【緋彩の瞳】 ラヴ・サンドウィッチ ②

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

ラヴ・サンドウィッチ ②

レイちゃんの携帯電話を何度も鳴らしているのに、全く出ない。たまに、だけれどこういうことがある。携帯電話を忘れたり、あるいはうるさいとか言って電源を切っていたり、充電を忘れたりしている。通信気を使えばいい話ではあるけれど、アルたちに便利な道具として私生活で使うなとわりとよく怒られる。これは最終手段として残しておかなければならない。
「まったく。今日はどこで何をしているんやら」
放課後のクラウンに姿はなかった。15時30分を回っても姿が見えないのなら、今日はここに来ないと思っても間違いない。神社に帰っているかもしれない。
「振り回されるわ、本当」
それなのに好きなのだから、仕方がない。それに明日は美奈子の誕生日なのだ。特に何も約束をしていなくても、当たり前のように誕生日の夜12時に一緒にいなければならない相手なのだ。
「ふふっ。まぁ今夜は腰もガクガクにさせちゃうしね」
レイちゃんがまさか美奈子にサプライズ的にお祝いをしてくれるなんて、これっぽっちも期待していない。美奈子は今月に入ってから、22日が誕生日だということをはっきりと口にしてアピールしてきた。いやしいと思われても仕方がないけれど、ただ一緒にいたいということを正しく伝える必要がある。
12時を迎える時には傍にいたい。いてほしい。
感情が表に出ない、冷めたその人の手を握り、呼吸の音を聴きながら、幸せのためいきを漏らすのだ。

そんな事を考えながらたどりついた神社。

「レイちゃん~!いる~?」
いつものように庭から一直線にレイちゃんの部屋の前にある雨戸をガラガラと開けて、大きい声を出しながら靴を脱ぐ。
「レイちゃん~?」
返事がない。
少し寒さが身に染み始める季節。広い部屋には乾いた空気だけがみちていて、人がいたという痕跡すらなかった。
「どこいっちゃったんだか」
ケーキを買いに?可能性がゼロではないかもしれないけれど、残念ながらそれは期待できそうにない。
とりあえず、他に思い当たる場所もないし、ここで待っていればそのうち帰ってくるだろう。
美奈子は勝手知ったるレイちゃんの部屋で、しばし妄想しながら待つことにした。



「……あ」
眠るみちるを見ていても何も面白いことはない。勝手にラックに並んであった雑誌を3冊読み、劇作家のエッセイを1冊読み終わった後、ふとその本の発行年月日を見てひとつ思い当った。
今日は美奈の誕生日の1日前だ。
いいのか悪いのか、今日ではない。
一瞬、まずい!と思ったけれどほっと胸をなでおろした。もし今日が誕生日だったら、流石に美奈も本気で怒っただろう。あれだけ今月に入ってからしつこく言われ続けていたのだ、誕生日を忘れていたなんてことになったらシャレにならない。
でもまぁ、美奈のことだから、向こうから連絡が入るだろう。
ふと現れたサボタージュの1日。
みちるは寝室で静かに寝ている。寝ていても、やっぱり出て行く気持ちは持てない。自分では進んで買いそうにない本も、ここにはかなりたくさん置いてある。飽きることはまだなさそうだ。あまりに飽きたらみちるの隣で昼寝をしてしまえばいい。
広いリビングで勝手に淹れた紅茶を飲みながら、一日を過ごす。
もちろん、みちるへの気配りも忘れたりはしないけれど。
「ま、美奈には明日会えばいいし」
何かお願いをされていたような気もする。あとでメールをして聞いておけばいい。みちるがいるのに美奈と電話をしたら、みちるは気を使うだろう。そう言う無駄な心配をかけたいとも思わない。

