【緋彩の瞳】 CHANGE ④

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

CHANGE ④


「レイ、何してんだよ」
「別に」
部屋に戻ってきたはるかを見て、美奈子は慌ててだらしない格好をやめて、ちょこんとベッドに腰を下ろした。
「横になっておかなくていいのか?」
「うん、そうだね。じゃぁ、お休み」
昔訪れたときに使った客室に向かおうとする。当然、“レイ”だってお客なのだから。
「どこ行くんだよ?まさか、みちるがいいのか?」
・・・あぁ、やっぱり。そういえばレイが、どっちかと一緒に寝るオプションがつくと言っていた。
「冗談よ」
くるっと向きを変えて、おずおずベッドに向かう。
「まったく、今日はどうしたんだよ」
「ひっ・・・」
はるかが抱きついてきた。押し倒される。夜な夜な、レイはいったい何をしているというのだ。
「何?」
「な、なんでもない」
髪を撫でられて、頬を撫でられ。美奈子は逃げたくなる。でも、ちょっと腕枕は気持ちいいかもしれない。寝た振りすれば、離れてくれるだろうか。でも、レイはそんなに寝つきのいい人間だっただろうか。でもとりあえず目を閉じておけばいい。
「眠いのか?」
「う、うん」
抱き寄せられて、はるかの胸に顔を埋めてしまう。もう、硬直しまくっている。
「どうした?どこか痛い?傷に当たっちゃったかな?」
「平気」
いいや。もう抱きついちゃえ。美奈子はちょっと自暴自棄になってはるかに抱きついた。
「よしよし、おいで」
嫌がらないどころか、もっと抱き寄せられるということは、日常もそういうことだ。つまり。
(レイちゃん、ちょっと秘密が多すぎるんじゃない??)
あぁ、でもなかなか気持ちいいし。美奈子はちょっと憧れのはるかに抱きついて、ボルテージが上がった。でも、それより眠たくなってきて。
「お休み、レイ」
でも、しっかりキスされて、眠気も吹っ飛んだ。これは、身体に悪いかもしれない。
(私の唇が・・・でもこれはレイちゃんの唇だし、っていうか別にはるかさんでもいいけれど)
美奈子は心臓をドキドキさせながら、きつく目を閉じた。



「アルテミス?どうしちゃったの?」
「え、え、え、えっと、美奈に追い出されてしまったんだ。るるる、ルナもいなくて。えっと、近くを寄ったから」
朝早くに、アルテミスはレイに偵察を言い渡されて、みちるたちの家に来ていた。レイの格好の美奈子は、休日なのに早くに起こされて、少し不機嫌らしいけれど、苦いコーヒーを飲みながら、がんばっている。
「アル?!何しに来たの?!」
「ちょっと、偵察・・・」
レイの膝の上に乗ったアルテミスは、マジマジとレイの顔を見た。
「レイからの伝言。間抜けなことはするなって」
「・・・バレた?」
「教えてもらったよ。まったく、結構楽しんでいるじゃないか」
そんな風に見えるものだろうか?美奈子は引き攣って笑ってみせる。
「まぁ、不思議な体験できたけど。さすがに、もうね。あ、でもTA女学院に行ってみたい」
つい最近、騒動を起こしたばかりだというのに、懲りていないやつだ。アルテミスは溜息をついた。
「レイもさ、結構楽しんでいるよ。今日はパパとママと3人で遊びに出かけちゃったよ」
「うそ?何よ、そんないい娘になりきるつもり?」
「部屋も掃除して、勉強しているから、ママが本気で心配してた」
そりゃそうだろう。美奈子は元に戻ってからが怖くて、ちょっと嫌になる。
「レイ、何をアルテミスと話しているの?」
「別に、なんでもないわ」
アルテミスは美奈子の膝から降りると、軽く伸びをした。
「今日一日、みっちり偵察して帰るから」
「勝手にして」
「恥をかくことはするなよ?」
「もう、手遅れ」
美奈子は苦いコーヒーをがんばって飲み干すと、甘いヨーグルトで後味を消した。


