【緋彩の瞳】 ラヴ・サンドウィッチ END

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

ラヴ・サンドウィッチ END

きっと美奈子は、日付が変わる瞬間をレイと過ごしたくて電話をかけて来たのだろう。
出てしまって余計な喧嘩の種をまいたようだ。
「美奈、明日は大丈夫よ。学校が終わったら会いましょう」
『今日の夜会わないと意味がないでしょう?!!!!!』
漏れ聞こえてくるのは、レイが携帯電話をずいぶんと耳から遠ざけているから。美奈子が怒るのも無理はないかもしれないけれど、レイが会えなかったのはみちるのせいに違いはない。
「ごめん、今日はどうしても無理なの」
『なぜ?みちるさんと一緒だから?っていうか、どうしてみちるさんなの?ずっと何か隠してるでしょ?』
「まぁ、ちょっといろいろあるの。今日は忙しいから、明日の誕生日は一緒にいるって言ってるんだからいいじゃない」
レイらしい考え方でもある。自分の誕生日さえあまり興味がない子だ。当然、みちるの誕生日だってそうだ。少なくとも過去、わざわざ12時に連絡をよこしてきた記憶はない。プレゼントをもらった記憶も、あるようでないような気もする。一緒にケーキを食べて食事をして、そう言うありふれたことをしたくらいだ。それ以上のことも、レイからされたいとも思いつかない。
それが恋人と腐れ縁で繋がった幼馴染との差かもしれない。
レイはそう言うところは、あまり分かっていないだろう。
『さっき、おじいちゃんが今日は帰ってこないって言っていたけれど?』
「あぁ、そうね。今日は都合が悪くなったわ」
『誕生日を迎える私よりも、みちるさんと一緒にいる都合ってどういう都合なの?』
「美奈には関係のないことよ。明日会うって言ってるでしょう?」
『関係あるでしょう?ないって思っているのはレイちゃんだけよ』
「ない。あんたには関係ない。忙しいから切るわ」
電話を代わって、事情を説明してあげた方がいいかしら。なんて思っていると、レイが一方的に電話を切ってしまった。当然、電源もオフにされたようだ。
「……それはよくないんじゃない?」
どちらかの味方に付く立場でもないけれど、後味がいいわけではない。自分の体調さえ良ければ、今頃美奈子と一緒にいたのだろう。要するに一番悪いのはみちるなのだ。
「いいの。それよりも、寝てなくていい?作って部屋に持って行こうと思っていたけれど」
自惚れているけれど、レイの天秤は体調を崩したみちるに傾いている。甘えてもいいものなのかと思いつつも、嬉しいような複雑な気分になる。
「大丈夫よ。一緒に食べましょう」
あとでこちらから美奈子に謝った方がいいのかしら。そんな事を想いながら、何食わぬ顔をしているレイに美奈子のところに行けと言わない方が、今は正解だろうと感じた。そんな事を言えば、きっと火に油を注ぐようなものだろうから。



なぜ?

みちるさんと一緒にいるから、美奈子の誕生日の夜を迎えられないってどういうことだろう。
そんなに大切な人だろうか。
美奈子はいまだ寒いレイちゃんの部屋で1人、携帯電話を握り締めて呆然としていた。
お腹も空いたし、帰ってくる気配もなくたまらずおじいちゃんを捕まえたら、今日は朝からで学校にも行かずに、帰っても来ないだなんて。
しかも、みちるさんと一緒だなんて。
レイちゃんはみちるさんに向かって“みちる”と呼び捨てていた。そんな風にみちるさんを呼んでいるのを、聞いたことはたぶんない。2人がよく話し合っていたりするのは知っている。みんなといても、気がついたら2人だけいなくなってたりしたことだって、何度もあった。
気が合うからといつもレイちゃんは言う。
2人の間に恋愛感情があるとはとても思えない。
何も言ってくれないのなら、それでもいいって思っていた。
だけど、美奈子の誕生日の夜より優先させる事情があるとするのならば、やっぱりきちんと理由を話してほしい。
納得させてほしい。
安心させてほしい。
これは我儘なんだろうか。
そんなにレイちゃんが怒るような我儘なんだろうか。




