【緋彩の瞳】 愛が散る夢 ⑤

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

愛が散る夢 ⑤

アルテミスから“コロニス”が何者なのかを調べようとしていたと聞き、レイちゃんの携帯電話に電話をかける。きっと繋がらないだろうと思っていたのに、あっさりとレイちゃんの声が聞こえてきた。
「今どこ?」
『どこかわからない』
「わからないって何よ?」
『電車に乗って、適当なところで降りて、また知らない電車に乗って……乗り継いで行けるところまで行ってみたのだけど』
「いつからそんな、ぶらり1人旅なんてする人になったのよ、この馬鹿」
アルテミスはコロニスのことを知らせなかったらしいけれど、レイちゃんは泣いていたらしい。あのレイちゃんが泣くなんて。泣くほど愛されているみちるさんは、罪深い女だと思う。
『何も考えたくなかったの。見知った場所だと落ち着いてしまって、考えたくないことを考えちゃうでしょ?』
「それで?降りた駅の名前は?」
『名前なんて見ないで降りたわ』
「馬鹿。近くに何かコンビニとか住所書いているところは?」
がさごそした音の後、レイちゃんが告げた住所は東京じゃないことだけは確かだった。
『美奈、みちるさんに言うの?』
「黙っていて欲しいなら言わないけれど」
『任せる。でも、東京に帰る気分になれないし』
任せると言われても。
「迎えに行くから。もう電車に乗らないでよね」
はたして、会えたとしても帰りの電車はあるだろうか。きっとないだろう。
『みちるさん、今日はお仕事があるみたいだし。言っても来られないわよ』
「考えておくわ」
電車を乗り継いで2時間くらいはあるだろう。今は美奈子1人の方がいいような気がした。財布の中を見たら、片道くらいなら何とかなりそうな金額。
「帰りはレイちゃん持ちにしてやる」
駅に向かって走った。
レイちゃんにコロニスのことを聞かれたらどう答えればいいのだろう。
どう説明しても、レイちゃんは悲しいはずだから。



季節外れのビーチを横目にぶらぶらと歩く。東京から出て一度立ち寄った大きなショッピングモールで服を買い、目立つ制服から着替えて、また電車を乗り継いで。
すっかり涼しくなってきた。お腹が空いたような、空いていないような。真っ暗になってしまって、人がほとんどいない観光地は、居酒屋の提灯が赤く光り始める。
駅に止まっているタクシーの運転手に教えてもらい、近くの民宿に泊まることにした。きっと美奈が来た頃には、帰りの電車は東京にたどりつく前に停まってしまうだろうから。
メールで民宿の名前と、簡単な行き方を送り、畳に寝転がる。
静かすぎると、電車に乗ってここまで来た疲れがどっと身体に襲った。
明かりを落として、畳と座布団のまま目を閉じる。
美奈が来るまでまだ時間がある。
少し眠りについた。



