【緋彩の瞳】 希い(ねがい) ⑲

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

希い(ねがい) ⑲

この身体には前世などない
そして未来もない
ただ、今だけを存在し続けている

必ず戻ると言う言葉だけを生きる望みにしていた
何があろうとも、その命を守り続けると誓った
純潔を捧げた



この身体を廻る血は彼女のために存在していて、愛と言うものがあるのだとすれば、それは即ちマーズだけに捧げるべきものだと。
愛が生きる証明であり、例え2人が死を迎えたとしても、恒久に絶えることはないのだと。
「……この身体が死んで、魂が抜けてしまえば、その魂は私の元へ返ってくるの……」
マーズは、火野レイの姿の愛しい人は、意識を失ったままだった。
腹部から滴るように流れていた血が、破れた制服を汚している。
「マーズ様の魂は、またどこかへ旅をして、そして地球の人間としてもう一度生まれ変わるでしょう」
「……この星に戻っては来ないと言うの?」
「プリンセス・セレニティをお守りすることが、プリンセス・マーズの使命ですから。プリンセス・セレニティのお傍にまた、彼女は戻るでしょう」

約束を守る人だったのに
必ずここへ戻ると、そう、彼女は確かに囁いたと言うのに
ただ、待ち焦がれた


愛はどこへ行くと言うの


コロニスは制服を引きちぎり、傷に唇を寄せた。血が止まり痩せこけている肋骨がうっすら見えるその素肌に頬を寄せる。
「……マーズ」





マーズ





「コロニス」
マーズが名前を呼ぶ。
命が存在した瞬間から、彼女を守り、彼女を愛し、彼女のために全てを投げ出すことが本能とされていた。コロニスを作り出す何もかもは、マーズだけのためにあった。
「マーズ」
額に触れた口づけが身体を清める。絶えない傷の痛みも、それだけで消えてなくなるような気がした。
「外が騒がしいわ」
「……私が行きます。マーズは下がっていてください」
「お願い」
せっかく久しぶりにコロニス星にマーズが来てくれたと言うのに。一夜が明けるより早く、妖魔が星の強さを求めてここまでやって来たとは。
マーズの持つ力は銀河最強らしいと言ったのは誰なのだろう。確かに彼女は強いけれど、彼女もコロニスも銀河にいる他のセーラー戦士がどれほど強いのかも知らないし、力の甲乙などに興味もない。ただ、剣術も呪術も炎を操る能力も、邪悪な存在のヤツからしたら、のどから手が出るほど欲しいと言うことはわかる。
「ごめんね、コロニス」
「ありがとう、って言ってもらわないと困ります」
「……そうね」

コロニスの使命は彼女をお守りすること。生まれた時から決まっている。
髪の色が少し違えども、マーズと姿かたち何もかもが双子以上に似ている。声も背丈も。
マーズの影武者になり、マーズの持つ剣を使い、星を守る。伝え伝わるマーズ最強の伝説はほとんどがコロニスの戦いのせいかもしれない。
マーズはいつも辛そうな顔をして、コロニスを送り出す。マーズを狙う邪悪なものを倒すことは、コロニスの存在意義だと言うのに。それをいつも“ごめんね”と言う。
コロニスはいつも微笑んで、悲しまないでと祈りを込めて頬に口づけをする。
優しい人だから。その優しさが弱さにならないように。
コロニスが強くなければならない。





「データには何も残ってないわ」
「セーラーコロニスって言っていたわ。フォボスとディモスは彼女に頭を下げていた。あの星の、マーズの星の関係者に違いない」
指令室に戻り、亜美ちゃんはできる限りの情報を集めてくれたけれど、レイちゃん自身のデータはずっと前、レイちゃんの手で真っ二つにされていた。だから、調べたくても調べられないことが多すぎる。
「でも一体どういうことなの?緋彩は……どうして……」
亜美ちゃんがあの時の会話を録音していたから、みんなで何度もその言葉を聞いた。レイちゃんと聞き分けられないほど、レイちゃんの声そのものだ。
「本人に聞くしかないだろう。だけど……みちるに近づいた目的は、レイを貶めるためじゃないのか?」
「…………半年も私は気付かないで、傍にいたと言うの?星のオーラなんてなかったのに」
みちるさんもまた、状況が込みこめていない。一番混乱しているのは間違いなくみちるさんだろう。愛していると言われ、身体を重ね、レイちゃんを傷つけた挙句、その全てが偽りだった。
「それを言うなら、毎日同じ教室で授業を受けていた私たちの方が愚かよ。私だって何も感じなかった。さっきのあの瞬間まで、緋彩ちゃんが何者なのか、疑うことさえなかった」
彼女は、セーラーコロニスと名乗る彼女は、マーズを愛していると言っていた。
愛する人を陥れるために、マーズの好きな人を奪い、心からみちるさんを消してしまおうとしていた。自分が愛していると言うことを告げるのではなく、とても卑劣なやり方で。レイちゃんが愛するものをすべて奪おうとしていた。美奈子たちもまた、その彼女の操り糸に絡まっていたのだろう。何もなかったように緋彩ちゃんを受け入れ、レイちゃんを孤立させていった。
レイちゃんから愛する者を奪うことは、愛することの証明にはならないのに。
セーラーコロニスは、マーズに何を望んでいるのだろう。
「そうね。容姿がレイである以上、疑うなんて行動に出ないのは、いたしかたなかったのでしょう」
「……せつなさん。日本に戻ってたんだ」
招集の合図に応えていなかったから、せつなさんはまだ海外にいるんだと思っていた。指令室にやって来たせつなさんは、亜美ちゃんがカタカタと鳴らしているコンソールを無駄と言いたげに見つめたあと、うなだれているみちるさんの肩に手を置いた。
「みちる」
「せつな……。ごめんなさい、私が…レイを…」
みちるさんはずっと耐えていたのか、せつなさんの優しい声に小さく肩を震わせた。
「そうね、私はあなたにレイを任せると言ったわ」
「………ごめんなさい……私のせいで」
「みちるは確かに間違えていたけれど、ちゃんと自分の気持ちに気がついたのでしょう?この問題とは関係のないことよ」
「でも…私が緋彩の手を取らなければ………」
せつなさんは首を振った。セーラーコロニスが何者なのか知っているのかもしれない。
「コロニスはマーズを取り戻すために、この星に降り立ったのでしょう。あのお方はマーズのためだけに存在する戦士。ひたむきにマーズを愛し、マーズを守り、命を捧げた戦士です」
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Date:2014/08/04
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