「12時になったら、一応電話してあげたら?」
お風呂に入り、ホクホクした顔で部屋に入ってきたレイは当然のようにみちるのベッドにもぐりこんできた。
「ん?あぁ……そういうものかしら?」
「そういうものじゃない?」
寝る前に飲めと言われたいた薬を飲み込み、みちるも深く温かい布団の中へ身体を入れる。大切な幼馴染だけれど、美奈子からしてみたら誕生日の夜に一緒のベッドで寝ているなんて、怒り沸騰のはず。
「みちるはするわけ?」
「まぁ、一緒に過ごせなかったらすると思うわ」
冷たくしたタオルを絞ってみちるの額に置いてくれる、当たり前のことをしているといった風のレイの顔は、小さいころからよく知った顔だけれど、恋愛に関してあれこれ悩んだりする顔色は見慣れない。それはある意味新鮮でもある。
「そんなものかしら」
「そんなものよ」
携帯電話はオフにされたままだ。みちるはそれを取って電源を入れた。
「ほら」
「……私はみちるの世話を焼きに来たのに」
「美奈子に私のせいだと思われたら、レイが嫌でしょう?」
時計は間もなく12時になろうとしていて、きっと今頃、美奈子はイライラしながら携帯電話を見つめているだろう。
レイが絶対にみちるとの関係を美奈子に伝えないには、レイなりに事情があるというのは理解している。だからみちるもはるかには伝えていない。
レイは自分の過去を見られたくはないと思っている。
そして、触れられたくはないと強く思っている。
みちるが物心ついたころから仲が良かったと知ったら、美奈子はレイが大好きなのだから、レイがどんな子供だったのか、思い出話しを聞きたがるだろう。



「美奈……その、誕生日おめでとう。あの、会ってあげられなくて、……ごめんね」


ちょっと人の感情の動きには鈍くて、我儘でいじっぱり。
でも、繊細で優しさを表現するのが苦手。
寂しがり屋で、恥ずかしがり屋、わりと気分屋。
さわやかは売っていないし、入荷もしない。


「え?……ちょっと…それは明日でいいでしょ?」
ひそひそと困った声で。きっと美奈子に“愛してるって言って”とか、無理なことを言われているのだろう。レイはわかりやすい。
「無理よ」
言えばいいのに。横で勝手に想像しながら、レイが“無理”と答えることを美奈子がごり押ししている姿が想像できる。
「ちょっと、……待って」
別に、みちるが横にいても気にせずに言ってあげればいいのに。そそくさと携帯と一緒に部屋を出るレイは照れを隠そうとしているけれど、そんなの今さら隠しても意味がないのに。




『美奈……その、誕生日おめでとう。あの、会ってあげられなくて、……ごめんね』
12時。
携帯電話を握り締めてベッドに転がっていると、レイちゃんからの着信があった。
まさか、そういうことをする人だとは思わなかった。あんな言い方をして電源を切ったのに、誕生日になった瞬間に電話をかけてくるなんて。
「ありがと……。会って、抱き合いながら言って欲しかった」
『ごめん』
「私、レイちゃんが好きよ。好きだから一緒にいたかったの。それって我儘なのかな?」
『……その、明日、ちゃんと会ってお祝いしましょう。今日は……都合がつかなかったのよ』
みちるさんを優先させなければならない理由を、ちゃんとレイちゃんは話してくれるのだろうか。きっと、それもはぐらかすだろう。みちるさんに問い詰めても、きっと彼女も肩をすくめてしらを切るに違いない。
「わかった。今日のことは許してあげる。でも、私のことは好きだよね?恋人だよね?」
『え?…えぇ』
分かってる。レイちゃんがこういうことを確認したり、言い合ったりすることが苦手なこと。
「じゃぁ、誕生日を迎えた私に、“愛してる”って言ってくれてもいいわよ」
『え?……ちょっと…それは明日でいいでしょ?』
わかりやすく声がうわずるから。
でも、これは今日、美奈子が受けたダメージの10分の1ほどでもないことなんだから、構わないって思った。これで嫌だなんて言ったら、今すぐ通信機に付けられたGPS機能を使ってレイちゃんの居場所を突き止めて、思い切り暴れてやろう。
「嫌だ。明日って、もう誕生日は今日だよ?言えないの?」
『無理よ』
「無理って何よ。自分の誕生日なのに、どうしてレイちゃんにこんなに突っかからなきゃいけないの?会いたいのに会えないのは、私のせい?愛してるって言ってもらえないのも私のせい?」
愛してると言ってくれなければ、電話口で泣いてやろう。そう思ったら、レイちゃんのため息が漏れ聞こえてきた。覚悟しましたって感じ。
『ちょっと、……待って』

