【緋彩の瞳】 CHANGE ⑥

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

CHANGE ⑥

5日間のテスト週間も終わり、レイは美奈子の名前でテストを無事終わるとクラウンに来ていた。テストから開放された十番高校組み全員揃って歩く。もちろん、はるかもみちるも。
「美奈子、テストが終わったのに元気ないわね。そんなに散々だったのかしら?」
「そういうわけじゃないわ」
学校を出てから一人じゃなくて、ずっと仲間達と一緒に歩くということが嬉しいようでちょっと複雑で。
「みんなー!」
パーラーに入ると、レイの姿をした美奈子が凄い笑顔で手を振っていた。頼むから羽目を外すなよと、レイは睨み付ける。
「なんだか、本当にレイが元気になったわね」
「恋でもしているのか?」
“レイ”を挟んで座るはるかとみちる。レイはちょっと寂しくなるけれど、何も言わずに亜美の横に腰を下ろした。美奈子は迷惑そうにしている。
「ねぇ」
“レイ”の髪を撫でたり顔色を伺ったり、愛敬を振りまくはるかとみちる。“美奈子”ご一行内部戦士たちなんて話の相槌を打つくらいで、ほとんど“レイ”付きっきりだ。こういうのは傍から見ていてイライラする。本物(なのかわからない)はここにいるというのにどうして気がつかないのだろう。いつも細かいところまでやたらと気にしてくるのに、中身が入れ替わったことに気がつかないなんて。
「何、美奈子?」
「・・・べたべたくっ付きすぎよ、離れなさいよ」
「嫉妬?」
はるかは“レイ”の髪をまだ撫でている。
「そういうのは、自分たちの家に帰ってからやってよ」
なにやらレイが怒っているらしい。美奈子は髪を撫でているはるかの手を払いのけた。外見が美奈子で、でも態度の出し方がレイだから周りから見れば美奈子がはるかに対して喧嘩を吹っかけているように見えてしまう。
「み、美奈子ちゃん。いつものことじゃない」
亜美たちは美奈子の姿をしたレイを宥めようとしてくれる。普段、本気で仲間に対して苛立ちをぶつけるようなことはない美奈子がレイみたいなことをしているから、ちょっとびびっている。
「美奈子、何だよ。何が言いたいんだ?」
はるかは“レイ”に手を払われて少し残念そうな表情を見せた後、美奈子に向きを変えた。
「そもそも、あなたたちの本来の使命は何なの?誰の美神なのよ?流石に、2,3日したらあなたたちにはバレるだろうと思っていたけれど。がっかりしたわ。あなたたちは中身じゃなくて、表向きの火野レイの傍にいれば満足なわけ?」
いったい何のことを話しているのだろうか。美奈子はただ、本気で苛立っている自分の姿を見てちょっと怖いと思った。
「なんでおまえが知っているんだ?」
「・・・・いいわ、もう。話すだけ無駄。うさぎ、どいて」
レイは隣のうさぎのイスの脚を蹴った。びびって立ち上がったうさぎが場所を開ける。美奈子の財布から小銭を取り出して自分の姿の美奈子に向かって投げつけると、通路に出て出入り口へ向かって歩き出した。
「待てよ。どうしてイスを蹴る必要があるんだよ?」
はるかが呼び止めても、レイは振り返るつもりはない。うさぎに対しては別にどうでも良かったけれど、どうせはるかのことだろう、関係ない人間に害を与えるなとでも言うに決まってる。
「おい!個人的に言いたいことがあるのなら、他人のいないところで言えばいいだろう?」
ほら。レイは無言のまま、少しスピードをあげて自動ドアの向こう側に消えた。はるかはそれを追いかけようとする。
「やめて。私が行くから」
立ち上がったはるかを美奈子は慌てて止めた。おそらくレイが苛立っているのは、はるかとみちるの態度だろうけれど、縺れさせたくない。険悪にされるとよけいにややこしくなるし、美奈子の姿をしているのはレイなのだ。
「レイ、美奈子にバラしたのか?」
何のことだかさっぱり。バラすって、何についてだろうか。でも、美奈子は首を振っておいた。とりあえず美奈子はまったくよくわからないから、レイから何か重大な秘密を漏らされた覚えはない。今のところ。
「と、とにかくはるかさんたちは、ここで待っていてよ」
美奈子は急いでレイを追いかけた。途中、気まぐれ猫アルテミスとすれ違う。
「アル、レイちゃんは?」
「・・・君だろ?!」
「違うわよ。そうじゃないほうのレイちゃん!」
アルテミスはまだ馴れていないらしい。美奈子はとりあえず自分の家に向かって走った。アルテミスはそれを見送ったあと、クラウンの司令室へ向かった。


