【緋彩の瞳】 愛が散る夢 ②

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

愛が散る夢 ②

どうして夢に彼女が出てきたのだろう。あまりにも遠い前世の記憶なのに、どうしてこの体は今もその全てを覚えているのだろう。

鮮明に。
優しいほど、それは痛い記憶だというのに。

「…どうかしたの?みちるさん」
蘇る記憶が体温を上げてしまいそうで、何度も寝返りを打って自分にごまかしを求めていると、隣で眠っていたはずの彼女まで起こしてしまった。
「大丈夫よ。ごめんなさい」
「ううん、気にしないで。お水でも持ってきましょうか?」
長い髪がシーツの上を踊る静かな音が耳に届く。みちるはそっと彼女の肩を抑えた。
「平気だから」
「そう?」
シルエットは静かにまた眠りを誘う体制に入る。ゆっくり行われる動作。上がった心拍数を抑えるためにため息を吐いて、その体を抱きしめる。
「お休み、みちるさん」
魔法のように囁かれる言葉と、頬を撫でる冷たい手。
自分が泣いていたんだと思い知らされる。みちるは言葉を返さずに腕の力を込めた。

愛の雫は優しい音を紡ぎ、この海へと注がれる。
果てなく長い年月をかけて。

今も、きっと。



「コロニス?」
「そう。レイが隣にいたせいかしら?でも、今までそんな夢は見なかったのに」
喫茶店は朝食の時間を過ぎて、少しだけ静かだった。紅茶を味わう老夫婦や子供を送った後のお母さんたち。みちるは窓に背を向けて腰を下ろし、早速話題を振る。最初の台詞を言ったせつなは案内をしてくれたウェイトレスに軽く目配せをした。何も言わずに下がる姿を見届けることなく、みちるに向きを戻す。
「あなたがどんな夢をいつ見るかなんて、たいしたことじゃないでしょう?」
「わかってるわよ」
「じゃぁ何?罪悪感かなにか?」
すぐにでも暖かい紅茶を注文したかったのにと思いながら、はるかが足を組んでやや体を斜めにしている。あんまり興味がないという態度でもある。
「何の罪悪感よ?」
「そりゃ、レイに手を出した」
「……出していないわ」
「それはまたそれで、かわいそうなんじゃない?」
水が運ばれてきていたら、間違いなく顔に掛けられていただろう。明らかに不機嫌な顔をしている彼女に対して、はるかはそれでも悪気のない笑みを振舞う。つまらない口喧嘩に付き合わされるのもたまったものじゃない。
「気にすることないと思うわよ、みちる。前世の記憶がある以上いろんな夢も見るでしょう」
「わかっているわよ。ただ、どうしようもなく無気力になっちゃいそうだなって、思っただけよ」
遠い前世のことなのに。まるで昨日のように感じる。毎日、いろんなことを感じて生きているはずなのに、記憶は簡単に過去も前世も行き来できてしまう。
「だからって、レイみたいに何も覚えていない方がいいって言うわけじゃないだろう?あいつは自分が戦士でいる理由もわからないんだから。コロニスのことも覚えていない」
どっちが良いとか悪いとかじゃないはずなんだけど。そう思いながら、出番を待っていたウェイトレスに向かって、せつなは片手を上げた。一瞬の沈黙の中に絶妙のタイミングで注文をとりに来る。
「ところで、レイは元気?」
「えぇ。相変わらずの”Going my way”よ」
「そりゃなによりだ」
「いいんだか、悪いんだか。はるかよりは可愛げがあるけれど」
上手い具合に話しが途切れ注文を終えると、せつなはまた流れをさりげなく戻すように会話のきっかけを作った。
周りはみんな溺愛だなんて声を揃えて言う。みちるもそれを否定はしない。大切な雛を守る親鳥のように、レイをいつだって守っている。
でも、何から守っているのか本当のところはわからない。
「そのレイに特に変わった様子もないのでしょう?コロニスの夢は彼女が見せたのではなくて、あなたが勝手に作り出しただけよ」
「変わった様子はないと思うわよ。ここ最近は敵も現れないし。ただ、何かのメッセージなのかしらって、ちょっと深読みしてみたのよ」
「ないない。みちるの被害妄想だ」
だといいけれど。頬に空気をためて恨めしくはるかを睨んだみちるは、せつなにあなたは味方でしょう?と瞳で訴えかけてみる。
「遠い前世の話よ、みちる」
「…そうね。そうよね」
たとえ記憶が昨日のことよりも鮮明であるとしても。
もう過去へ戻ることが出来ないのだ。
前世を思い出しても前には進めない。
彼女がいない現世を生きているという現実に変わりはない。
「そうだそうだ。その代わりしっかりとレイを溺愛してあげるんだろう?」
「だから溺愛じゃないってば、もぅ」
コロニスに比べれば、みちるがどんなに深い愛を胸にレイに接しても敵うはずないのかもしれない。
「コロニスのバカ…」
その呟きに、思わずせつなも頷いてしまった。




「さっきから、何をしているの?」
「本当に綺麗な指」
プロテクターのないむき出しの戦闘服。胸をわずかに隠すだけのコスチュームは、いつも目のやり場に困る。しなやかなその腕。その長い指。弓を引くまっすぐに伸ばされた背中をはじめて見たときから、吸い寄せられるように瞳は彼女を求めるようになった。
「ネプチューン、小さいころのマーズに似ているわ。あの子もよくそうやって指先を舐めていたの」
「…またマーズの話。つまらないわ」
彼女の両腕を自分の体に巻きつけたネプチューンは、彼女の胸を覆うセーラーの紐をゆっくりと解いた。露わになる胸には、いくつも戦いの痕が刻まれている。体に熱を持つとそれはいっそう鮮明になってゆく。
「つまらない?私の可愛い妹だというのに」
「…ずるいわ。そういうこと言って私を困らせるなんて」
絶対に敵わない相手だってわかっている。マーズを暖かく抱きしめているコロニスも大好きだから。大好きで仕方がないから、時々憎たらしいって思う。
「あら。ネプチューンもマーズみたいに可愛がって欲しい?」
「子供じゃないわ」
さらりと指の間を抜ける紅い髪。真っ白なうなじ。唇が無意識に寄せられてゆく。
「…ん…っ、悪い子ね、ネプチューンは」
彼女の強さが欲しい。彼女のすべてが欲しい。
身体の一部になって。
溶け合ってひとつになるには快楽を与えるだけじゃ足りない。
求めるだけじゃ足りない。
「コロニス、愛しているわ。あなたのためなら何でもする」
「それ、誘い文句?」
愁いを帯びた瞼の端には、愛を待つ雫。耳たぶに寄せる唇は言葉の代わりにキスを降らせる。
「…あ、ネプチューン…」
彼女には敵わない。強さも美しさも優しさも。
愛撫する身体のすべてが愛しい。小さな抵抗を見せるコロニスの力のない腕を押し付け、彼女が気を失うまで行為は続いた。


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Date:2014/07/12
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