【緋彩の瞳】 淡い色の恋をした ⑨

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

淡い色の恋をした ⑨

緊急連絡で、学校から美奈子の家に電話が掛かってきた。ママがその電話をとり、真剣な顔で伝えてくれたのは、緋彩ちゃんが死んだという事実だった。

夏の蒸し暑い雨が降っている夜。
あの祭りからまだ3日しか経っていない。
あの日の夜、レイちゃんに会わせてほしいと電話をしたけれど、みちるさんは繋いでくれなかった。レイちゃんは高熱を出していると言っていた。
緋彩ちゃんを死なせたのも、レイちゃんを苦しめているのも美奈子なのだ。


真夜中の雨の中を飛び出した。
傘もささずに、蒸し暑い雨の夜だから、涙を流しても声をあげても、自分自身にごまかしがきくのではと思えた。

伝えなければ。
レイちゃんに、伝えなければ。

みちるさんが、レイちゃんに会わせてくれないかもしれない。
それでも、このことを伝えなければ。

「……なんだ、こんな遅くに。びしょ濡れじゃないか」
しつこくチャイムを鳴らすと、はるかさんがインターフォンに出た。美奈子と名前を告げると屋敷の扉が開いて、暗かった玄関に明かりがともされる。
「緋彩ちゃん……死んじゃった」
「そうか。……ちょっと待ってろ」
はるかさんはタオルを取りに行ってくれた。震えているのに、なぜか汗が止まらないのは蒸し暑いからなのか、身体が友達の死に嘆いて、どうすればいいのかわからないせいなのか。
「服をしぼって、そのままバスルームへ行け。悲しいのはわかった。だから、少し落ち着こう」
「……はい」
言われるがまま、バスルームへ連れていかれた。緋彩ちゃんのことを思うと、次から次から溢れる涙は、シャワーを浴びても止まりそうにない。
緋彩ちゃんに嘘で塗り固めた世界をデートさせたことを言えないまま、死んでしまった。
でも、これでよかったのだろうか。嬉しいって思ったまま死んでしまった。
嬉しいって思われたまま、レイちゃんは生き続ける。
緋彩ちゃんの中では、憧れの大好きなレイちゃんとしての想い出だけが残る。
本当は、すべて薬のせいだった。
2人を欺いた。
なんて罪を犯したのか。



「……はるかから聞いたわ」
バスルームからあがると、ラフな服装のみちるさんがリビングにいた。きっと寝ていたのを起こされたのだろう。
「うん。……死んじゃった」
「レイに伝えに来たの?」
「うん」
「寝ているわ。今はやめて」
「………そっか。そうだよね」
日付が変わっている。寝ていても当然だった。はるかさんが冷たいお茶を出してくれた。みちるさんが座っているソファーの反対側に置かれたということは、そこに座れということだ。美奈子はそれに従った。
「レイちゃん、具合は?」
「やっと熱が下がってくれたわ」
「……そう」
「食べものを受け付けてくれなくて、大変だったわ」
「……そんなに」
「これが、美奈子の望んだ結果でしょう?」

違う。

違うけれど、これが現実だった。誰一人幸せに出来る力などないと、もっと早くに気が付いていればこんなことにならなかった。死を免れなかったとしても、大切なレイちゃんを傷つけずに済んだ。
「レイは、緋彩ちゃんが遠くない未来に死ぬと知っていたらしいわ。だから、あなたの提案した茶番劇に手を貸したそうよ。あの子はそのことを私に隠していたわ。知っていたら止めるだろうからって」
「……レイちゃん、緋彩ちゃんが…死ぬってわかって?」
「あの子には、私たちに見えないものが見えるのよ」
レイちゃんだけに見えるもの。霊感があるから見えるもの。
レイちゃんは、緋彩ちゃんに迫る死を見ていたというのだろうか。
「死ぬ姿が見えていたって…いうの?」
「死神と呼ばれる神様がいるらしいわ。レイは緋彩ちゃんに会った時から、その影をずっと見ていたって。だから、あんな馬鹿なことをしたのよ」
「………どうして…言ってくれなかったの…………」
だったら、どうして教えてくれなかったの。
学校なんかじゃなくて、もっと緋彩ちゃんの家族と過ごしたり、やりたいことをさせてあげたり、思い出をつくるチャンスがあったのに。
「それがレイの持つ優しさだからよ。美奈子は、死神を背負っている友人をじっと見続けていられる?何もできず誰にも言えず、耐えなければならない身になれる?」
「でも、知っていたら、残りの人生を精一杯生きてもらえるように、もっといろんなことができたのに!どうしてっ……」
大人にもなれず死ぬなんて、悲しい。
知っていたらもっと、いろんな世界を見せてあげられた。
「人は生まれた瞬間から死へ向かって生きるものよ。あの子は短い人生だったけれど、確かに生きて、与えられた命を全うしたわ。レイと2人でお祭りにも行ったんだし、死神はそれが終わるまで手を出さなかった。だから、緋彩は幸せに生きたの。生も死も、犯すことができない神の聖域だわ。人が操りの糸を動かしてはならないの」
そんなこと、緋彩ちゃんに聞かなければわからない。
もっとデートをしたかったって言うに決まっている。
もっと、いろんなところに行きたかったはず。
「どうして…でもどうして、レイちゃんは死神を追い払ってくれなかったの?あんなに強い力を持っているのに、どうして追い払ってくれなかっ…!」
叫び終わる前に頬に何かさすような痛みが走った。音は少し遅れて響いてきて、叩かれたんだとわかったのは、目の前に今にも次の一発を食らわそうとする、みちるさんの顔があったからだ。
「……レイが死神を見たのは2度目らしいわ。1度目はあの子の母親の傍にいたって。自分の母親が死ぬとわかったレイが、死神に何もしなかったと思う?」


あぁ

あぁ

こんなに悲しいことはない
こんなに悲しいことはない
こんなに悲しいことはない

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Date:2014/07/11
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