お昼ご飯に雑炊を作って食べさせて、午後のひと時。
見たいテレビや聴きたい音楽もない。
「あ、そうそう」
そういえば、しつこい国際電話のコールのせいか充電が切れていたはず。鞄から取り出した携帯電話は案の定、画面がGIVE UP と叫んでいる。充電をしておかなければならない。が、当然充電器なんて持ってきてもいない。
だが、ここはみちるのマンション。偶然ではなく意図的に同じ携帯電話だから、充電機も同じもの。リビングを一通り見渡して充電器の類がないとなれば、みちるの部屋だろう。忍び足で部屋に入り、うまい具合にコンセントに刺さっている充電器を発見。そこにはすでにみちるの携帯電話がつながっていたが、充電は終わっているようだった。引っこ抜いてそのまま差し替えればいい。色違いだから、間違えることもないし。
少し辛そうな呼吸を繰り返すみちるの頬を撫でて、ぬるくなったおでこのタオルを冷たくしなおして。とにかくスケジュールはびっしりと埋まっている。みちるを必要としている人たちが、日本中、数多くいる以上、今のレイにできることはこんな些細なお世話をするくらいだけど、今のみちるに必要なのもこんなレイが傍にいてあげることだと思う。
たまには立場を逆転するのも悪くはない。



何かがヴーヴーと鳴る音がして目が覚めた。辺りは暗い。いつの間にか日が暮れていたようだった。いったい何時間寝たのかと思った。こんなにも長い時間寝るなんて、もうずいぶんとないくらいよく眠っていた。暗闇に目が慣れて、少し身体を起こすと、何かが光っている。携帯電話のようだ。

“ヴー・ヴー・ヴー”
マナーモードに設定された携帯電話がもう一度鳴る。マネージャーかもしれない。みちるはけだるい身体をこらえて立ち上がった。朝よりもずいぶん楽になっている。
携帯電話の着信はなぜか“愛野美奈子”と書かれていた。
なぜ?
レイがここにいるとわかって電話をしているのかもしれない。
「…もしもし?どうしたの?」
『レイちゃん?!どこにいるのよ?!』
電話から耳を遠のけたくなるほどの大きな声。
忘れていた頭痛が少し戻ってきた。
「…………美奈子、誰に電話をしているの?」
どうやらレイと間違えてコールを押したようだ。
『………え?みちるさん?!何で?…レイちゃんは?あれ?』
ガサガサガサ。どうやら自分が誰にかけているのかを確認しているような音だった。
「間違い電話なら切りましょうか?」
レイは確かに来ているけれど、近くにいるとわざわざ知らせない方がいいかもしれない。
『……みちるさん、私、間違いなくレイちゃんに掛けてるんだけど……どうなってるの?』
「あら?」
そこで初めて“もしかして”と思った。
レイがここに携帯を置きっぱなしにして、それを暗闇で間違えて手にしたのかもしれない、と。
充電器に繋がっていたから100%自分のものだと疑わなかったが、レイならそのみちるの物を引っこ抜いて充電をすることはやりかねない。
『レイちゃんは?みちるさんはどこにいるの?レイちゃんと会っているの?』
この場合、何が一番いい答えなのだろう。美奈子の声は明らかに怒っていて、でもみちるは何が何だかいまいちよくわからない。それに熱のせいか思考回廊もよく働いていない。
黙ってレイに携帯を渡した方がいい。
『みちるさん、レイちゃんは?』
「ちょっと待って」
『どうしてみちるさんがレイちゃんといるの?』
「どうしてって…」
レイを呼び出す体力よりも、歩いてリビングに向かった。大声なんて出せない。美奈子の声を聞きながらリビングへ向かうと、何かいい匂いが漂って来る。時計は夜の8時を指していた。
いったい何時間寝たのだろう。
「あ、みちる。起きて大丈夫?今、夕食作っていたの。あまりにぐっすりだったから、起こすのも悪いと思ったんだけど」
何か上機嫌のようだ。
その声が美奈子の方に漏れているかもしれないのに。
みちるは無言のまま携帯電話を差し出した。
「何?」
「自分のものだと間違えて、取ってしまったの」
「あぁ。ごめん、勝手に私が充電したのよ」
「そのようね。相手、怒ってるわよ」
「ん」
受け取ってレイがもしもし?と尋ねると、なにやら美奈子の声がうるさく聞こえてきた。
「美奈」
『どうして、みちるさんといるの?どこで何をしているの?』
「あぁ……ちょっとね」
『ちょっと?レイちゃん、明日、何の日か知ってる?』
「知ってるわよ。あんたの誕生日でしょう?」

誕生日?

ソファーに腰をおろしながら、美奈子の誕生日だったかしらとカレンダーを思い浮かべた。
今日はまだ、10月21日。
明日が美奈子の誕生日。

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Date:2014/07/12
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