「レイちゃん」
「………美奈」
眩しい光と、聞きたかった人とはちょっと違う高い声。
「来たわよ。すっからかんになっちゃった」
一瞬自分がどこにいるのかわからないのか、美奈子を見上げてからあたりを見渡している。
「あぁ………。お疲れ様」
「疲れたわよ。軽く旅行じゃん。ちょっとウキウキしちゃって、コンビニでパンツ買っちゃったわ」
「みちるさんに連絡してないでしょう?」
「あ、わかった?」
どうしようか悩んでいたけれど、結局電車に乗ってしまってすっかりタイミングを逃したままたどり着いた。最終的にレイちゃんに判断を任せてもいいかな、と思って。
「まぁ、きっと電話がかかってくるから、その時に今日は会えないって言うわ」
「逃避行のことは?」
「別に逃避行のつもりはないし」
「そっか」
レイちゃんは予想通り何も食べていなくて、美奈子はパンツと一緒に買ったコンビニおにぎりをテーブルに並べた。レイちゃんは丁寧にお茶を淹れてくれた。
「………レイちゃん、コロニスのことを聞きたい?」
海老マヨのおにぎりを食べながら、美奈子はアルテミスから聞いていた、レイちゃんの現実からの逃避行の原因を尋ねた。
「あぁ……知りたくないと言えば嘘になるわね。知らない方が幸せだから、たぶん、みんな黙っていたんだって思うと、知らない方がいいかもしれないし」
「コロニスのことを知っているのは、私とみちるさんとはるかさんとせつなさん。まこちゃんたちは知らないわよ」
「どうして?」
「うーん。身分の違いかしら?隠しているわけじゃないけれど。コロニスって言う人がどういう人なのか、それはレイちゃんに隠さなければならないことでもないけれど、レイちゃんに関係する人でもあるのよ。覚えていない人に言うことでもないから、黙っていたの」
関係する人っていうところで、レイちゃんは眉をひそめた。
「いや、そんな顔しないで」
「……教えて。コロニスって何?」
知りたい気持ちと知りたくない気持ち。レイちゃんの心が戦っている。
戦いを終わらせる方法は、知るという結末を迎えるしかない。
「セーラーコロニス。セーラーマーズの血を分けたお姉さんだった人よ」
「え……私の?」
自分との関係をまさか血が繋がっているなんていうのは想像していなかったせいか、予想以上にレイちゃんは冷静でいる。
「うん、そうよ。コロニス星は火星のすぐ近くにあって。セーラーコロニスは月の王国の戦士じゃなかったから、まこちゃんたちは知らないの。外部3戦士が彼女のことを知っているのは、コロニスの部下にあたる地位だったからよ。コロニスは四守護神以外の多くの星のセーラー戦士のトップに立つ、すごく強い人だったから」
「その人が私のお姉さんだったの?転生しているの?」
「残念ながら、地球にはいないわ。転生したのは月の王国に関わる人間だけだから。あの人は確かにマーズのお姉さんだったけれど、月の王国とは切り離された立場の人で……」
あれから幾千の歳月が過ぎた。生きているのか、死んでいるのか、それすらもわからない。レイちゃんはうつむいてため息を漏らした。
「……そう。姉妹って聞いてもピンと来ないわ」
「いいんじゃない、それで」
「でも、申し訳ないかも。その人はお姉さんだったんでしょう?」
「落ち込まなくてもいいわよ。そういうことを気にするような人でもないはずだから」
正直美奈子も、前世で会ったことなんてほとんどない。
だけど、いつもマーズが言っていた。とても優しい人だと。
「………ありがとう、教えてくれて」
「いや、こっちこそ。別に隠したかったわけじゃないんだけど。身内がいたなんて、知らなくてもいいかなって思ってね」
「そうね。知っても会えないし、地球に転生していないのであればどうすることもできないわね」
「でしょう?」
レイちゃんはようやくほっと溜息をついて、梅のおにぎりのフィルムをはがし始めた。
「その人、私に似ていた?」
「似てた似てた。でも、穏やかでおっとりした口調だった」
「あぁ、そう。じゃぁ、似てないじゃない」
おっとりだったかどうかなんて、本当のところは知らない。
「顔はそっくりよ」
「………そっか。だからなのね」
レイちゃんの呟きは、みちるさんのことなんだとわかる。
みちるさんがどうしてレイちゃんを可愛がっているのか。
どうして恋とは言いにくい関係を続けているのか。
「みちるさんと何かあった?」
おにぎりを食べながらレイちゃんはそっぽ向いた。
「みちるさんが誰を好きなのか、……やっと知ったわ。知って、どう考えても敵わない人だとわかって、もう笑うしかないかなって、考えているところよ」
一口しか食べられなかったおにぎりはレイちゃんの手元を離れた。
ごろんと畳に転がって、ぼんやりと天井を見上げてしまう。
「レイちゃん、そのことはちゃんと本人に聞いたら?」
「そうね。でも、きっとぎくしゃくしてしまう。悩んでいるくせに、私はやっぱり傍にいたいと思うの。みちるさんは愛してくれているのに、それは種類が違うなんて文句を言ってしまっているだけなの。ある意味、今のままでいればみちるさんはずっと私を傍に置いてくれるような気がして……」
「それでいいの?レイちゃんはそれを望んでいるの?」
望んでいないから、苦しんでいるくせに。
苦しいからなかったことにしようとするなんて、らしくない。
それほどにみちるさんが好きなんだって思う。
「私には、そのコロニスの持つ魅力のかけらもないんじゃない?みちるさんの魂を掴んで離さない人は、この世界に存在していないのなら余計。美しい想い出しかない人を相手に、敵うと思う?」
みちるさんをグーで殴ってやりたい。
みちるさんだって、たぶんどうしようもなく困っているんだと思う。
だったら、はっきり言えばいいのに。
レイちゃんがみちるさんを恋愛対象として好きだってわかっていて、それを受け止めきれないくせに傍に置きたがるなんて、意味がわからない。
愛しているって言ってるけれど、セックスしない。
「………みちるさんのこと、好きなんだね」
「好きよ」
「……そっか」
「美奈ならどうする?」
「うーん……」
美奈子はレイちゃんの隣に並んで同じように寝転がった。それだけでドキドキする。
「私だったら、傍にいたいなら気が付いていることを正直に話して、それでも好きだって言うかな」
「じゃぁ……そうしようかしら」
いくらなんでも、何事もなかったように接するなんてできないはず。
「私だったら、の話だけどね」
「ううん。思えばそうよね、私なんか好きになる要素なんてないし。きっと素敵な人だったんでしょうね、コロニスって言う人は」
レイちゃんは、レイちゃんという存在だけで十分に魅力的なのに。
そんな事を言っても、きっとレイちゃんには何の意味もないことはわかる。
投げ出されているその冷えた手にそっと手を添えた。
「私はレイちゃんの味方だから。レイちゃんとみちるさんがずっと幸せでいて欲しいって思ってる」
「……悪かったわね。こんなところまで来てもらって」
「気にしないわよ。レイちゃんのためだもの」

みんなみんな、前世の記憶なんて消えてしまえば、どうなるだろう。
赤の他人のことだって、割り切ってしまえば楽になれるのに。

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Date:2014/07/12
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