【緋彩の瞳】 希い(ねがい) ⑨

緋彩の瞳

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ポイ捨て小説

希い(ねがい) ⑨

「…………おい」
眠らずに煙草を一晩で1ケース吸い、朝方になり気持ちの悪さから嘔吐をした。這うように学校に行けば、顔色の悪さから早退をすすめられたが、意地になって全ての授業を受けた。放課後の最後の拷問が待っているし、それは約束をした以上は出なければならない。
逃げてしまえば楽になれるかもしれないけれど、事実を変えることができない以上、何をしても同じだと思えた。
「何?」
「なんだ、その顔は」
「何が?」
「レイ……鏡見たか?」
しばらく顔を出していないクラウンにちゃんと来るか心配だったのか、はるかさんが学校の近くで待ち伏せをしていた。学校に来るなとは言ったけれど、そう遠くない場所で、やっていることは変わらない。
「鏡?そんなもの見ないわよ」
怖い。鏡の向こうの自分が、嫉妬に狂った目をしているのではないか。同じ顔の緋彩のことを考えることが1秒でもあるなんて嫌でしかたがない。顔にみちるさんが好きだと描いているような気がして怖い。
鏡が怖い。
「ひどい顔色じゃないか?どうしたんだ。体調が悪いんだろう?」
「悪くないわよ」
「いや、帰った方がいいよ。そんな顔色していたら、みんな心配するよ」
「悪くないってば」
食欲なんて1ミリも生まれるわけもなく。
ただ、ちょっと血圧が低いだけよ。レイはそう言ってそのまま足をクラウンに運んだ。はるかさんが引きとめるように腕を掴むけれど、振り落とすように嫌がる仕草を見せる。
「どうした。何があった?」
「何もないわ」
「…………そうか。無理するな。嫌だと思えば帰ればいいから」
優しい人ね、と思う。強引なことはしないし、すればするほど火に油を注ぐことをわかっているのだろう。クラウンの階段を上る途中に、この階段が100段ぐらいあればいいのにって思った。先延ばしにしたいなんて、いまさらなことを。



「……………嘘」
美奈子は放課後のクラウンに緋彩ちゃんを誘わなかった。うさぎたちにも誘うなと告げ、今日は何もないと学校で解散をして、集まろうと言う話になっていた。だから、なぜ彼女がここにいるのか、なぜみちるさんと現れたのかがわからなかった。はるかさんも固まっている。レイちゃんがいつも座っていた席に座り、少し頬をピンクにしてみちるさんを見つめているのは、レイちゃんではなくて緋彩ちゃんだ。初対面のせつなさんは何度かレイと見比べて、何も言わずに黙っていた。
「私のわがままを、みちるさんが真摯に受け止めてくれて。レイさんとあまりに似すぎているから、いろんな人に迷惑がかかることも悩んだのだけれど、レイさんも祝福してくれるって言うから」

嘘だ!

ソファーの端で目を伏せて何事もないようにうつむいているレイちゃんを見た。
はるかさんも、レイちゃんを睨むようにしている。

どうして嫌だって言わないの!
どうして我儘を言わないの!
我儘を言っていい権利があるのは、レイちゃんだけなんだよ!

みちるさんに恋人ができたことを祝福しないわけじゃない。
だけど、レイちゃんがあんな顔色の悪さをこらえながら、何事もないような風を装いながら、じっと耐えている姿だって見たいと思わない。