手を繋いだら、また、相当びっくりされた。
「何?」
「・・・美奈子、どうしたの?心を入れ替えたの?」
「そうよ。だって、大好きだから」
美奈子の母親が目からぽろぽろ涙をこぼしている。
「どこかに頭をぶつけたのか知らないけれど、いい子になったわー」
「パパは嬉しいぞ!」
「ありがとう」
レイは、これで美奈子が元に戻ったときも、改心させてやりたいものだと、ちょっと思う。せっかく朝早くおきて一緒にお弁当を作って(しかも、料理抜群だし)ピクニックに来たのだから、ちょっとくらい、親子の気分を味わいたいものだ。
「まるで、生まれ変わったようだ、美奈子!」
美奈子に父親は、鼻の下を伸ばしきっている。
「パパ、お弁当食べたら一緒にボートに乗りましょうね」
なんて幸せなのだろう。入れ替わったのが親のいる美奈子でよかったなんて、不謹慎にも思ってしまった。


つまらない。つまらなさ過ぎる。静かな美術館。絵心なんてあるわけないのに。マジな目をして絵を眺めているみちる、はるか、せつな。飽きたなんていえるわけがない。午前中をクリアすれば、最近出来たばかりのショッピングモールに連れて行ってもらえるのだから。
(我慢・我慢・私は火野レイよ!)
美奈子は自分に言い聞かせて、踏ん張るしかなかった。美術館を出て、ようやく駐車場に向かう。
感想なんて求められてしまった。
「え、えっと・・・どれも素敵だったわ」
みちるは誰々のなんとかという作品がどうだったとか、訳も分からず言っているけれど、美奈子は適当に相槌を打つだけだ。車の中で待っていたアルテミスが、見ていられないような溜息をついた。
「み・・・レイ、何やってるんだよ」
「別に・・・本人にさ、生活態度改めてってお願いしておいて」
「君はお願いされるほうだ」
「殴るわよ」
隣に腰を下ろしたせつなが、眉を顰めてみてくる。
「レイ、アルテミスがどうかしたの?」
「別に。それより、早くお買い物に行きたい」
美奈子は、わざとらしくアルテミスの頭を撫でてやった。その手はレイだけど中身は美奈子で。アルテミスは複雑だった。


『学校?席は、えっと、うさぎちゃんの斜め前かな?』
「それじゃダメよ。うさぎは遅刻してくるんだから、わからないじゃない」
『んじゃぁ、右から2番目の列の、前から3番目』
「ありがと。宿題とかあったの?」
『ううん、ないけれどテストが始まる』
「えー?!あんたの名前でテスト受けるの?どうするのよ、私、間違えることなんて出来ないわ」
『それ、どういう意味?』
「よかった・・・TAのテストが終わってからで。あんたに私の名前でテストなんてこの世の終わりだわ」
『だから、どういう意味よ』
「まぁ、いいわ。テストは一度くらい良い成績を修めるのも悪くないわね」
『そんなことされたら、あとで私が困るじゃない』
「この際、悔い改めてよ」
『何を?っていうか、レイちゃん、いったいどういう生活を送っているわけ?参ったわよ、はるかさんに唇奪われたじゃない』
「まぁ・・・私の身体だし」
『良くないわよ!説明してもらわなきゃ気がすまないわよ!』
学校に備えて神社に帰った美奈子は、ようやく一人になれてほっとして、電話でレイに苦情を散々言いつけている。レイはとりあえず、美奈子の使っている教科書を、時間割にあわせて鞄に入れながら、話を聞いていた。
「美奈、私の学校だけど、とにかく極力誰とも話しちゃダメよ。学食で、がつがつものを食べないで、前みたいなこと、しないでよ!」
『わかってます』
「終わったら、司令室に集合だからね!」
『わかってますってば!』
「そういう口調もやめなさいね」
『・・・わかっているわ。それより、また来週はるかさんたちと会うの?それまでに戻りたいわよ』
「そうねぇ。アルテミスに方法を探ってもらっているわ。古典的だけど、もう一度2人で吹き飛ばされるとか?」
『いきなり吹き飛ばされるのと、わざと自分からと、痛みが違うわよ』
「まぁ、何とかなるわよ。とりあえず、学校、変な騒動を起こしたら、元に戻ったらただじゃ置かないから」
『覚悟して望むわよ。じゃぁね』


関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/07/12
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/214-f65d8317
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)