ガサガサ、かちゃ。
どこかのドアを開けて閉めた音。




『本当はどこにいるの?それも聞けないの?』
みちるといることはばれている。ホテルにいるとでも思っているのだろうか。
「……みちるさんのマンション。ちょっとね、事情があって」
『はるかさんは?』
「今、東京にいないみたい」
確かそうだったと思う。いたとしても、みちるのことだから、迷惑かけたくないから倒れたことは言ってないだろうし。
『ふーん。何かみちるさんにあったの?』
「まぁ、そんなところ…」
『レイちゃんは、本当に秘密主義だよね。レイちゃんが想っているほど、私も周りもそんなに傷つける存在じゃないと思うんだけどさ』
「……いいじゃない、その話は」
美奈のことは大切だし、信頼を預けている。でもみちるとは決定的に違う関係なのだ。
みちるが美奈の代わりをできないように、美奈もみちるの代わりにはなれない。
みちるはそれを理解してくれるだろうけれど、美奈はきっとすべてを受け入れられないだろう。結局それも、自分の我儘に違いはない。みちるにも美奈にも無駄に気を遣わせていることは確かだ。
それでも、それぞれを愛しているのだからこの我儘を通すしかないのだ。
『じゃぁ言って』
「一度だけよ」
『会った時にも言ってもらうけれど、今は一度でいいわ』

我儘

自分のことを棚に上げてレイは思った。






「何、疲れた顔して」
「別に」
きっと頬は赤いのだろうけれど、それはちゃんと確認できなかった。
大きなため息をつきながらみちるの額のタオルをひっくり返してくれる。今のレイにも必要だろうに。
「美奈子、機嫌を治してくれた?」
「一応」
ぶっきらぼうな声。わかりやすい。
「何か言わされたでしょう?」
「……全くもって、理解できない」
「いいじゃない。誕生日なんだから」
ひんやりとした額と、レイの冷たい手。
「みちる、次に倒れるときは、是非ともカレンダーを見てからにして」
寝転がって背を向けながらも、ちくり。
言わずにはいられなかったのだろう。
でもそれくらい言われた方が気が楽になる。
「以後、気をつけるわ」
「夕方、美奈に会わなきゃいけないから……土曜日のお昼にまた来る」
「そう。レイに任せるから」
大丈夫、来なくていいわ。って言ってあげたかったけれど。
それはレイが決めたらいいこと。
すっかり元気になっていたとしても、元気な姿を見に来るって言うだろう。
それがレイの優しさだから、甘えておいた方がいい。
「ひと段落したら、温泉でも連れてって」
「そうね」
「おやすみ」
サイドランプを消すと、レイは背を向けたままで眠る姿勢に入ってしまった。
「おやすみ、レイ。愛してるわ」

たまにはいいじゃない。
美奈子と似たような言い訳を心の中でしながら、今日のお礼を伝えてみる。

「もうそれは、充分に知ってるわよ。私は言わないからね」

予想通りの反応だった。

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Date:2014/07/12
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