【緋彩の瞳】 CHANGE ②

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

CHANGE ②

「みちるさん、どこへ行くの?」
車の中で美奈子は、隣に腰を下ろしているみちるに尋ねた。
「どこって、家に決まっているじゃない。今日は土曜日よ?」
土曜日って何があるだろう。あぁ、夜の音楽番組にお気に入りのアイドルが出るけれど、レイの格好でそんなものを見るわけにはいかない。後で自分の家に電話を掛けて、ビデオを撮ってもらわなければ。美奈子は首を傾げる。
「とにかく、まだ本調子じゃないみたいだから、ゆっくり休んだらどうだ?明日、気晴らしにどこかへ連れて行ってやるから」
「・・えぇ」
まさか、はるかとみちるから、レイはVIP待遇を受けているとでも言うのだろうか。美奈子はちょっとうらやましいと思った。変わって得をすることもあるものだ。やっぱり、フルコースのディナーなのだろうか。ベッドは、ウォーターベッドだろうか。美奈子はウキウキし始めた。
「どうしたの?ニヤニヤして。何かいいことでもあったの?」
「別に」
危ない。美奈子は首を振って、大きな庭を持つみちるたちの家を待ち遠しく、やっぱりソワソワしていた。


「美奈」
「何?」
「どうしちゃったんだよ、勉強なんかして」
「仕方ないじゃない」
他にやることがないのだから。部屋にあるテレビに背を向けて勉強する美奈子を見ながら、アルテミスは、いよいよ本格的に怪しんでいる。
「頭打って、本当におかしくなったんじゃないか?」
「失礼ね」
「もうすぐ、美奈がいつも見ている番組、始まるよ」
「テレビなんて見ないわよ」
「・・・まるでレイみたいだな」
そりゃそうだ。本人なのだから。レイは美奈子の使っている教科書をパラパラ捲りながら、とにかく時間つぶしをするしかない。本当のところ、本物の美奈子に電話をして、打開策やらなにやらを相談したいけれど、神社に電話をしても、誰も出なかった。
「忘れてた。今日は土曜日だったのね」
「・・・美奈、脳の精密検査でも受けたほうがいいよ」
「放っておいてよ。窓から放り投げるわよ?」
本物の美奈子は、今頃レイとしてみちるたちと一緒に過ごしているはずだ。こんなことなら、秘密にしておかないで、言っておけばよかった。絶対何か言われるに決まっている。案外、向こうから電話がかかってくるかもしれない。
「美奈子?」
「何?」
部屋の扉がノックされて、美奈子の母親が入ってきた。いつの間にやたら綺麗に片付いている部屋を見て驚いている母親に、レイは首を傾げてみた。
「・・・はい、ココア」
「ありがとう。言ってくれたら取りに行ったのに」
「そ、そう?」
実はレイは、ちょっと考えがあった。レイの母親はもうずいぶん前に亡くなっているし、父親とも年に一度会うだけだ。美奈子のような一般家庭はレイが欲しくて欲しくて手を差し伸べても、永遠に手に入れることが出来ないもの。ならば、せっかく美奈子になったのならば、それを味わいたい。
「ママ、パパはいつ帰ってくるの?」
「何をおねだりするの?」
「しないわよ」
我が子を怪しい目で見ながら、美奈子の母親は眉を吊り上げる。
「・・・10時よ。テレビばかり見ていないで、少しは勉強・・・していたの?」
愚痴をこぼした母親は、綺麗な机に教科書とノートが広げられているのを見て、言葉が詰まる。
「えぇ。10時に帰ってくるのね?それまで勉強しているわ」
「み、美奈子!熱でもあるの?」
温かい手が、レイの額を包む。ドキッとして一歩下がった。
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。パパが帰ってきたら呼んでね」
褒めてくれるとは思っていないが、我が子を疑うような眼差し。いったい普段、本物の美奈子はどんな生活を送っているのだというのか。
「楽しみだわ」
レイはココアを一口飲んで、また机に向かった。


