【緋彩の瞳】 希い(ねがい) you were a half of me ⑤

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

希い(ねがい) you were a half of me ⑤




コロニス星に警報が鳴り響く。
兵士がコロニスのいる玉座の間に逃げ込むように走ってきて、妖魔の奇襲だと伝えてきた。
ようやく痛みがなくなった腕で剣を掴み、慌てて城の外へと向かう。

群がる数万の妖魔。

かつてこれほど多くの妖魔が一度に押し掛けたことはあっただろうか。けたたましく響く警報の中、門を破壊して襲ってくる妖魔たちを切り刻みながら、コロニスは生まれて初めて焦りを感じていた。
奇声を発している中から、“マーズを生け捕りに”と聞こえてくる。
焼き尽くそうと幾つもの炎の矢を放っても、群れの絶対数を減らすには至らない。
「そんな……戴冠式はまだ……」

マーズが月へ向かう船に乗ってから数日、戴冠式が執り行われる日は当日になるまでわからない、と言っていた。そして、その数日の間は特に警戒をして欲しいと言っていた。何かあっても誰からも援護を受けることなく、乗り切らなければならない。コロニスは戴冠式が終わる日までは厳戒態勢を取って、その日を待ちわびるとマーズに伝え、彼女を見送った。
「私は死ぬわけにはいかないの……」
ここ数日は驚くほど平和的な日々だった。
妖魔と戦うことが日課のような場所だったはずなのに、気味が悪いほど静かだった。
静かな星で、1人で呼吸をする音を感じながら、孤独を持て余していた。
奴らはその間に、有象無象を集めて狙いうちを計画していたのだろう。
黒くて邪悪な幾つもの塊が、コロニス星を覆い尽くす。

マーズがいてくれたのなら。
この数でも2人で戦えば、フォボスとディモスのサポートがあれば、何とか乗り越えられただろう。
幾つもの炎の矢が焔の海を作っても妖魔は屍を平気で踏みつけて、次々と後から後から沸き出すように襲ってくる。
「戴冠式が終わるまで…死ねない」
この星で何が起こっても、それが月の王国へ伝わることは決してない。この星は、コロニスは誰にも存在を知られはいないのだから、ここでの出来事なんて、起こったことにさえならない。だけど、マーズには知られてしまうだろう。フォボスとディモスも傍にいる。彼女たちも母星の異変には気付くはずだ。

マーズを悲しませてはならない
マーズを傷つけてはならない
マーズの期待を裏切ってはならない
2人で恒久の平和を信じて、生きて行こうと誓った。愛し合っていることを証明するために、マーズ様は月の王国へと行かれたのだ

そして、必ず戻ってくると
その夢をコロニスに託してくださった
永遠にかなわぬ夢に憧れながら、生き続ける孤独な未来を


「私には夢がある!!!!」
部下が次々に妖魔の暗闇に取り込まれていく。コロニスは剣を振り回し、炎を次々と放った。

“マーズを捕らえよ”

違う
いえ、違わない

戴冠式が始まったような気配もこちらに届いていない。いつなのかがわからない以上、やつらにコロニスが影武者だとばれてしまえば、本物のマーズを探し求めて、この勢力で他の多くの星に襲いかかるかもしれない。万が一、火星にでも辿りつかれたら、あの美しい赤い星を黒く染められてしまうようなことがあれば。


2人で夢見た世界のために、コロニスとマーズは半神と離れたのだ

マーズを悲しませてはならない
今、死んでしまえば彼女を悲しませてしまう

だけど

影武者として殉職できるのであれば
星の使命を全うできるのであれば
マーズは喜んでくださるかもしれない

誰のために生まれ落ち
誰のために剣を持ち
誰を守るために多くの血を流してきたのか

そして今
セーラーコロニスとして、何をすべきなのか

死にたくはない
死ぬべきではない

それでも
マーズのための命ならば捧げることが愛だと知っている


力尽きた部下たちが、コロニスの命令なく妖魔たちを巻き添えにして命を落としてゆく。
大切な人を守りたいと思った時、時として自らの身体で敵を食い止めよと教えてきた。



“マーズを捕らえよ”


神殿の中に侵入してくる妖魔たち。コロニスは奴らに背を向けて、神殿の中心部にある淡い紅色のクリスタルの前に立った。

たとえこの星が塵と滅びても、銀河には何の影響もない。マーズは悲しんでくださるだろう。
鏡を見つめるたびに、コロニスを想い、嘆いてくださるだろう。
それでも、立派に務めを果たしたコロニスを誇りに想って……


マーズを守るためだけに生まれたのならば
マーズを、マーズが愛したものを守るために


「私はセーラーマーズ!誇り高き、銀河最強の軍神!」


剣を高く掲げた
共鳴するようにクリスタルが輝く
星の力の源、コロニス星の力の源

「私は私のすべてをかけて守ってみせる!」

平和な世界を2人で生きることが夢だった
だけど、それは永遠に夢なのだと生まれた時から知っていた

穏やかで平和な世界であるのなら、影武者という存在など必要ないのだろう
これから訪れる平和な世界にコロニスがいなくても、マーズは生きていける
柔らかくて優しい時を、月の王国で、穏やかに年を重ねていく


『私の姿が鏡に映し出されるとき、私はあなたを想い出すのね』



「………マーズ……」

コロニスは身体にのしかかる妖魔の重圧に耐えながらも、まっすぐに掲げた剣を下ろさなかった


マーズ
愛してる


できるのならば、あの腕で抱きしめられた感触を最期にして命を終わらせたいと……
影武者なのだから、最期は孤独に死んでいくことが宿命


「コロニス・クリスタル・パワー!!!!」


身体中を襲うどす黒い痛みを抱きながら、コロニスは声の限り叫んだ
背にしたクリスタルが光り満ち溢れ、足元から地響きが鳴る
星のすべての力を解き放ち、何もかもを焼き尽くす


マーズ
マーズ
マーズ



コロニスは胸を突き刺す慟哭に耐えきれず、マーズの名を叫んだ



妖魔の断末魔にかき消されても


愛を叫び続けた



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Date:2014/08/12
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