【緋彩の瞳】 愛が散る夢 ⑥

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

愛が散る夢 ⑥

「レイ、どこにいるの?」
朝、昨日の夜レイから忙しくてマンションに行けないと連絡をもらい、気になって神社に様子を見に行くと、活動するには早い時間なのに誰もいない。
『おはよう、みちるさん。ちょっと用事があって東京じゃないところにいたのよ。今から帰るの』
「東京じゃないってどういうことなの?何をしていたの?」
『ぶらり1人旅みたいなもの。途中で美奈と合流したけど』
どういうことだろう。東京じゃないところで美奈子と2人で何をしていたのだろうか。
あんまり想像したくはない。
「旅?どうやって?」
『電車で。もう帰るわ。みちるさん、お仕事は?』
「今日はないわ。レイと一日過ごすつもりでいたのよ?」
『本当?すぐに帰るから』
レイは“すぐ”と言っていたけれど、帰って来たのはそれから2時間してからだった。
車で駅まで迎えに行くと、仲よさそうに制服の美奈子と一緒にホームから出てくる。
その光景に焦りと苛立ちを覚えて、自分でもそれがなぜなのかがわからなくなる。
というより、その気持そのものが嫌になる。
「レイ」
「みちるさん、おはよう」
「心配したわ。何をしていたの?」
「うん、まぁ色々とね」
「昨日、学校へ行ったの?」
「行ってない。なんか、急にふらっと遠くに行きたい気持ちになって」
どういう気持ちか、なんてすぐに聞けなかった。
隣にいる美奈子の視線は、その理由を知って無言でみちるを責めてきている。
「とにかく、マンションに戻りましょう」
「そうするわ。美奈、どうもありがと」
「いえいえ」
美奈子はレイに手を振り、みちるには何も言わずにその場を離れた。
レイの手をつないで、車へと連れ込む。
「結局、どこへ行って来たの?」
「よくわからないの。適当に電車を乗り継いで。人気のないビーチの傍にある、さびれた民宿に泊まったわ」
「何かあったの?電話をしてくれたら、そこまで行ったのに」
「……そうね」
遠くに視線を逃された。みちるのせいでそう言うことをしたということがよく見えてくる。
無言のまま車を走らせてマンションにたどりつくと、レイは疲れたからと服を着替えるとベッドに横になった。
「何か食べなくてもいい?」
「いいわ。大丈夫」
目を閉じてうずくまるレイの髪を撫で、頬にキスを落とす。
「ねぇ、みちるさん」
いつもの様な甘えた声で腕を伸ばしてくるから、すこし、ホッとした。
レイのこの甘える声が好き。
「なぁに?」
抱きついてくる身体を受け止めて、みちるもベッドに横になった。

「みちるさん、“セーラーコロニス”って知ってる?」





……
………

手に汗がじんわりと滲んでくる。レイを抱く身体全部が震えだして止まらない。
「前世の私のお姉さんだった人……でしょう?」
「…………え…えぇ、そう…よ」
「どんな人だったの?」
心臓を握りつぶされたよう。
美奈子がしゃべったのね。
でも、それを責められないと思った。これはみちるが自ら犯した罪なのだ。
「………どんなっ、て?」
「みちるさん、最近よく、寝ているときにその人の名前を呼んでいるわ。だから調べたの。その人は何者なのか。美奈は、私のお姉さんって言うことだけを教えてくれたわ。あとはみちるさんから聞こうと思って」
緋彩の瞳がみちるの瞳を捕らえて離さない。
たぶん、レイはある程度わかって聞いてきている。
みちるの口から聞きたいと、そう願っている。
「……コロ、ニス…は……」
喉が渇いたように、かすれた。どういう言葉を選べばいいのかわからなかった。
「コロニスは、かつてネプチューンと恋人同士だった人、でしょう?」
“ネプチューン”と。
そう、みちるではない。
海王みちるとは違う人間のこと。
「……えぇ。そうよ」
「今でも愛してる?」
「私は…ネプチューンではないわ。昔のことだし…愛していないわけじゃない……けれ、ど」
口にして、それは今の願望だとすぐに思った。
「そう」
レイはそれ以上何も聞かず、みちるの胸に顔を埋める。きつく抱きついてくるその腕はみちると同じように震えていて、罪を静かに攻めてくる。
「レイ……」
「私はみちるさんの中のネプチューンがその人を想い続けている限り、みちるさんからキスを貰えない?」

何も、答えられなくて。
レイのことは世界で誰よりも愛しく思っている。
世界に溢れる幸せを寄せ集めて、それを見せて喜ばせてあげたい。
ずっと汚れない世界にいられるように守ってあげたい。
「…………コロニスを愛したのは、私では…ないわ」
自分に言い聞かせるように呟いた。
レイがマーズではないように、みちるもネプチューンではないと。
想っていても、どうにかなることではない。
あの世界は終わった。
愛は途絶えた。
前世は終わっても、コロニスへの愛にエンドマークをどのタイミングでおけばいいのかわからない。
「私は傍にいてもいいの?」
「何を言うの?傍にいてくれないと……」
「私はみちるさんが好き。みちるさんに触れていたい。でも、みちるさんはそれを望んでいないのなら、私は傍にいちゃいけないんじゃない?」
レイがマーズの記憶を持っていたとしたら、どうしていたのか。
コロニスがこの世界にいたとしたら、どうしていたのか。
十分に、すべてを分かっていて、火野レイを選んだのはみちる。
遠い前世の愛を引きだしてレイを苦しめるくらいなら、離れてあげた方がレイのためかもしれない。
「……好きよ、レイ。傍にいて欲しいわ。でも、……苦しめてしまうのね。私だって今さら、コロニスと何かしたいわけじゃないの。あの人はもうこの世界にはいないし、愛したのはネプチューンとコロニスだもの。私はその記憶に悩まされて……でも……」
こんなに抱きしめ合っているのに。
こんなにもレイは愛してくれているのに。
愛していることに嘘はないのに。
「……生きている人間が相手なら、その人を殺してでもみちるさんの傍にいるのに」
レイの愛は、みちるの持つ愛が濁っていることを証明していた。
「私が我儘過ぎたのね。レイが愛しいのに……」

寄り添うことは罪
愛することは罪
愛されることも罪
愛を捧げる人は、この世界にはいない
愛を囁き合った人は、みちるでもない
どうすることもできないのなら、この世界では誰も愛さない方がいい


前世なんてなければいいのに
記憶なんてなければいいのに


泣いて泣いて、涙と共に前世の記憶が身体から剥がれて忘却の川へ流れていってしまうのなら
惜しみなく泣けるだろうか

愛を捨て去る覚悟があるだろうか

前世に縋りついても
前世のあの人はとっくにこの手を放しているのに


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Date:2014/07/12
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