【緋彩の瞳】 淡い色の恋をした ⑦

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

淡い色の恋をした ⑦

その痛みは恋からくる辛さではなく、死神をまとう彼女に触れていることで第六感を刺激している苦しさだった。

熱が引いていくことがじんわりと理解できて、今では冷静にこの状況をまるで他人のような気持ちで受け止めている。
時計をみると、あれからちょうど1時間が経過していた。

そう。薬を飲んだ記憶が鮮明によみがえった。

「レイさん?どうしたの?顔色が良くないけれど……」
「え?いえ、何でもないわ」

惚れ薬の効き目を失った今、緋彩ちゃんに触れていることは拷問の様。
吐き気がするほど間近に見える、死神そのものを抱いているようだった。
だけど、手を振りほどいてしまえば、今までのことがすべて嘘になってしまう。
我慢しなければ。
なんとしても、あと少しやり遂げなければならない。

誰のために
何のために

わからないし、わかりたくもない。
美奈が望んだ結末まで、この物語を続けなければならないのだ。
バットエンドなんてありえない。
しかも誰にも見えない死神に耐えきれないだなんて。
好きではないから、手を放しただなんて。
みんなを不幸にする結末を迎えてはならないのだ。

感情なんてなくなればいいのに。

人が人を好きになることも
憧れることも
喜ばせたいと思うことも
すべてが存在しているから、こんな思いをしなければならない。



「……1時間過ぎたせいだ」
様子が少しおかしくなったように見えたけれど、レイちゃんは緋彩ちゃんと手をつないだまま、ゆっくり出店を見る行動を止めなかった。うっすら滲んでいる額の汗は、気温のせいだけではないだろう。薬が切れている今、レイちゃんは演技を続けているんだ。そうさせているんだ。
「ねぇ、美奈子。あなた気が付いているのでしょう?」
「レイちゃんのこと?」
「偶然のフリをしてでも、割って入ったら?あなたはどちらの心を守るの?」
みちるさんは、美奈子以上にレイちゃんの異変に敏感に気が付いている。さすがに惚れ薬を使っているところまでは見抜いていないだろうけれど、さっきの楽しそうな笑顔が、無理をしている笑顔に変わったことに気が付いていて、それがいいことではないと思っている。
「みちるさんは、レイちゃんのために言っているの?」
「もちろん。私が手刀で引き離すよりは、美奈子の方がいいでしょう?」
「……わかった。先回りして合流する」

ごめん、と心の中で強く思った。
緋彩ちゃんごめん。レイちゃんごめん。
結局このすべては自己満足なんだ。
何がしたかったんだろう、って思う。
きっと、いい人でいたかったんだ。優しい人でいたかったんだ。
弱弱しい人の強い味方でいたかった。
優しい友達思いの人でいたかった。

誰のために
何のために

「やっほ!2人とも~!」
上ずる声もお構いなしに、2人の間を割って顔をぐっとのぞかせた。
「あ、美奈子ちゃん。やっと会えた。遅かったのね?」
自然と指と指が離れていくのを見届けて、ホッとする。

どうしてだか、ホッとした。

「うん。2人とも、今から盆踊りが始まるけれど、見に行くでしょ?」
「そうね、ちょっとだけ見ましょうか?」
レイちゃんが緋彩ちゃんに微笑みかける。緋彩ちゃんは腕時計に目をやり、少しだけ、と頷いた。
2人が並ばないように、美奈子は真ん中を譲らないように歩く。

ごめん
ごめん
ごめん

緋彩ちゃん、ごめん
レイちゃん、ごめん

あと少しで達成できる茶番劇なのに。
そもそもの茶番劇を始めたのは美奈子なのに。

なんて罪を犯したのだろう。


人の恋心を操るなんて、愛を司る神のすることではない。
愛は他人が操れない神の領域なのに。


永遠に、誰にも犯されない聖域なのに

関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/07/11
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/198-19b3190a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)