「アルテミス?」
専用の入り口から身体を入れたアルテミスは、誰かの声に地面から首をグぐっと上げた。
「みちるじゃないか。何か事件かい?」
敵でも現れない限り司令室なんて無人に決まっている。居心地はいいわけがないのだから。
「美奈子は?」
この場合の美奈子はおそらく、中身がレイの美奈子のことだろう。
「さぁ?走ってどこかへ行ったのは見たけれど・・・。何かあった?」
ディスクの上にのぼったアルテミスは、まだ一応口外するのは禁止されているために、そのことに触れないように気を引き締める。
「あの子、ちょっと最近おかしいわね。レイもやけに元気だわ。2人に何かあったのかしら?あなた、何か聞いていないかしら?」
そろそろ誰か本気で怪しんでくれないかと、アルテミスは思う。確かに中身が入れ替わっているなんて答えを導き出すには簡単じゃないだろうけれど。
「アルテミスが僕らのことを美奈子に教えたのか?」
「いや。教えてないけれど?」
ディスクにもたれて、腕を組んでいるはるかは、何かに対して苛立っている様子だ。
「どうして知ってるんだ?レイが言うわけないだろうし・・・」
いや、だからそれは“本人”だから。アルテミスは、状況を飲み込めなくても突っ込みたい衝動に駆られた。とりあえず、聞かなかったことにする。


家に戻ると美奈子の母親がちょうど家から出てきた。
「おかえりなさい」
「ただいま。どこかへお出かけ?」
「夕飯のお買い物。何がいいかしら?」
すっかり人の変わった美奈子に対して、とても優しく接する美奈子の母親。レイは笑って見せた。
「何でもいいわ。私も行ってもいい?荷物、重たいでしょう?」
「いいわよ。あなたは、テストが終わったばかりなのだから、部屋でテレビでも見てのんびりしていなさいな」
肩に手を置かれて微笑まれると、強引に付いて行く気にはならない。
「わかったわ。じゃぁ、待ってる」
レイは部屋に戻ると鞄を投げ出して、ベッドに寝転がった。今日はイライラしている。あのはるかたちの態度に嫉妬したのだろうか。それとも許せなかったのだろうか。こんなにも大変なことになっているのに何も気がつかないとは、役に立たない美神たちだ。ただ単に美神たちがどれほど自分のことを想っているのかを確かめたいだけかもしれない。
「レイちゃん」
勝手知ったる自分の部屋にノックなしに入ってきた美奈子は、ずいぶん綺麗な部屋を見回して溜息をついた。
「いらっしゃい。っていうことになるわね?」
「まぁね。さっきスキップしながらママが買い物に行ったわよ」
「そう。この部屋、とても居心地がいいわ。素敵ね」
起き上がったレイは美奈子が座るスペースを開けた。
「そう?レイちゃんの部屋のほうが広いじゃない。ベッドだってセミダブルだし、ふかふかしているし。天井も高いから開放感あるし。あの部屋のほうが居心地いいわよ。テレビがない以外はね」
「何でも物事を計量しすぎなのよ。広いとか高いとか、質の良さだとか。美奈は物事をそういう見た目で判断するクセがあるのね。私が言っているのは、そういう意味じゃないわ」
レイの言っていることが美奈子には難しくてよくわからない。首をかしげると小さく笑われた。
「まぁ、いいわ。きっとそれは、美奈にはわからなくていいことなのよ」
可愛らしいぬいぐるみが枕を取り囲んでいる。レイはその中の桃色の象を取ると胸に抱いた。
「はるかさんたち、あなたのことを心配している」
「・・・美奈の姿をした私を?それはたぶん心配じゃないわ。怒っているのよ。問いただしたいことがあるのでしょうね」
「はるかさんたちのこと、レイちゃんは何でも知っているんだ」
「まぁね、付き合い長いから。だからイライラするの。いい加減、気がついてくれたらいいのに」
それを言ってしまえば、母親なんて自分が産んだ娘の性格が180度変わったことをむしろ神に感謝しているくらい喜んでいるのに。どちらかといえば、そっちのほうが問題だと思ったりするけれど。美奈子はあえて言わなかった。
「美奈のママたちを騙しているみたいで、流石にそろそろ何とかしなきゃって思っていたんだけど。あまりに居心地がいいから」
「レイちゃんは、どうしたい?」
もしこのまま元に戻らなかったら。ずっと愛野美奈子として生きていきたいと思うのか。
「それはそれでいいかも。でも、それは理想のままのほうがいいって言うのが、1週間美奈になってわかったことよ」
「私じゃぁ、嫌だってことね」
「違うわ」
象のぬいぐるみの耳をいじりながら、溜息をついた。鏡で見慣れた自分の顔はなんだか少し疲れているように美奈子には見える。
「あなたに私を演じることが出来ないわよ。美奈に火野レイは重たすぎる。もちろん、私には愛野美奈子が重たい。背負っているものが違いすぎる。お互い理想のままでいるべきなの。踏み込んではいけない聖域があるのよ」
理想のまま。今までお互いに外見だけで付き合ってきたわけではないけれど、全てを知っているわけではなかった。知ってはいけないようなものがあったのかもしれない。少なくともレイにとっては。
「そうだね。重たいかもしれない」
「早く、何とかしなきゃ・・・ね」
愛野美奈子として彼女の両親と幸せに暮らして、仲間と同じ高校に通って。信頼を集めた愛の女神。それはレイの理想だけれど叶えてはいけないもの。
「神社に戻るわ」
「そう。バイバイ」
美奈子は上手いアドバイスも出来なくて、自分の部屋から出て行った。

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Date:2014/07/12
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