【緋彩の瞳】 希い(ねがい) you were a half of me ④

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

希い(ねがい) you were a half of me ④






振り下ろした聖剣はもちろんコロニスにかすりさえせず、セーラームーンは業火に呆然と立ち尽くしている。




「………レイちゃん」





業火の矢が消えたその向こうに、赤いコスチュームが見えた。ネプチューンを守る様に重なり倒れていたのは、助け出そうとしていたレイちゃんの、セーラーマーズの姿だ。

「みちるさん、大丈夫?」
「……………レイ」

見慣れたコスチュームには短くなった髪は似合わない、なんてヴィーナスは心の中で呟いた。

でも、帰って来た。

火野レイが、美奈子たちの仲間が、一度捨てた変身ペンをまた握ってくれた。
だからヴィーナスにできることは、全員を無事に地球に戻すことだ。





神殿から外へ飛び出すと、仲間たちの姿と、コロニスの後ろ姿が見えた。四方へ散る様に走り出す仲間たちの中に、ネプチューンの姿が見える。
マーズは彼女に向かって走り出した。コロニスが腕を上げ、狙いを定めているのが見えた。
「みちるさん、大丈夫?」
「……………レイ」
ネプチューンに体当たりすると、背中に炎がもたらす熱を感じた。まともに当たったら、身体が焦げて灰になってしまうだろう。
「みちるさん」
どれくらい久しぶりに、みちるさんの名前を呼んだだろう。


忘れようと必死だったのに
忘れたいと希ったのに
忘れさせてくれなかった


「レイ……よかった」
「みちるさん」
瞳を赤く腫らして、じっと“レイ”を見つめるみちるさんの指先が頬に触れた。グローブ越しでもその温かさが素肌に染み渡るような想いがした。
「2人とも、危ない!」
ヴィーナスの叫び声にマーズが振り返る。炎の矢が無数に2人を突き刺そうと向かってくる。マーズはネプチューンを背後に押しやり、両手を広げる。


矢は2人を襲う前に全てが叩き落とされていった。


「フォボス、ディモス」
マーズを守るように立ち、攻撃を全て叩き落とした守護戦士の名を呼んだ。
「マーズ様、これを」
ディモスが両手で抱えて差し出すのは、焔色の剣。
“レイ”はその剣を初めて見たが、“マーズ”はきっと前世でそれを使っていたのだろう。
そう思える。
「………2人とも、覚悟はできたわね」
「「はい」」
もし自分が死ぬことになるほどの戦いになるとしたら、それより先に早く死ぬのはフォボスとディモスだ。

2人と共に、命を落としてもいい

それでも、守らなければならない何かがあるとしたら

今を生きている仲間たちの命以外にない




「そう……何も覚えていないのに、その剣を握るのですね、マーズ」
コロニスはとても悲しそうに笑った。マーズはディモスの差し出した剣の柄を握り締めて、剣を鞘から抜きながらまっすぐコロニスに向かって歩いた。
「コロニス」
「そうやって、私もディモスからその剣を受け取り、戦いへと向かっていました」
寂しそうにほほ笑みながらもコロニスは掌で炎を固めるように、剣を作ってゆく。触れただけで火傷では済まないような怖さがあった。
「………あなたが私を欲しいと思っても、私はあなたのものにはならない」
「どんなことがあっても、想い出してはくださらないのですね。私はマーズが私にくださった愛をただ…待ち続けていただけなのに」
想いだしてあげられたら、彼女を幸せにしてあげられるのだろうか。
それでレイが幸せだと思うのだろうか。
レイはそれを望んでいるのだろうか。
「………コロニスが望むものは…はるか遠い昔に潰えてしまったの。私は前世の記憶を失くしているの」
「それでも!……それでも“失くした”ことは“事実が消えた”ことにはならないわ!マーズを返して!」
コロニスの剣が襲いかかる。マーズは剣を構えてその衝撃を受けた。全身を巡る血が、この戦いで必要な全てのエネルギーを出し切ろうとするように脈を打つ。

事実が消えたわけではない
レイの記憶の一片にも存在しなかったコロニスが、確かにマーズの傍にいて、マーズを守り、マーズのために生きていた

その事実が消えたわけではない

言葉が“レイ”の胸に嘆きを押しあててくる




「全員、2人を取り囲むようにして、炎がこの星を包まないようにシールドを張って」
マーズとコロニスが剣を交えるたびに、激しく炎が燃え上がり、地響きが鳴った。誰も割って入ることのできない交戦を、フォボスとディモスがじっと見守っている。いざとなったら、マーズの楯になるために飛び出すつもりなのかもしれない。
「……レイちゃんが剣を持つ姿…見たくなかったな」

あの頃。

前世のあの頃、平穏な世界が永遠に続くと信じていたあの頃、最期の戦いのときに初めて見たマーズの剣。一振りで多くの相手を切り刻み、燃え上がる炎は刻んだ身体を星砂へと変えていった。
恐ろしく強いと言われていた真の姿が、あまりにも痛々しく見えたのを、今でも鮮明に覚えている。
目で追いかけることもままならない早さで、コロニスもマーズも技を放ち、剣を交え、幾つもの傷を作っていく。コロニスは笑っているように見えた。
まるで楽しんでいるように
この瞬間を望んでいたように
待ち焦がれていたように

マーズの瞳は“前世のマーズ”と同じ鮮やかな“緋彩”
生身の人間が出せる力をはるかに上回るマーズの潜在能力が、生死を分ける戦いで覚醒しているのかもしれない。

その顔を見たかったのだろう。
決して前世を想いだしているわけではないというのに。



待ち焦がれた愛は
相手を殺したいほど深いものなのだろうか






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Date:2014/08/11
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