【緋彩の瞳】 希い(ねがい) ⑳

緋彩の瞳

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ポイ捨て小説

希い(ねがい) ⑳

それは、シルバー・ミレニアムに四守護神たちが召喚されるよりも、ずっと前から続くたったひとつの無垢な愛。





「フォボス。敵の数は?」
「およそ300体。妖魔の気配だけで、操っているヤツは姿が見えません」
部下はコロニスの後を付いてくる。コロニスは待っていたディモスからマーズの剣を受け取った。マーズと同じ色の戦闘服を身に纏い、力を込めると剣は炎に包まれる。
「マーズが欲しいと願うのなら、私の屍を越えなさい」
火星を取り囲む回廊はいつも、邪悪な気配にみちている。強い星の光は、それを求める闇を呼ぶ。それでもなお、光り輝かなければならないのは、銀河の治安を維持するうえで、彼女の強さはなくてはならないからだ。生まれて間もないころから、その強さを我がものにしようと、数えきれないほど殺されそうになって来た。そのほとんどをコロニスが受けた。
マーズの悲しそうな瞳に見つめられるたびに、コロニスは頬にキスを落とす。コロニスが生きる理由はマーズだけがもちえている。彼女を悲しませることなど、あってはならない。
「マーズ・スネイク・ファイヤー!」
剣を振り下ろす、その一振りで10体以上の妖魔が焼き尽くされた。辺り一面の火の海を、ヒールを鳴らしながら走る。フォボスとディモスが加勢をして、次々と妖魔を焼き尽くす。
妖魔の使い手の気配はない。遠くから覗いては早々にあきらめたのだろう。強さを見せつければまた、敵はさらに強い妖魔を生み出すかもしれない。
それでも、戦わないという選択肢はこの魂には存在しなかった。






「お目覚めですか?」
「……………ここ…は…」
「記憶にありませんか?あなたが好きだとおっしゃっていた、コロニス星です」
レイは朦朧とする意識を何とかはっきりさせようと、小さく首を振った。自分が寝かされているのか、吊らされているのか、どういう状態なのかがわからない。
腹部に鈍い痛みが襲う。重力を感じるということは、何かに縛り付けられているのかもしれない。自分の意思で立っているという感覚がちゃんとつかめない。両腕を動かせないのは、後ろ手に縛られているせい。後ろ手にされて、手首はがっちりとくくりつけられているようだ。
「………あなたは誰なの…?」
レイを突然襲った攻撃は、視線で追うことなどできなかった。避けるという本能よりも速く倒された。自分がずいぶんと弱くなったのだと、無様が招いた結果ではあったが、レイが狙われる理由がわからない。みちるさんが欲しいのならば、すぐにレイを殺せばいいのに。
レイをマーズと呼ぶ彼女
なぜ、彼女が火野レイそのものの姿なのか。
そして、セーラーコスチュームのようなものを身に纏っているのはなぜなのか。
「マーズ。私です」
「………誰」
「…………私です」
「……わからないわ。その姿は私をコピーしたの?」
また、彼女は涙を流す。

清らかだ、と思えた
とても綺麗で清らかな涙

「本当に…何も…」
「緋彩…」
「その名は真名ではないと、申したでしょう。私の名はコロニスです。お願いです、マーズ。私のことを忘れないと、必ず戻ると、あなたが私にそう言ったことを、思い………思い出してください」

何を忘れているのだろう
何か大切なことなのだろうか
なぜ彼女は悲しそうにレイを見つめてくるのだろう
みちるさんのことで、レイの前に現れたのではなかったのか
いや、違う

マーズと呼ぶ

レイに向かってマーズと呼んだ。

あの時、緋彩が言った言葉は、みちるさんを愛しているというようなことではなかった。


「………私の前世を、あなたは知っているの?」
「私には過去も未来もありません。私はずっとずっと“今”なのです」
「………私はほとんど何も覚えていないの。月の王国のこと、前世の私自身のこと」
記憶の断片をつなぎ合わせても、マーズが双子だったなんていう記憶はひとかけらも存在していない。

クイーンの姿
煙草を吸っていた自分の指先
王国の崩壊してゆく様

その欠片たちに、もう1人自分と同じ姿の人間など存在していない。
「ならば、どうしてマーズの魂を持ったまま、地球に生まれたのですか?私を愛してくださるマーズを、私の愛しいマーズを返してください」
「…………緋彩」
戦うために生まれたと言うのなら、この命の意義などない。火野レイとして生まれ落ち、生きて行く上で、レイにとっては、マーズという前世の記憶など無駄なものなのだろう。美奈やせつなさんたちにある前世の記憶を持っていなくても、生きている価値は存在していると信じている。確かに強い結びつきがあり、それを背負って生まれてきた。
その運命に縋りついたのはレイであり、マーズだ。
ならば、彼女が前世の頃に何かしら関係があったのならば、やはりレイが責任を負わなければならないのだろうか。
多くの罪を背負ったであろう前世の続きを、生きなければならなないのだろうか。



「あなたは私の半神でした」


「双子だったの?」
「いいえ。フォボスとディモスのような関係ではありません。本当に、本当にわからないのですね?」
フォボスとディモスを知っている。さっきから2人の気配を感じるのに、彼女たちはレイを助けようとしない。できないのか、しようとしないのか、彼女たちはどんなことがあっても、レイを守るはずなのに。緋彩が2人を操っているのか。
「…何もわからないわ………」
「ひどい人です、マーズ。愛していると、…私に愛していると言ってくださったお言葉も、必ず戻ると言う約束も、私は幾千億の夜を迎えても、信じて…待ち焦がれていたと言うのに」

かつて、愛しているという言葉を口にしたことがあるという
みちるさんに言えなかった言葉を
かつてのマーズは、自分と同じ姿のコロニスと言う人に




『愛するコロニス。私の姿が鏡に映し出されるとき、私はあなたを想い出すのね』


誰かがレイの声でそう囁いた。それは耳を刺すように、記憶を掻きまわすように、ひどい頭痛を呼ぶ囁き。
レイはきつく目を閉じた。痛みから逃げようと頭を振っても、消されないように擦りつけようとする前世の記憶が、頭蓋骨の奥に侵入しようとしてくる。
「………コロ……ニス」
「そうです、マーズ。私の名を呼んでください。あなたとの約束を守り続けた私の名を。あなたが愛する私の名を。あなたを愛している私の名を……」


違う!
レイの愛している人は
レイの想っている人は
レイの心を支配している人は


でも

この苦しさが原因ではない何かが涙を溢れさせてくる

「……み…ち…」

なぜ、レイは泣いているの
なぜ、目の前の火野レイと瓜二つの姿の人は、愛しそうにレイを見つめて泣いているの

愛しているという瞳で
レイを見つめている


愛する人はどこにいるの
レイの愛する人は
マーズが愛した人は……誰なの


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Date:2014/08/05
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