【緋彩の瞳】 愛が散る夢 END

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

愛が散る夢 END

「ちょっとは元気になってきたね」
「ん、そう?でも、案外さっぱりしてるのよね……」
あれから季節を1つ通り越した。
レイちゃんとみちるさんは、ゆっくりゆっくりと距離を離していって、あまり会わなくなった。
「みちるさんは元気?」
「電話ではね。明日、久しぶりに会って一緒にご飯食べるのよ」
「そっか」

少し暖かくなってきた。
もうすぐ夏が始まる。

重たかった服が薄着になるように、太陽を迎えるように、今のレイちゃんはさっぱりしていて清々しいくらい。
「美奈、全然会ってないんでしょ?」
「いや、気まずいし。はるかさんとせつなさんは頻繁に会っているみたいだけど」
「あぁ、そっか。美奈と会ったって仕方ないものね」
「うん、2人に任せてる」
レイちゃんは距離を置いた今でも、もちろんみちるさんが好きで好きで仕方がない。
その好きを大切にしている。
傍にいたいと思っても、いることで互いに傷つけ合う結果しか生まないから。
2人の関係は、愛を違う角度から見直さなければならない。
「レイちゃん、良い顔付きになったね」
「美奈のおかげかもね」
「そうかな?」
「あのまま、みちるさんが誰かを愛していることを知らないフリして傍にいるよりは、少し離れて愛している方がずっと気が楽だもの。あのときは、どんなことがあっても傍にいられたらいいって思ってたけど。みちるさんも辛かったはずだから」
この3か月、レイちゃんは週に1度、2週間に1度とみちるさんと会う頻度を減らして、今は1ヶ月以上会っていない。
「そっか。はるかさんたちから聞いたけれど、みちるさんも一生懸命レイちゃんのことを想っているみたい」
「そう。明日会ったときにね、みちるさんからコロニスの話を聞かせてもらうことになっているの。その人がどんな人だったか、どんな風に愛し合っていたか。私の姉だったのだから、私をどんな風に可愛がってくれていたのか、とかもね」
レイちゃんは強い人。
みちるさんもまた、思った以上に強い人なんだなって思う。
前世をちゃんと飲みこんで、秘密を秘密じゃなくして、かつて愛していた人を、今愛してくれている人に話せるくらいなら、もしかしたら2人はちゃんと恋愛が出来るかも知れない。
「レイちゃんに話すことで、みちるさんも何かが変わるかもしれないわね」
「本人も言ってる。隠さずに最初から言っておいてもよかったことかもって。私が前世の記憶を持っていないことを、みちるさんは辛いことだと思っていたみたい。私はたぶん、知らないから興味があるし、それが自分のことだと受け止めないから、気が楽なのよ。美奈は前世の記憶はあった方がいいと思う?」
狂おしいほどにマーズを愛していた。マーズから愛されていた。
その記憶が一切なかったとして、美奈子はレイちゃんを好きになっただろうか。
「あってもなくても、私は私だし。過去は変えられないわ」
今目の前にいるレイちゃんが好き。
記憶がなかったとしても、やっぱりレイちゃんを好きになっていたと信じている。
自分は前世とは切り離しているって、自分に言い聞かせていたかったのかもしれない。
「あんたらしいわね」
「うん、まぁね。ヴィーナスとマーズがどういう関係だったかなんてことじゃなくて、私はレイちゃんだけが好きなわけだし」
レイちゃんは、みちるさんと会わない間に司令室で前世のデーターを一通りすべて読み漁ってしまった。恋愛関係などはもちろんデーターにして残していなかったけれど、前世の自分がどういう人物だったのか、美奈子に細かく聞いてきた。
それに対して、美奈子はすべて正直に答えた。ネプチューンとコロニスが深く愛し合っていた以上に、ヴィーナスとマーズは愛し合っていたことを。
レイちゃんはちょっと意外な顔をしていたけれど、だからと言って美奈子をそう言う目で見たりしていなかった。みちるさんと大違い。
前世の記憶なんて、あるだけ損だって。
「ありがとう、美奈。私は記憶がなくてよかったわ」
「何よそれ。告白してもないのに振るわけ?」
「ううん、そうじゃなくて。私は火野レイだもの。レイという人間だけを見ていてほしい。マーズは私じゃない、別の人よ。別の人と前世の美奈じゃない人がどういう関係だったかなんて、隣に座っているカップルを見ているようなものだもの」
レイちゃんが言ったことを、みちるさんは今、自分の中で整理している最中。
みちるさんが苦しいことを、理解できないわけじゃない。
いっそみんなの記憶がなくなってしまえばいいって思うことがある。
「そうだよね。みちるさんも、きっとそう思える日が来るわよ」
「そうね。信じてる」