髪を切って
想いを切って
そんな風に割り切って

レイちゃんの心が切り刻まれたのを、黙って見ているしかできないなんて
仲間の幸せが仲間の苦痛の上に成り立っているなんて

「そっか!だって緋彩ちゃんはみちるさんのこと、好きっていつも言っていたもんね」
「ありがとう、うさぎちゃん」
「よかったよ。なんかレイちゃんがみちるさんと付き合うみたいで。ずっと前からお似合いだったからさ、そうなればいいのにって思っていたんだけど、緋彩ちゃんが相手だったんだね」
うさぎはうさぎで、そんなことを漠然と思っていたみたいだ。もっと周りが囃したてたりしていれば、強引にでもくっつけていれば。レイちゃんは嫌がりながらもそのアシストを受け入れていたかもしれない。
今さら何を悔やむことがあるのだろうか。
「実はね、みんなにここで打ち明ける前に昨日、レイにだけ先に報告をしていたの。誰よりも一番レイのことが気になっていたから」
「……まったくもって気にすることはないわ。みちるさんが幸せだと思うことは、誰の許しを乞うものでもないのだから」
美奈子は泣きたくなった。
レイちゃんがどこまでもみちるさんのことが好きなんだと、胸に突き刺さってきて痛い。
みちるさんが幸せであるのなら、レイちゃんは何でも受け入れるのだろう。自分と瓜二つの人がパートナーに選ばれ、自分が選ばれなくても、それに対して嫌だと言えない弱さが切なくて。
「どうしたの、美奈P?」
「なんでもない。いや、なんかさ、へ、平和な世界になったなって…思っただけだよ」
「そうだね」
レイちゃんは、みちるさんの生きている世界を守るために戦っていたんだと思う。聞いたことはないけれど、レイちゃんは多分、それくらいみちるさんのことが好きだ。
人を想う強さが痛いほど眩しい光になって、まっすぐと突き刺さったことなど今までに経験としてはない。うさぎと衛さんの前世からの結びつきの愛でさえ、レイちゃんの捧げる愛の光には敵わない。


片想いだからこそ
無垢の硝子のように光っていた


レイちゃんは誰とも目を合わせようとせず、飲み物にも口を付けずに、社交辞令的なことを言ってのけて、具合の悪そうな顔色について、誰にも何も言わせないというようなオーラを放ち、クラウンから姿を消した。

たぶん、二度とこの場所には来ないだろう。
来ない方がいい。
来て、壊れてしまうのなら、レイちゃんはレイちゃん自身を守っていた方がいいんだ。
人の恋心だけは、何ものにも代えられないし侵すことができない。
“死んでしまうかもしれない”
はるかさんの言葉を思い出した。
レイちゃんは失恋くらいで死にはしないだろう。
だけど、その相手が自分と双子以上に似ている人だったらどうだろう。
ある日突然現れた、自分の分身みたいな人に、好きで好きで仕方がない人を奪われたら。



