【緋彩の瞳】 みちるとレイと

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

みちるとレイと


「こんなところにいるってばれたら、みちる、怒りそうだわ」
本当にしばらくぶりに会った彼女の誘いに、レイは二つ返事をした。この前訪れたときには、首が痛いほど見上げなければ建物全部を見渡せないくらいだったはず。いったいどれくらい久しぶりなのだろう。
「あら。みちるとは今も仲良くやっていて?」
「深美ママも、私が住んでいる近くだから、みちるを独り暮らしさせたんでしょう?」
否定も肯定もしないで微笑む仕草は、娘にそのまま受け継がれている。ふかふかのソファーは幼いころにぴょんぴょん跳ねて遊んだことがある。今、座っていてその高価さをこの年になってようやく気がついても、いまさら遅い。
「レイは、あのままTAにずっと通っているのね」
「ほかに行くところがないんだもの」
幼稚舎のころからTAの制服で海王家に通い詰めていた。みちると同じ制服だった。だからこの制服じゃない学校に通うつもりなんて、今もさらさらない。
「そう。みちるには似合わないって思っていたけれど。やっぱりあなたにはお似合いだわ」
「褒めてもらって嬉しいけれど、みちる、怒るわ」
大きなお屋敷に、今はレイと深美だけ。レイが大好きだった蜂蜜たっぷりのレモネード。温かいカップを両手で包み込み、ふーっと息を吹きかける。大人になって、少し甘ったるさを感じた。
「今もみちるは、相変わらずレイにべったりしているのかしら?」
「普通、だと思うわ。私もみちるに助けてもらっていることはあるし」
「みちる、レイ以外のお友達はいるのかしら?」
人付き合いが苦手なみちるにとって、レイは全てで。レイもみちるが全てで。そんな時期もあったのねと、今は笑い話と受け取ることが出来る。
「いるわよ。私の友達とも仲良くやってるし、私もみちるのお友達とよく遊ぶし」
「そう。それはよかったわ。レイとみちるだけの世界に旅行に行っちゃったままでいたけれど、やっと帰ってきてくれたわね」
「それ、大げさだわ」
レイの周りには美奈子やうさぎたちがいて。みちるの周りにもはるかやせつながいる。共有できる友達がたくさんじゃないけれど、何とか両手を使ったくらいは出来た。
それで十分だって心から思う。
「本当よ。あの子舞台に立って何千人というお客さんを沸かせる度胸はしっかりあっても、肝心のところが足らないのよ。母親としては、それが心配」
「それもみちるらしいって、私は思うけれど」
ヴァイオリニストとして舞台に立つみちるは、だから顔つきが全然違う。愛想良くして微笑んでいる内心は、心臓がバクバクで、舞台から降りた瞬間変な汗を掻いて疲れた顔をしている。だから、いつもコンサート後の機嫌はすこぶる悪い。その原因を知っているのは、本当にレイとみちるの両親くらいしかいない。
「誰に似ちゃったのかしら?」
「深美ママじゃないのは、確かだわ」
「あら、レイも言うようになったのね」
TA初等部卒業後、3年間の留学をして、やっと日本に帰ってきたら何を考えているのか、いきなり独り暮らし宣言。娘の早いひとり立ちに、やっぱり心配の種はどんどん増える一方だろう。
「でも、私が近くに住んでいるし、ほとんど毎日顔をあわせているから」
「しっかり物のレイがいてくれると助かるわ」
「お互い、抜けた部分を補っているみたいなんだけれど、本当のところは」
あらあら。深美は上品に微笑む。レイも声を出してクスクスと笑った。
みちるが傍にいるだけで、どれだけ心が満たされるか。娘の心配をする母親の気持ちというものを感じることが出来るだけで、今、自分の心がどれだけ満足しているか。レイは言葉には出来ないけれど、それを伝えようと、必死になってみちるの今の生活ぶりを報告する。
「あ、ちょっとごめんなさい」
尽きない話の最中、突然レイの携帯電話が音を発した。いつも留守電ばかり使うレイにキレたみちるが、自分だとすぐにわかるようにと、着信メロディーをわざわざみちる専用にと変えたこの曲。つまり、みちるだとわかっていて留守電にしたら、後でお仕置きが待っているということ。
「みちる?」
「間違いなく、そうね」
ディスプレイを確認する必要もなく、レイはボタンを押して耳を押し当てた。
『どこよ?』
なにやら不機嫌。
「今、人と会っているのよ」
『聞いてなくてよ?』
「言ってないわよ。たまたま会ったんだもの」
『だったら一言、私に連絡を入れてもいいんじゃなくて?』
「約束なんてしてないわよ。今、どこにいるの?」
『神社。クラウンに寄ってもレイだけいないし。みんな知らないっていうんだもの』
みちるのよく通る声が電話から漏れて、深美の耳へと届く。娘のレイを独占する気迫ある声に思わず苦笑してしまう。
「みちる、じゃぁこっちに来る?」
『来る?って。どこで誰と会っているの?』
「みちるの実家にいるのよ。たまたま深美ママに声かけられて。久しぶりって。おうちに遊びに来ているの」
数秒の沈黙後、みちるの驚いた声が返ってきた。
『ママ?!』
「そう。あなたのママ」
『…すぐ行くわ。レイ、変なことを吹き込んでいないでしょうね?』
「さぁ?」
ぶちっ。プー・プー・プー。
返事もなく切られた電話。みちるのことだ、きっとはるかさんを捕まえて急いで車を走らせているに違いない。
「レイにゾッコンなのね、みちるは。今も昔もそこは変わらないみたいだわ」
わが子ながら、困ったものね。そう言って微笑む深美に、レイもまったくだわ、と頷く。
今頃焦ってこっちへ向かっている幼馴染は、どんな表情をしているのだろう。想像にたやすいけれど。
「レイだけは、あの子のことを見捨てないでやってね」
「私には、みちるを見捨てる度胸がないわ。お互い様なの」
「あらあら、それも困ったわね」
あと少ししたら、ノックも何もせずに間違いなく一直線でレイたちのいる場所へと乗り込んでくるに違いない。
そうしたら、まず、最初に“どういうこと?!”って迫ってくるに違いない。


ほら。大きな門を開けて、車が玄関前でぴたっと止まる音。それから勢いよく玄関のドアが開いて、バン!って閉まる音。スリッパを履くのをすっかり忘れて、ずかずか一直線にやってくる。
「レイ?!どういうこと?!」
「みちる、お帰り。予想通りね」
「みちる、お帰りなさい。ほら、スリッパは?お友達に送ってもらったのでしょう?あがってもらいなさい」
取り合おうとしない二人に、絶対自分の悪口を言いまくっていたに違いないことに腹を立てながら、でもみちるはちょっと嬉しそうな気持ちが顔に出ていた。


ねぇ、レイ。ママに何か吹き込んでいたのでしょう?
     さぁ?どうかしら?
おっしゃい
     秘密よ、秘密。
…もう、意地悪なんだから。

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Date:2013/11/10
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