「シャワー浴びる?」
「えぇ」
「傷、気をつけなきゃダメね」
「大丈夫よ。慣れているし」
一度仲間みんなで泊まりに来たことがあったから、美奈子は、気持ちはスキップでさっさとバスルームに向かった。そこは、大人が3人くらい入っても余裕の広さなのだ。バラの香りがほんのりして、とても綺麗なお風呂。
「レイ、どうしちゃったの?」
後ろをみちるが追いかけて、脱衣所に入ってきた。何の用事だろうと思うと、着替えを持ってきてくれたらしい。でもなぜか、2人分。
「え?」
まさか。
「・・・入るの・・・?」
美奈子は、本人に聞こえない程度に呟いた。みちるはさっさと服を脱いでいく。
(まさか、一緒に入る気?)
「どうしたの?冷えるから早く入るわよ」
美奈子は、スレンダーなみちるの裸を見て、思わず後ろを向いた。
「レイ、何しているの?」
「あ、あとから行くから」
「その包帯とか、ガーゼとか、外して入るのよ」
「うん」
みちるは、曇りガラスの向こうに消えて、すぐにシャワーの音が聞こえてきた。
どうしよう・どうしよう・どうしよう・どうしよう・・・
美奈子は通信機でレイを呼んだ。
『何?順調?』
「レイちゃん・・・みちるさんと一緒にお風呂に入ってるの?」
『あ・・・うん、まぁ。ごめんね、言うの忘れていたわ。今日はそこでお泊り、ちなみにみちるさんかはるかさん、どっちかの隣で眠れるオプションもついてくるわ』
「・・・レイちゃん、何してこんな権利を得たの?」
『それはまた、今度。それより何?』
「お風呂、どうすればいいのよ?」
『入りなさいよ。私の身体で風邪引かないでね。みちるさんに、背中流してもらえば?』
「嫌よ。やめてよ!」
『大丈夫。女でしょ?それより、美奈の部屋掃除しておいたから。部屋くらい綺麗にしなさいよ』
「悪かったわね・・・」
通信機で、レイ相手に話していると、バスルームからみちるが顔を覗かせた。
「レイ、誰と話をしているの?はやくなさい」
「は、はい」
ブチっと通信機を切ると、美奈子は根性を出して、一歩バスルームの中に入った。人魚がシャワーを浴びている。二つ備え付けられたシャワーの空いているほうに立った美奈子は、温めのお湯を出した。
「いっ・・」
傷にしみる。
「大丈夫?」
「平気。これくらいは、なんともないから」
かすり傷より、打撲が多いからまだ、大丈夫そうだ。歩いたりすると、ちょっとあちこち痛いなと思うけれど。
「可哀想に。レイ、肌が白いから傷が目立つわね」
みちるが、そっと胸の赤く腫れたアザを撫でた。
「きゃ」
そんなに近付いて、マジマジ見ないでもらいたい。美奈子は跳ね上がりそうになる。
「きゃ?何?」
「ううん」
「・・・疲れているんじゃない?」
「そう?大丈夫」
美奈子は笑ってごまかした。それがレイらしくないことに気がついて、“笑ってごまかす”はやめなければいけないとも思ってみる。みちるは心配そうに顔を覗きこんだあと、何もなかったように隣で髪を洗い始めた。美奈子もそれに従う。レイの髪はとてもさらさらしていて、洗い心地がいい。
「胃、もう平気なの?」
「胃?」
身体を洗い終わったみちるは、髪を1つに束ねると、まだ身体中泡だらけのレイの前髪を掻き揚げて聞いてきた。
「体調悪いって、この前電話してきたじゃない。薬、飲んでいるの?」
「あぁ・・・」
それは、聞いてない話だ。美奈子はとりあえずもう大丈夫と答えておいた。
「気をつけなさい。食べたくなくても、毎食口に入れたほうが良くてよ」
「わかってるわ。心配してくれてありがとう」
微笑んで見せると、みちるは安心したように頷いてくれた。とりあえずクリアらしい。身体の泡を落とすと、大きなバスタブに腰を下ろした。
「傷、しみる?」
「ちょっとだけ。気にしないで」
大きな円になっているのに、わざわざ隣に腰を下ろすみちるに、少し離れてくれと、心の中で叫ぶ。
「あなたにしては、ちょっと信じられないミスだったわね」
「そう?」
敵に捕まったプリンセスを救おうと、マーズとヴィーナスは同時に飛び出して。でも、二人一緒に吹き飛ばされて。記憶ではそうだったような気もする。
「あの場合は美奈子に任せて、あなたは後方で構えていなきゃダメよ。私たちが駆けつけた姿、見えてなかったでしょ?」
それじゃぁ、美奈子は犠牲になってもいいと言うことだろうか。聞きたい気持ちは強いけれど、下手にややこしくしたくないから、つばを飲み込みやりこす。
「まぁ、この程度の怪我で済んでよかったわ。ずっと、ろくに寝ていないのに無茶な戦いはやめてね。私たちの寿命が持たないわよ」
「気をつけます」
お風呂で得た情報は、レイは胃の調子が悪くて、寝不足で、みちるはレイを溺愛しているらしいということだった。


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Date:2014/07/12
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