【緋彩の瞳】 淡い色の恋をした ⑧

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

淡い色の恋をした ⑧

「レイさん、今日は凄く楽しかった」
「そう?私も……。今日はどうもありがとう。また、来年も行けるといいわね」
「えぇ。体力をつけないと」
「そうね。しっかり栄養を取って、もっと元気になって」
「……えぇ」
体調を気遣い、早めに祭りを後にして、緋彩ちゃんをタクシー乗り場まで見送ることにした。
美奈はやたらくっついてきていたけれど、その意味がわからなかった。どうして今さら邪魔をするのか。もしかしたら、良心の呵責って言うやつなのかもしれない。だから、レイはタクシーを待つ間2人きりにして欲しいと美奈に言った。
美奈はしぶしぶ引き下がってくれた。“ごめん”と何度も目が訴えてきているのがわかったけれど、何を今さら詫びることがあるのか、わからない。みちるの気配を感じるから、たぶん近くにもいるのだろう。何か、怒られたりしたのかもしれない。
「ねぇ、レイさん。あの、嫌でなければもう一度、聞かせてもらえると嬉しいんだけれど…」
「えっと、何を?」
前の客がタクシーに吸い込まれていく。それを見送ると、すぐにタクシーがまた、こちらに向かって来た。
「あの、その…私のことが好きだって」
本当に自分がそんな事を言ったのか、疑わしかった。
今、死神のせいで意識が朦朧としているのを、かろうじて繋ぎとめている気力だけでは、自分が薬を飲んでいた時のことなんてはっきりと理解できない。

だけど、たぶん、言った。

可愛そうな緋彩ちゃん
嘘だったわけじゃないと思う
その時は
刹那的に恋をさせられていたの

こんなに悲しいことはない
こんなに悲しいことはない
こんなに悲しいことはない

「……好きよ。早く元気になって、今度はもっと遠いところに遊びに行きましょう」
死神に背中を抱き締められているその身体も、やがて血の流れを止めてしまい、終焉を迎えるだろう。

さようなら

その意味を込めて、頬にキスをした

愛でも恋でもなかった

「ありがとう」
違う意味にとらえた緋彩ちゃんが、頬を染めてはにかむ。
同じように頬を赤く染めてあげたいのに。
それはどんな力を持ってでも、今のレイにはできなかった。
「さようなら、緋彩ちゃん」
「えぇ。おやすみなさい」

タクシーに乗った緋彩ちゃんを見送る。

さようなら


死神のもたらす痛みが、彼女を遠ざけていく距離と同じ分薄らいでいく。
やっといたぶられていた神経が落ち着きを取り戻したというのに、レイは立っていられなくなって、その場でしゃがみこんだ。


「レイちゃん!」
緋彩ちゃんを見送った後、レイちゃんが急にその場にしゃがみこんで、慌てて美奈子は駆け寄った。
「レイちゃん?大丈夫?」
「…………美奈……」
「どうしたの?薬のせい、かな……」
「わか…ら……ない」
驚くほど顔が真っ青で、息も辛そう。
人の目が集まる中、何とか肩を貸して座れる場所を探していると、みちるさんが心配した顔色で待っていた。
「レイ」
「……み、ちる………」
レイちゃんが本当に助けを求めたのは、みちるさん。
美奈子から奪うように抱き締めたみちるさんに、レイちゃんは縋りついている。
その役目は美奈子ではなかったんだ。
「はるかが車を取りに行っているから。ちょっと我慢できる?」
異変に気がついて、はるかさんを先に動かしていたみたいだ。ずらりとタクシーが列を作っているその合間を、極悪なマナー違反を犯したメタリックブルーのフェラーリが近づいてくる。
「あなたには、もう用はないわ」
みちるさんはそう美奈子に言い放った。
まちがいなく正論だった。レイちゃんはほとんど意識がなくて、2人で何とか車に乗せたころには、目を開けることもなかった。
「……あとで、様子を教えて」
美奈子はドアを閉めて、車を見送った。

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Date:2014/07/11
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