【緋彩の瞳】 希い(ねがい) ⑤

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

希い(ねがい) ⑤

「土曜日、ありがとう。とても楽しかったわ」
遅刻ギリギリセーフの美奈子とうさぎは、まこちゃんとレイ…じゃなくて、緋彩ちゃんに苦笑いされていつもの学校生活がスタートする。そんな学校生活にも慣れてきた。
「そう。よかったわ。こっちもうさぎが強引に誘ってごめんね」
「いえ。でも、みちるさんのお料理を食べさせてもらって、ちょっと嬉しかったわ。お部屋にも上がらせてもらったもの」
「あぁ。みちるさんのファンだもんね、緋彩ちゃん」
授業と授業の間に緋彩ちゃんと話をすると、結構、みちるさんのファンであるということがよくわかって来た。
「私、あの人のヴァイオリンが好きなの。柔らかいのに繊細な音が心に染みてくる。アメリカから帰ってきて、一番の楽しみはコンサートに行くことだったけれど、まさか近くにいるなんて思わなかったわ」
「は、ははは。レ……緋彩ちゃんも物好きだね」
みちるさんの才能うんぬんは正直わからない。それにしても、彼女はレイちゃんと違って、好きという気持ちに対してはオープンでわかりやすい。
単なるファンで済めばいいと心の奥で思いながら。
「押し掛けたてしまったし、お礼をしないといけないわ。また、お会いすることがあるなら、付いていってもいいかしら?」
「クラウン?うん、わかった」
鉢合わせを避けられないだろうな、なんて思いつつ。レイちゃんが来なくなるんじゃないかなという不安もありながら、美奈子は純真無垢な笑みに対して、同じような笑みで答えてしまった。


水曜日、いつものようにクラウンにいくと珍しくみちるさんが一番乗りをしていた。レイちゃんはいない。
「こんち。レイちゃんは?」
美奈子は緋彩ちゃんと亜美ちゃん、まこちゃんをひきつれて、いつもの場所に腰を下ろした。
「え?レイは後ろに……あ、ごめんなさい。人違いね。レイはちょっと遅れるってメールがあったわ」
みちるさんはまだ慣れていないのか、緋彩ちゃんを見て、美奈子がトンチンカンな事を聞いているような顔をしている。十番高校組も、名前を呼び間違えることをまだまだやってしまうのだから、みちるさんは無理もない。
「こんにちは、みちるさん。緋彩です」
「緋彩ちゃんだったわね、ごめんなさい」
「いいえ」
いつもレイちゃんが座るみちるさんの隣。みちるさんはもちろんレイちゃんが座るから空席にしているのだけれど、空いた席を埋める自然な流れで、緋彩ちゃんはそこに腰をおろしてしまった。
あっ!って思ったのは美奈子だけだ。不自然にみんなが偏ってソファーに座るのも、確かに変だし。
「先日は急に押し掛けてしまって、申し訳ありませんでした」
「いいのよ」
「素敵な誕生日になって、本当にうれしかったです」
「そう?うさぎたちと知り合えてよかったわね」
そうそう、確かにレイちゃんが心底うれしそうな顔をすると、こんな風だったわね、なんて美奈子は表情を見ながら思った。まぁ、口数少ないレイちゃんがこんな風に笑うのは、みんなで旅行に行ってはしゃぎまくっている時くらい。たぶん、本当に1人残らず気を許している間柄でしか、レイちゃんは本性を見せない。1人でも知らない人がいると、とたんスイッチが入ってしまうから。
「………あ~…」
レイちゃんの満面の笑みを見られるのは、当分先になりそう。はるかさんと一緒に現れたレイちゃんはみちるさんの隣にいる緋彩ちゃんを遠目で確認した瞬間に、ものすごい険しい顔をしている。立ち止まったお姫様を頑張ってここまで連れて来てくれたはるかさんも、いい顔はしていない。
「レイ」
「ごきげんよう、みちるさん。本当、あのときはごめんなさい」
「いいわよ。たっぷり寝顔を描かせてもらったわ」
「………見せられた時はぞっとしたわ」
レイちゃんは緋彩ちゃんとの対面だけは何としてでも避けたいと美奈子を睨んでいるので、一度立ち上がってレイちゃんとはるかさんを奥に座ってもらうようにした。
みちるさんの向かいになったレイちゃんは、それでも視界に2人が並んで入るのは我慢ならないと言った様子。
「大事に飾っておこうかしら?」
「やめてよ。酔ってまったく記憶がないうえに、寝顔まで描かれたんじゃたまらないわ」
あの日、レイちゃんはベロベロになってみちるさんのマンションに泊まった。そりゃまぁ、レイちゃんはラッキーなんだろうけれど、だいたいの記憶がすこんとないらしい。
「みちるさん、絵を描かれるんですか?」
「少しね。ちょっとした気分転換よ」
みちるさんは気持ちを知ってか知らずか、レイちゃんを描くことが一番多いみたい。みんなを一通り描いてみて、レイちゃんが一番描きたいと想わせる題材なんだとか。
そういうわけでレイちゃんは、たまにみちるさんのモデルを引きうけている。
「パステルですか?油絵ですか?」
「パステルが多いかしら。鉛筆画も好きなのだけれど。緋彩ちゃんも絵を描くの?」
「はい。ずっと絵の勉強をアメリカでしていました。あ、でもアメリカには父の仕事で行ったので才能があるとかじゃなくて、趣味なんです」
「あらそうなの」
初耳。そう言えば、帰国子女らしいということを初日に聞いていたのに、あまりにレイちゃんそっくりのインパクトのせいで、向こうで何をしていたかとか、本人のことをあまりちゃんと聞いていなかった。
「私は油絵が好きなんですよ」
「そうなの。今度、是非見せてね」
「はい。みちるさんの絵も、是非見せてください」
「私のは下手だから、お見せするほどじゃないわよ」
みちるさんは微笑んで、社交辞令のように言ってるけれど、緋彩ちゃんは心から嬉しそうに笑っている。
レイちゃんの周りだけどんより曇り空。ドンマイ、レイちゃん。
大丈夫、みちるさんはレイちゃんばっかりモデルに選んでるんだから、って心の中で思ったけれど、同じ外見の緋彩ちゃんも、もちろんモデルとして適任であることに違いはない。
何にも起きませんようにって、心の中で手を合わせた。
帰る方向がもちろん同じ2人は、当然のようにわかれ道で2人きりになるのだろう。はるかさんがいくら隣のマンションだからと言っても、部屋の前まで付いて行くわけじゃないのだから。
美奈子がレイちゃんの立場なら、一体どうするだろう。考えてみたけれど、レイちゃんのように黙ってなどいない性分なわけで、考えるだけ無駄だ。
専門的なことを語る2人の間になど、誰も割って入れはしない。緋彩ちゃんをここに連れてくると、あまりいいことはないかも。想いながら美奈子は、空になってるクリームソーダのストローで何度も空気を飲みほした。



私とあなたは2人で1つの存在だった

誰にも知られてはならない
半神だった

永久にあなたは忘れてしまったのでしょうか
忘れないと誓ったことも
彼方に追いやったというのでしょうか

私はただ
待ちわびている


ここで嘆き続けている

待ち焦がれ
待ちかねて
待ちきれなくて
希って






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Date:2014/07/22
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