【緋彩の瞳】 淡い色の恋をした ⑩

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

淡い色の恋をした ⑩

レイちゃんを苦しめたのは、美奈子だ。
美奈子がレイちゃんに緋彩ちゃんを紹介しなければ、レイちゃんを苦しませずに済んだ。

「……ごめん、レイちゃん」

レイちゃんが優しい人だって知っている。
みちるさんの言う言葉に嘘なんて一つもない。
だから、レイちゃんには本当は“惚れ薬”なんて必要なかったんだ。
レイちゃんが緋彩ちゃんに嘘でも微笑むことができなかったのは、死を見つめていたせい。
きっと、苦しくて苦しくて仕方がなかったはずなのに。
ずっと黙って耐えていたんだ。

「レイには私から伝えるから、あなたは帰りなさい。はるか、送ってあげて」
「……了解。君は本当、レイのことになると鬼だよな」
「最高の褒め言葉だわ」
それくらい、誰か一人を大切に想う度胸があれば、誰にでも優しくしたいなんて陳腐で安い感情を持たずに済んだに違いない。
美奈子にとって、本当に大切な人は誰なのか。
考えなかった。
誰もが大事で、1人も大事じゃない人なんていない。
レイちゃんに借りた愛は、何か別のことで返せばいいと思っていた。
レイちゃんの愛は、レイちゃんのものだ。
レイちゃんの意志でのみ、それを分け与えることができるはずなのに。

結局、もっとも間違えた愛を振りまいたのは、愛の女神の美奈子だった。


「泣いて泣いて、泣きわめいても、緋彩がそれを喜ぶのか?」
はるかさんは、少し遠回りをして送ってくれると言った。時間をかけてゆっくりと。せわしなく動くワイパーと雨音。BGMはそれだけで十分だった。
「……死ぬって、こんなにあっけないことなのかな?」
「どうだろう。ただ、レイが言うには、死神に看取られるということは、とても幸せなことらしい。魂がこの世界に未練を残して彷徨うことがないように、ちゃんと迎えに来てくれて、新しい世界へ案内してくれる神様だって。だから、緋彩はこの世界に未練がないのは確かだよ」
「そう、なのかな……」
「死んだ人間より生きている人間の方を大切にしろ、美奈子」
本当に苦しくて辛いのは、レイちゃんだけ。罪がある美奈子が苦しむのは当然だけど、レイちゃんには何の罪もないのに。
「……はるかさんは、レイちゃんの好きな人が誰か知ってる?」
「知ってるよ」
「どうして、レイちゃんはその人に告白しないんだろう」
「そいつが馬鹿だからだろう。安っぽい愛を所構わずふりかけ歩いているから、レイは自分だけを見てくれ、なんて言い出すことが悪いことだと思っているんだよ」
真夜中に点滅している信号。慎重に進む車の中はちょうどいい温度設定のはずなのに、泣き過ぎたせいで湿気があるのか、居心地のいい温度ではない。
「……そっか」
「でもレイも馬鹿だから、そう言うところが好きらしい。だから、こんな痛い目にあうんだ。お前もレイも、愛の意味を吐き違えていると思う」
「そう、だね」
「みちるに殺されなかっただけでも、マシだと思えよ。レイが手を出すなってみちるに伝えていなかったら、おまえは今頃、血みどろなんだから」
「……うん」
謝っても許されることではないだろう。愛をもてあそんだのだから。
「レイは笑顔で緋彩を見送ったって言っていた。だからおまえも、笑顔で見送ってやれよ」
「……がんばれるかな」
どしゃぶりの雨のなか、はるかさんが貸してくれた大きな傘をさして、車を見送った。

重たい雨が音をたてて跳ねた。美奈子のサンダルの素足にあたる。
もう、悲しむことは許されないのなら。この雨が止む頃に涙を止めてしまおう。
レイちゃんがしたように、笑顔で見送ろうと思った。

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Date:2014/07/11
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