽しそうではないレイちゃんの顔は、ちくりと美奈子の心に針を刺す。
「感謝してる、レイちゃんには」
「美奈の頼みごとなのだから、仕方ないでしょ」
仕方がないってどういう意味?って聞こうと思ったけれどやめた。
だったら止めようと言えないのは、緋彩ちゃんを悲しませたくはないから。
今はレイちゃんの優しさにすがるしかない。
レイちゃんのプライベートの時間を削ることの申し訳なさより、緋彩ちゃんの嬉しそうな顔を見る方が大事だと思う。
少なくとも、わずかな間だけなのだから。
「いつか、お礼するよ」
「そう?じゃぁ、レインツリーのコース料理でも食べさせて」
「いや……無理」
レイちゃんは足早に火川神社の方へ進んでいく。美奈子は背中に手を振ることもせずに、自分の家へと歩みを進めた。


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Date:2014/07/10
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