昨日の夜に会った時と打って変わって、ひどく体調が悪そうだった。何かあったのかと聞きたかったけれど、何も聞いてはいけないようなオーラを感じた。祝福の言葉も言われたけれど、どうにも少し引っ掛かりを覚える。それでも嬉しそうな顔の緋彩がそばにいて、ほっとしている自分がいる。
心に何か引っ掛かるのはなぜなのかしら。でも、緋彩の純粋な気持ちを受け入れることを選んだのはみちる自身だ。レイが嫌だと言えば、多分昨日の夜まで引き延ばした返事で、断ることを選んでいただろう。それでも構わないと思った。多少傷ついたかもしれないが、レイに嫌だと思われてまで、緋彩と付き合う理由もないし、緋彩と一生を添い遂げるなど考えているわけでもない。
「みちる」
足早にクラウンを去ったレイと追いかけるはるか。
美奈子たちもみちるに手を振って帰って行った。
「何、せつな」
「少しだけいいかしら?」
「えぇ。緋彩、先に行ってて」
「わかったわ」
緋彩を先に見送ったみちるは、仲間たちが去って2人では少々広くなったソファーに対になって腰を下ろした。
「まずはおめでとう」
「……ありがとう」
あまり祝福されていないわね、とすぐに思った。せつなはみんながおめでとうと声を上げる中、一言も最後まで何も言わなかった。
「あなたより、この世界を少し長く生きている者として。私は別にあなたに嫌われても構わないと思うから、言いたいことは言っておくわ」
「……せつなを嫌うなんてことは、何があってもないわ」
「そう?」
せつなは遠慮して吸っていなかった煙草を鞄から取り出して、灰皿を引きよせた。
「私は言うほど祝福するつもりではないわ」
「……そうみたいね」
「あなたのためよ」
火を付けて煙が肺に引き寄せられ、やがて白く2人の間の空気を濁した。
「なぜ?」
「それは自分で考えた方がいいと思うわ。他人が口をはさむより、自分で経験して学ばなければ、成長しないこともあるでしょうから」
「……せつな」
それじゃぁわからない。緋彩がだめなのか、それとも今のタイミングがだめなのか、みちる自身に問題があるのか。
「だからと言って、見捨てるわけじゃないわ。どうしようもないと思ったら、ちゃんと言うわよ」
「緋彩は純粋でわかりやすくていい子よ。趣味も合うし、まっすぐ私を見てくれるわ」
「そう。よかったわね」
よかったなんて、思っていそうにない言葉だけど。せつなは煙を逃がしながら、窓の外に視線を逃がした。
「私はね、うさぎと同じ意見なのよ」
「うさぎと?」
「えぇ。レイがどう思っているかなんて聞いてもいないし、知らないけれど。なんとなく、みちる、あなたがレイを選ぶであろうと…勝手な想像をしていたわ」
「私が?レイを?」
考えたことはなかった。確かに、スケッチブックの中は誰よりもレイが多い。もちろん緋彩と知り合ってから、緋彩を描くことは増えたけれど、それでも付き合いの長いレイの絵は全ての季節を描き、レイの貴重な笑みをずいぶんと描いてきた。
興味のある対象だから、レイを描いていた。ただ、それだけのはず。
「人は人に指摘されなければ気づかないこともたくさんあるわ。自分で気づかない以上、誰かがお節介を焼かなければいけないこともあるでしょう。口を出してはいけないこともあるでしょうしね。でも、みちる。あなたは自発的に愛する人を選ぶべきだと思うわ」
レイと似ているから、緋彩を選んだわけじゃない。緋彩が緋彩だから。例え容姿が全然違ったとしても、緋彩を選んでいた。そう思いたい。
「だから、緋彩を選んだわ」
レイに似ているから緋彩を選んだわけじゃない。
レイが好きな気持ちを緋彩にすり替えたなんてことはない。
「そうね。えぇ、あなたがそう言い切るのなら、それが正しいのでしょう」
「第一……レイが私を選ぶとも思えないわ」
あのしなやかな髪と、まっすぐな瞳。強い意志を宿した瞳。時々見せる子供のような笑み。弱いところを見せず、強くあろうと自分を律し、いつでもピンと背筋を伸ばしている。仲間のために犠牲になることを誇りに思っているような、儚く繊細で脆い心の持ち主。
「問題をすり替えてはだめよ、みちる。誰もレイと付き合いなさいなんて言っていないわよ」
「そうよね」
「あなたが自分を幸せにするために、正しいと想うことをなさい。と言っても、レイにも同じ言葉を言ってやらなければ駄目でしょうね」
「レイにも?」
レイ。
あの顔色の悪さ、やっぱり何かあったのだろう。せつなは理由を知っているのかもしれない。
「えぇ。あの顔色といい…香水でごまかしているみたいだけど、吸っているわね。前に1本渡した時に、手馴れた感じで吸っていたから、前世の頃からの名残かしらって思っていたけれど、もしかしたら。でも、3か月前には全く感じなかったわ」
レイと2人でいた時も、今まで煙草の匂いを感じたことがない。前のあれは見逃しても構わない、お遊びじゃなかったとでも言うのだろうか。せつながきっかけを与えたわけじゃないとでも言うのだろうか。
「レイ、何かに悩んでいるのは確かよ。ずっと水曜日も来なかったし。髪も切っちゃって。でも、あまり詳しく聞けないの。教えてくれないし。はるかとかに言っているのかもしれないし、私じゃ役に立てないと思って」
「そうでしょうね。髪を切った理由は単純明快よ」
「そうなの?邪魔っていう理由は本当なの?」
「……えぇ。いろんな意味で邪魔なのよ」
せつなの言ういろんな意味は、もしかしたら緋彩のことかもしれない。髪を切ったせいで誰も間違わなくなった。十番高校ではもはや緋彩が本物という扱いを受けているようで、学校の人気者になっているようだし。
「御忠告ありがとう。でも、何もかもが始まったばかりだから。考えながら、ゆっくりと緋彩と向き合うわ。もちろん、レイにも」
「レイを頼むわね。あなたに任せるわ」
「えぇ」
せつなによく思われていないのに、この恋愛を進めることが正しいのかわからない。
だけど、目の前の緋彩の眩い笑みが、心を洗ってくれるような気になるのは本当なのだ。

好きだと声に出されて
嬉しいと感じた気持ちに素直に従っただけ。





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Date:2014/07/23
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