前世から惹かれあい、愛し合い、その記憶を抱いて、現世でも結ばれたうさぎちゃんと衛さん
前世で深く愛し合う記憶を抱き、現世にいないその愛する人の幻想に苦しむみちるさん
前世で深く愛し合っても、その記憶を失ったレイちゃんを愛する美奈子
前世でヴィーナスを愛しても、その記憶を持たずにみちるさんを深く愛しているレイちゃん

前世の記憶があることが不幸なことではない
人を愛するなんていうことは、そもそも苦しいことなのだから

過去の愛なんてものは、散ってしまうもの
儚きひと時だったと、枯れた愛を握りつぶして、散らしてしまえばいい
散った愛をかき集めても、それは心を温かくさせてはくれない

「信じるってさ、愛しているということよりも大変なことだって思う。愛は投げっぱなしだもの。自分の都合にいいものだけを人は愛って呼ぶの。欲しいものも与えるものも、結局は皆、自分の都合だものね。信じるって言うことが、愛を超えることなんじゃない?それだけ、みちるさんはレイちゃんに想われているんだって、いつか伝わるといいわね」

秋が来て、冬が来て

その頃になれば、みちるさんも愛の亡骸を手放して、新しい蕾を愛でる勇気を持つことができていればいいのに。





「時々、コロニスはマーズを連れてトリトンに来ていたの。あの人はマーズを溺愛していて、マーズのことばかり話していたわ。ネプチューンはいつもそれに嫉妬していたの」
「マーズは幸せ者だったのね」
みちるはレイに話して聞かせるために、“私が”と言わずに必ず“ネプチューン”というようにしていた。もちろん過去の“マーズ”のことを“レイ”とも言わない。
「えぇ。コロニスは世界中でマーズが一番大切だって言っていたわ。そう言うところも含めて、ネプチューンはコロニスが好きだったのね」
「優しい人だったのね」
「強くて、優しい人だったわ」
久しぶりに会ったレイは、少し痩せたように感じたけれど、1か月前よりも元気そうな笑顔を見せてくれて、ホッとした。
コロニスの存在を絶対にレイに知られてはならないと思っていた頃を考えると、こうやって話をしている自分が思いのほか苦しくないことに呆れてしまう。
はるかたちの提案とレイが望んだこともあり、少し距離を置くことになったときは、レイを苦しめた罪悪感で世界から消えてしまいたいと思ってばかりだった。
コロニスの名を声に出すと、それが過去のことだと思い知らされる。
そして、それは海王みちるに起こったことではないのだと知る。
レイは生まれた時から一人っ子で生きて来たのだから、コロニスの存在を聞かせたところで、所詮それは他人のことなのだ。


愛は散って

夢は醒めた

「もし、コロニスが目の前に現れたら、どうする?」
レイはさらりと質問をしてきた。みちるは言われたことをそのまま想像してみた。
「……そうね。びっくりして、レイを呼ぶかしら。あなたに会わせたいって思うもの」

はるか遠い昔、マーズを深く愛した人よ、と。



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Date:2014/07/12
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